第12話 信用できる人
……目が覚めたことに安堵する。
どうやら、なんとか無事に生き返ったようだ。
でも……あれから僕はどうなったんだろう?
一角猪は僕を食べたのだろうか?
それとも、殺しただけで満足して帰っていったのか。
「よう……目が覚めたのか?」
!? 全く知らない男性の声が聞こえた。
僕は慌てて飛び起きる。
そこにいたのは……知らない男性。
檻に入れられていた時にも見た記憶がない。
……僕を捕らえに来た追手?
それにしては、意識がなくても縛られたりしていない。
というか、ここは……僕が最後にいた場所と違う。
……家の中だ。
と、横には解体された一角猪が置かれている。
……この男性が倒したのか?
ってことは、もしかして助けてくれ……って!?
助けてくれたんだったら、僕が死んで生き返ったところを見ている。
たとえ追手じゃなくても、この人に僕が忌み子ってことがバレてるってことじゃないか。
僕は警戒心を強める。
「おおっと。そんなに警戒しなくても、別に取って食ったりはしねぇって。ただ……あの場で眠っていたら、危ないと思ったから、小屋まで運んだんだよ。その証拠に……おめぇさんの獲物を横取りしようとは思っていない。まぁ……ここまで運んだ手間賃と、解体料くらいは貰ってもいいだろ?」
横取り……? 何を言っているんだ?
運んだ手間賃ってのはともかく、解体料って……もしかしてこの一角猪のことか?
「そりゃあ、おめぇさんが苦労して倒した一角猪をかってに解体したのは悪かったと思っているさ。でもなぁ……おめぇさんは気を失っているし、あのまま血抜きもしなかったら、肉が駄目になっちまうからなぁ」
「……僕が一角猪を倒した?」
この人が倒したんじゃないのか?
「ん? 一角猪の雄叫びが聞こえたんで、やって来たら、角が折れて死んだばかりの一角猪と、気を失っていたおめぇさんしか居なかったんだが……おめぇさんがやったんじゃないのか?」
角が折れて……あっそうか。
僕は檻に入れられていた時のことを思い出す。
父の仲間たちが、槍で僕を刺して遊んでいた時、槍を抜く前に死んだことがあった。
すると、生き返った時に、まだ僕の体内に刺さっていた槍の穂先はポッキリと折れていた。
いや、折れていたとは少し違う。
槍の穂先が無くなっていたんだ。
おそらく体を再生する時に、体内にあった不純物を消し去ったってことだろうけど……結局、槍の穂先は完全に消滅してしまった。
それ以来、父の仲間たちは、槍をすぐに引き抜いていたから、二度目はなかったけど……そっか。
一角猪に刺されている間に死んで……生き返ったから、一角猪の角が消滅したんだ。
「確かに一角猪の角は僕がやりましたけど……」
「やっぱそうじゃねぇか。一角猪は角が折れると死んでしまうからな」
……そうだったんだ。
聞くところによると、一角猪だけでなく、有角系の魔物は角に魔力を溜めているため、角が折れると死んでしまうそうだ。
「そんで、折った角はどうした? この辺りを探しても、見当たらなかったんだが……」
「いえ、僕も夢中だったので……どこかに吹き飛んだと思うんですけど」
僕の体内で消滅しました……とは言えない。
「ふ~ん。まぁしょうがねぇか」
納得したのか、疑っているのか分からないが、これ以上、角に関して詮索するつもりはないようだ。
ようやく話がみえてきた。
僕が一角猪に殺された後、一角猪も角が無くなって死亡。
その死亡する際の雄叫びを聞いてこの男の人がやって来た。
男は気を失っている僕を見て、このままだと危険だと思い僕をこの小屋まで連れてきた。
その際、一角猪の血抜きと解体も済ませておく。
そしてこの人は、僕の住んでいたバーバラの町の住人ではなく、山の向こうにあるコータリアというの町の住人で、バッコスというらしい。
この小屋は、コータリアの人達が山で狩りをするために建てた休憩所らしい。
別の町の人なら、僕が忌み子だと知らないだろうし、バッコスさんが僕を見つけたときには、すでに生き返った後だから、バレていないと思う。
というか、忌み子だとバレていたら、この小屋まで連れてこないだろう。
そもそも、気を失っていた僕を無視して、一角猪だけ持ち帰れば、独り占めできたのに、それをしないってことは……この人はいい人なのかもしれない。
――この人は信用できるかもしれない。
ただ、それも僕が普通の子供だと思っているから。
もし僕が忌み子だとバレたらきっと……絶対にバレないようにしよう。
「んじゃまぁ、獲物の分配について話をしようじゃないか」
素材となるのは一角猪の肉と毛皮、それから牙と骨。
基本的にこの素材は全部倒した僕の物らしいが、ここまで運んだ手間賃と、解体した手数料を払えってことらしい。
「まぁ肉に関しては、今回は殆ど諦めるしかねぇだろうな」
この世界は魔法がある代わりに科学が発達していない。
日本みたいに車があるわけでもないし、保存方法もない。
町に帰る前に腐ってしまうだろう。
だから、獲物は基本的に生け捕りにして持ち帰る。
僕が入れられていた檻もそういった理由で作られていたようだ。
一応、燻製にしたり、干し肉にはしているみたいだが……流石に全部は無理らしい。
そもそも、干し肉が完成するまでに数日掛かるらしい。
数日もこの小屋にいたら……追手に見つかってしまう。
というか、僕が一角猪と戦ってから、すでに半日近く経過している。
本当なら今すぐにでもここから出ていかないといけないんだ。
「僕は一角猪の素材は入りません」
僕がそう言うと、バッコスさんが勘違いしたのか慌て始める。
「お、おいおい。おれぁ別に恩を着せて全部貰おうなんて考えて……」
「あっいえ、そんなつもりで言ったんじゃありません」
さっきも思ったが、独り占めするなら僕をここに運ぶ必要はない。
そもそも僕は自分で一角猪を倒したって実感はないし、そもそも今は逃げている途中なのだ。
ここで荷物になる素材を渡されても、どうしようもない。
肉は……少し食べたいとは思うけど。
「その代わり……バッコスさんにお願いがあります」
「お願いだぁ?」
「ええ。僕を……バッコスさんの町まで案内してください」
正直、町に入るのは危険かと思ったが……バッコスさんは僕を忌み子だと気づいていないようだ。
なら、別の町なら僕が忌み子だとバレる可能性は少ないだろう。
あまり近くの町で生活するのは危険だから、情報集めと準備だけして遠くへ逃げる準備をする。
「……ワケアリか?」
僕はコクンと頷く。
ワケアリだと思われても忌み子だとバレなければいい。
そもそもワケアリじゃないと、子供が一人で山に入り一角猪と戦ったりしない。
それに……今の僕にはバッコスさんを頼ることしか出来ない。
今までの行動でバッコスさんは信用できる。
僕はそう信じるしかなかった。




