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「これも、純異世界産。名称は『ミミック』。主な用途としましては、物の収納やターゲットの心臓を収納する際に使用するものですね。今は小さな箱ではありますが、操作を行えば大きな箱に変形して役立つようになるので、こちらも、操作説明書を一読していただくようお願いいたします。
そして次に、皆さまのターゲット殺害の補助アイテムとして最も大事な物であろう、異世界の道具。通称、『アイテム』でございます」
女性は手の平に箱を乗せ、説明を続ける。
「アイテムはこちらのミミックの中に収納されています。全百種類。万人が大好きなガチャ要素を取り入れてみたので、誰がどのアイテムに当たるかはミミックを開けてからのお楽しみ、となっています」
そう言って、ミミックという名称の小箱を袋内に収納した。「アイテムの効果はそれぞれ違いますから、要説明書ですよ」と、もう既に彼女の決まり文句とも言える言葉を付け足した。「それからもちろん、アイテムも全て、純異世界産です」こちらも決まり文句のようだ。
「さて、駆け足に進めてきましたが、次が最後です。その名も、『十の掟』。こちらはゲームの失格要素などが絡んできますので、かいつまんでですが、説明致しましよう」
心の底から嫌そうに顔を歪め、袋から一枚の羊皮紙を取り出す。
「……では、読み上げますよ。
一。プレイヤーはゲームを辞めてはいけない。
二。ターゲットの非殺傷などを考えてはならない。
三。配られた三つのゲームアイテムは大切に扱わなければならない。
四。指定された都市内でしかミミックは使用できない。
五。主催者であるわたくしを殺そうとしてはいけない。
六。ゲームの存在を無関係な者に公表してはならない。
七。大義名分も無しにアイテムを用いて無関係な者を攻撃してはならない。
八。ミミックの破損は許されない。
九。異世界転移するプレイヤーが複数発生してはならない。
十。失格となったプレイヤーは今後ゲームに関与できない。
と、以上の十項目となります。しかしこれらは、あくまでも要約した文章なので――」
後ほどルールブックの再読をオススメ致します、と彼女は、彼女らしいと思える言葉を付け加えた。「大丈夫、車両免許の筆記試験ほど複雑な記載方法ではないので、難しく考えないでくださいね」冗談っぽい微笑みを添える。
ハァと一息吐く女性。冷たい外気の中にも関わらず、彼女の息は白く染まらない。そもそも彼女が話している間、彼女の息が白く染まることなど、一度もなかったのだ。加えて不自然な点がもう一つ。舞い散る雪が彼女の体に付着したりすることなく、透過して、地に落ちているのだ。
もしかすると彼女は、雪積もる大広間に姿だけを映し出しているような、ホログラム然とした存在なのかもしれない。