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「とまぁ、ゲームに関するザックリとした説明は以上になりますね。この説明会が終わり次第、皆さまは元の世界に戻りますが、その際にゲームアイテムも一緒に転移させます。目が覚めたら足元をご確認してくださいね。アイテム一式が落ちてると思いますので。ゲームアイテムの使い方や詳細なルールは元の世界に戻ってから、自分の目でご確認ください。
それから報酬の異世界転移の件です。まぁ、異世界は並行世界のようなものですから、無限対数にも近い数の異世界が存在するわけです。それはつまり、皆さま一人一人が所望する理想の世界、例えば『勇者と魔王が存在する世界』とか『日の出と日の入が当たり前のように行われる世界』とか『魔物もいない平和な国が存在する世界』、『魔法がない不便な世界』なんてのも存在するわけです。何が言いたいかと申しますと、ターゲットのデリートに成功したプレイヤーの願いは必ず叶うから、めげずに頑張ってください、とわたくしなりのエールを送りたかったわけですよ。頑張ってくださいっ、皆さま!」
彼女は両手を使ってガッツポーズのような形を作り、見えない百人を鼓舞した。
「……さてと、ココから先はわたくしなりのアドバイスになりますので耳を貸すなり無視するなり、お好きにしてください」
意識だけの百名に対してそう言うが、百名は彼女の言葉を聞くことしかできないわけで、つまり、耳を貸す他ないのである。
彼女はアドバイスを話しはじめた。
「皆さまの世界を調べたところ、『魔術』や『スキル』の研究、使用が盛んであることが分かりました。ターゲットは大陸一つを滅ぼすほどの強者。配布されたゲームアイテムに頼るだけでなく、既存の魔術やスキルを駆使することこそ、ゲームクリアの鍵になるとなるでしょう。
そしてもう一つ。『マモリ』なんて呼ばれている厄介な衛兵組織の存在です。調査期間は短かったですが、彼らの戦闘技術や捜査能力は極めて高いことは一目瞭然でした。無計画なアイテムの使用は、ゲームの存在を明るみにする要因になりかねません。マモリがゲームの存在を知り、警戒態勢に入れば、ターゲット殺害難易度は跳ね上がることになります。くれぐれも、マモリにはご注意ください」
彼女はドレスのスカートを手で払う。付着した雪を払うような仕草だが、彼女の体にはそもそも雪すらも触れないので、仕草の意図は不明だった。無意識の癖、なのかもしれない。
「アドバイスは出そうと思えばまだまだありますが、とりあえず以上の二つだけにしておきましょう。もう、身体の震えが止まらないんですよ……この寒さでね? わたくし自身、この震えの中、よく頑張りましたよ。自分で自分を褒めてあげたいくらいです」
「よって、今回のプレイヤー集会は終了としますよ」雪も付着しなければ息も白くならない彼女は、体温の低下を口実に、一方的な集会終了の宣言をする。「異論反論は聞きません。不明な点はゲームを通じて、自分で理解してください。もうわたくし、限界なんです」