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邪神の牲  作者: あすか
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第13話 新たな町へ

 ――僕を町まで連れていってください。


 そんな僕のお願いをバッコスさんは聞き入れてくれた。


「ただし、今日はもう遅い。今日はここで休んで出発は明日の朝だ」


 どうやら僕は数時間どころか、半日近く気を失っていたらしい。

 一角猪(ホーンドボア)に殺されて、すぐに生き返っても、目が覚めたのはそんなに遅かったとか……ここまで遅かったのは初めてだ。


 そもそも、生き返るのと意識が戻る時間は毎回違う。

 父に蹴り殺されていた時や、檻の中で刺殺されていた時などは、生き返ってから意識が戻るまで、ほとんどラグがなかった。

 でも、母が殺された後は意識が戻るまで、手足を縛られ、猿ぐつわをされていたことから、結構時間が経っていたと思う。

 何か理由があるのか……今後のことを考えると、ちゃんと調べていた方がいいと思う。

 じゃないと、昨日の夜みたいに、疲れて自殺した後、そのまま何時間も目が覚めなかったら……そう考えたら、昨日の行為は結構危険だったかもしれない。


 しかし、今日この小屋で一夜を明かすのは……流石に追手のことを考えると危険すぎる。


「あの、できれば今すぐにここを出発……」

「駄目だ」


 僕の言葉を最後まで聞かずにバッコスさんが却下する。


 バッコスさんの話では、今から出発しても、町に辿り着くのは深夜。

 その時間だと、門が閉まっていて入れないらしい。


 なら、明日の朝一で町に入れるように……と言いたいけれど、夜の山は危険すぎるらしい。

 確かに昨日の夜は必死だったけど、暗くて歩きづらかった。

 それに、幸い魔物に出会わなかったけれど、鳴き声は聞こえてきた。

 そう考えると、無事に夜を越せたのは幸運だったかもしれない。


 いや、無事というか、何回か疲れを取るために自殺したけど。

 ……それも今考えると危険すぎる行為だったよなぁ。

 目が覚めるのが遅かったら、それこそ魔物の餌になっていたかもしれない。

 今更ながら自分の浅はかな行動に呆れてしまう。


 そもそも、バッコスさんがいるから自殺できない。

 となると、怪我も出来ないし、疲れも取ることが出来ない。

 その状態で夜の山を降りるのは危険すぎる。


「なぁに。この小屋はコータリアの所有物。バーバラの奴らはこねぇよ。仮に来たとしても、おれが追い返してやんよ」


 ……僕はワケアリとだけしか言っていない。

 なのに、バッコスさんは僕がバーバラの町から来ていることを知っている。

 もしかしたら、バッコスさんは僕の正体に気づいているかもしれない。


 ――でも、今の僕はバッコスさんを信じるしかない。


「おめぇさんも疲れてるだろう。一角猪(ホーンドボア)の肉でも食って、今日は休むといいさ」


 一角猪(ホーンドボア)の肉……僕はゴクリと唾を飲み込む。


 結局、バッコスさんの言う通り、今日はこの小屋で休んで、明日の朝に出発することにした。



 ****


 この世界で初めて食べた一角猪(ホーンドボア)の焼き肉の美味しさに満足してしまったからか、それとも母が死んでから二週間、初めて安全な場所で眠ることが出来たからか。

 それとも、バッコスさんの言う通り、本当に疲れていたからか。


 僕は朝まで熟睡をしてしまった。


 幸い何事もなく朝を迎えられたから良かったものの、もしバッコスさんが悪い人だったら、目が覚めた時バーバラの町にいてもおかしくなかった、

 まぁバッコスさんを信用すると決めたから安心しきっていたのだろうけど。


 僕は少し反省しつつ、バッコスさんと山を降りることにした。


 これでも夜の山を登ってきたから、昼の山を降りるくらいは楽勝だと思っていたが……道中はバッコスさんに付いていくのが精一杯。

 結局、途中で体力切れ。バッコスさんが僕を背負って移動することになった。


「……本当にすいません」


「まぁ、おめぇさんみてえな子供がこの山を越えるのは厳しいからな」


 気にするなとバッコスさんは言う。


「だが、おめぇさんは一人で生きていくんだろ? なら……もっと強くならねぇとな」


 そのとおりだ。

 自分が如何に甘かったかと自覚させられた。


 それからは何事もなく、夕方前にはコータリアの町へ到着した。

 外から見た感じだと、バーバラの町よりも大きく見える。

 入口には門番が立っており……町に入る人の確認をしている。


 ――もし一人だったら、僕は町の中に入れなかっただろうな。

 でも今は町の住人でもあるバッコスさんが一緒だ。


「よぉバッコス。……その子供は誰だ?」


 バッコスさんと顔見知りの門番が僕を見る。


「山で拾った小僧だ。一角猪(ホーンドボア)に親を殺されたらしい」


 バッコスさんが門番にそう説明する。

 流石に忌み子とは言えないし、ワケアリ……ってだけでは町に入れそうもないので、そういう言い訳をすると事前に決めていた。


 門番は僕を見て大変だったなと声をかける。

 どうやら信じてくれたみたいだ。


「んでだ。身寄りもないってことだから、ここまで連れてきた」


「なるほどな。ただ、この子はこの町の人間じゃないだろ? 町に滞在するとなると滞在許可証を発行しなくちゃな」


 町の住人が町に入るにはこの町の身分証があればいいらしいが、住人以外が町に入るには滞在許可証が必要らしい。

 滞在許可証がなかったら、物を買うことも、宿に泊まることも、仕事をすることも出来ないらしい。

 まぁ一々確認をしているわけではないらしいのだが……持っていないことがバレると、その場で捕まってしまうらしい。


 初めて町に入る人には説明も必要だから、発行まで二時間くらいかかるらしい。


「おれぁ終わるのを待っててもいいんだが……」


「どうせお前はいつもの場所で飲むつもりだろ? だったら俺がこの子を連れて行くよ」


 僕の滞在許可証を発行したら、この人の今日の仕事が終わるらしい。

 まぁ僕としては、バッコスさんと別れるのは少し心細いけど、バッコスさんを待たせるのも悪いし、バッコスさんもこの人を信頼しているみたいだ。

 だから……僕はバッコスさんと別れ、門番の人に付いていくことにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一つ良いことがあったり、一人良い人がいたりすると、その十倍悪いことが待っている予感。 母娘さんは(多分)良い人でしたが……バッコスさんと言うかこの町と言うか。なんか怖いですねぇ。 おっか…
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