第1話 この理不尽な世界にさようなら
この世界は何でこんなにも理不尽なのだろうか。
何で自分だけこんなに不幸なのか。
何で自分だけこんなに損しているのか。
何で自分だけこんなに貧乏くじを引くのか。
みんなと同じように暮らしていただけなのに。
僕と彼らで何が違うというのだろう。
きっかけは何だったのだろう?
……どれだけ考えても、思い当たる節はない。
どうせ僕のことが気に食わないとか、どうでもいい理由なんだろう。
高校に入って……気がつけば、クラス全員からイジメの対象になっていた。
暴行や恐喝は日常茶飯事。
教科書はボロボロだし、机の引き出しに汚物や虫の死骸が入っていたこともある。
靴箱に靴を入れていたら無事だった試しがないので、常に持ち歩かないといけない。
それを見てニヤニヤと笑っている奴も、そして関わり合いになるまいと、見て見ぬ振りを決め込む奴。
担任ですら、イジメの加担をしている。
どうやら僕一人を犠牲にすれば、クラスが円滑に回せると思っているらしい。
……くだらない。
未だにこんなイジメが存在していることもそうだし、こんなことをして何が楽しいのか。
本当に理解に苦しむ。
最初こそ僕も反抗していたが、反抗すればするほど更にイジメが酷くなるので、最近はずっとされるがまま。
正直、登校せずに学校を辞めたり引きこもることも考えた。
だけど、それも許されない。
なぜなら、家にも僕の居場所なんてないのだから。
結構な会社の社長である父親は、僕のことを出来損ないと蔑む。
母親も優秀な弟にのみ愛情を注ぎ、俺を居ないものだと完全に無視している。
その優秀な弟も俺のことを疎んじて嘲け笑う。
僕だって、成績は平均よりも上なんだが、この家族にとって、成績はトップでなければ全て落ちこぼれ。
僕は実の親にも弟にも家族とは認められていなかった。
ただ、家族と認めていなくても、世間では僕がこの家の息子だと知れ渡っている。
そんな僕がイジメが原因で引きこもりになればどうなるだろう。
世間体を気にする家族が、許すはずがない。
僕がどれだけイジメられようが、その事実を公にするなと。
ましてや不登校なんて不名誉なことは絶対に許さないと。
結局、家でも外でも地獄の僕にとって、この世界のどこにも居場所なんてなかった。
だから、こんな理不尽な人生は、今日で終わらせる。
僕が一年以上かけて、コツコツと集めたイジメの証拠――音声データや映像データ。
そして家族が僕に対してやってきた仕打ち。
そのすべてを記した日記。
これを動画サイトに全てアップロードする。
高校三年生の一月……受験シーズンまっただ中のこの時期に。
……考えただけでもゾクゾクする。
この一番いいタイミングのために、わざわざ一月まで我慢したんだ。
これが広まれば、どうなるだろうか。
就職や推薦が決まっているクラスメイトは、内定を取り消しになるかもしれない。
残りのクラスメイトに至っては受験すら難しいだろう。
担任だって、責任をとることになるだろう。
家族だって、被害者じゃなく加害者だと知られれば、世間の評判も地に落ちるはずだ。
そんな奴らの絶望に満ちた表情を想像するだけで楽しい。
奴らの目の前で高笑いして、自業自得だと……ざまぁと言ってやりたい。
だけど、僕が直接それを言うことはできない。
なぜなら、僕はもうすぐ死ぬから。
奴らが一番苦しむためには……被害者である僕が死ぬこと。
被害者が生きているか死んでいるかで、世間の受け取り方は大違いだ。
仮に僕が生きていても、奴らに社会的制裁をすることはできる。
それこそ、直接ざまぁと言うことも。
でも、僕が死んでいたほうが、より奴らが酷い目にあうだろう。
それならば、僕は奴らにより復讐できるように、自ら死を選ぶ。
――せめて来世ではいい人生を送れますように。
そう願いながら、僕は学校の屋上から飛び降りた。