第10.5話
主人公と別れた後の母親視点です。
「ねぇママ。あのおにーちゃん、大丈夫かなぁ?」
帰宅途中、リリちゃんが心配そうに尋ねる。
正直、あの子が本当に無事に逃げおおせることは難しいと思う。
道沿いに進めば、見晴らしがいいから、すぐに見つかる。
だから、あの子が逃げるには山に入るしかない。
でも、あたしが準備できたのは最低限の食料と着替えだけ。
そんな装備で山に入るなんて自殺行為もいいところ。
たとえあの子が忌み子だとしても……捕まるのは時間の問題だと思う。
仮に逃げおおせたとしても、あんな子供が一人でどうやって生活していけばいいのか。
仕事もない、お金もない、住む家もない。
さらに忌み子だとバレないようにしなくてはならない。
そんな生活――あたしだって生きていける自身がない。
それでも……それでも逃げおおせてくれたらと思う。
「ええ。きっと大丈夫よ」
だから、あたしはリリちゃんを不安がらせないように精一杯の笑顔で答える。
それは、あたしの願望でもあり、それをリライラも望んでいるだろうから。
「そっかぁ。良かったね」
リリちゃんもあたしの言葉に安心したように笑顔になる。
今リリちゃんが笑顔なのも……全部リライラのお陰。
あの時のリライラは、あの子をあのクズ男から守りながら……それでもリリちゃんを助けてくれたのだと。
それがどれだけ大変だったことか……今ならよく分かる。
あたしには最後まであの子を助けることは出来なかったけど……それでも、リライラ……あたしは少しでもアンタに恩返しができたかね?
そうであってくれたら嬉しいんだけれど。
そう願い、わたしはリリちゃんと仲良く手をつないで帰宅した。
だから……あの子と別れ、もう大丈夫だと安心したあたしは、最後まで見られていたことに気づかなかった。




