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邪神の牲  作者: あすか
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第10話 町の外へ

 檻から助け出された僕は、縛られた状態のまま町外れへ。

 死角になった場所でようやく降ろされた。


「リリちゃん。誰か来たら教えてね」

「はーい」


 リリと呼ばれた女の子が隠れて通ってきた通路の監視を始める。


「まずは話せるようにしないとねぇ」


 大きな声は出さないで、と言いながら、母親が僕の猿ぐつわを外す。

 ああ……二週間ずっとつけっぱなしだった猿ぐつわがようやく外れた。


「あ……あいがほ……」


 ありがとうと言いたかったが、ずっと口が開きっぱなしだったので、うまく声が出せない。

 ……恥ずかしい。


「ふふっどういたしまして」


 よかった。礼は通じたみたいだ。

 そう思ったら……突然母親に抱きつかれた。


「大変だったね。辛かったろう……もう大丈夫。よく頑張ったね」


 その言葉に……抱きしめられた温もりに……


「あ……あああああ……」


 タガが外れたように涙が止まらなかった。

 母親は僕の声が外に漏れないように、僕の頭を自分の胸に押し付ける。


「よしよし……本当は落ち着くまでゆっくりと泣かせてやりたいんだけど……」


 母親の困った声に、僕は泣くのを止める。

 そうだ。今は泣いている場合じゃない。


「すいません。もう大丈夫です」


 僕は涙を拭い、ハッキリと答えた。


「よし、強い子だ」


 母と同じ優しさを持つこの人を見て、母のことを思いだし、また泣きそうになるのをグッと堪える。


「あの……どうして助けてくれたんですか?」


 僕は一番気になったことを聞いてみる。


「うちの子……あそこにいるリリちゃんが可哀想だから助けてって言ってね」


 僕はリリの方に視線を移す。

 リリもこちらを振り向いて……ニコッと笑った。


「それに、あれじゃあリリちゃんの教育にも悪いからね。忌み子だからってあんな行為……人のすることじゃないよ」


 僕がいた檻は、もともと魔物を入れるための檻。

 牢屋みたいに家の中にあるわけではなく、外に置かれていた。

 おそらく中央街からは離れているようだが、誰でも見ることができる場所だから……子供の教育に良くないことは分かる。

 というか、子供にも石投げられたしな。


 それでも……教育に良くないってなら近づかせなければいいだけ。

 僕を助けたりしたら、この母娘も危ないんじゃ……


「それと……リライラはリリの恩人なんだよ」


 数年前、リリが病気にかかった際に、治療費がなくて病院に通えないところを母が助けてくれたのだそうだ。

 リリを診察し、病名と治療法、更にはお金まで貸してくれた。


「リライラもお金に困っていたのにね。自分のことはいいからって……今リリちゃんがあんなに元気なのも、全部リライラのお陰だよ」


 僕の世話で大変だったろうに、その上人助けまでしていたなんて……僕は母のことが本当に誇らしいと思った。


「たとえ忌み子でも、リライラに育てられた子が、リライラを殺すわけがない。あの男の嘘なんだろ?」


「かあさ――母は僕を庇って……」


 僕はあの時の状況を簡単に説明した。


「……あの男は本当にろくでなしだね」


 僕の説明を聞くと吐き捨てるようにいった。

 かなり怒っているようだ。


「元々あの男には悪い噂しかなかったんだ。だからリライラには早く別れるように言ってたんだけど……」


 僕がいたから別れることが出来なかったと。


 というか、聞くところによると、どうやら僕の父は無職ではなく、この町の暴力団組織の一員だったらしい。

 みかじめ料を払わない飲み屋を脅したり、借金を返せない家庭から女性を風俗店で働かせたりと好き放題やっていたらしい。

 この暴力団は町にかなりの影響力を持っているらしく……町長も逆らえないらしい。


 だから、あんな非人道的なことをしても、誰も何も言わないのか。

 ……というか、僕を殺した人の中には、父に恨みを持っている人もいそう。


「だから……すまないけど、あたし達が助けてあげられるのはここまで」


 このまま僕を匿ったり、助け続けることは出来ないと。


「いえ、檻から助けてくれただけで十分です」


 母への恩返しのために、危険を犯して僕を助けてくれたんだ。

 感謝しかない。


「植物で隠れていているけど……そこの壁が壊れていて、小さな抜け穴があるんだよ。そこから抜け出せばこの町を出られるはずだよ」


 元々町を出るつもりだったから、出られる方法があるのはありがたい。


「それから最低限の荷物は壁の向こうに準備してるから、持っておいき」


 何から何まで……。


「本当にありがとうございました」


「いいかい。この町から出られても、忌み子ってバレたらその時点で終わりだからね。気をつけるんだよ」


「……はい」


 絶対に忌み子だとはバレないようにしないと。


「じゃあ、あたし達はもう帰るから。さっ、リリちゃん。見つからないように帰るよ」

「うん。おにーちゃん。頑張ってね」


 リリがこちらに向かって手をふる。

 俺がそれに答えて手をふると……満足したのか、笑顔になって、二人はこの場所から去っていった。


 ――母以外にも優しい人はいるんだ。

 そのことが嬉しくもあり……そして、悲しくもあった。

 同じように優しくしてくれた母はもう居ない。

 本当なら母と二人でこの町を脱出するつもりだった。


 それなのに……でも、このチャンスを逃したくない。

 絶対にここから逃げ出して……そして、いつか復讐するために戻ってくる。


 ――かあさま。ごめんなさい。

 かあさまは復讐なんて考えないでって言ったけど……それはできそうもありません。

 僕は父を一生許すことはできないでしょうから。

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