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「前置きが長くなりましたが、それではいよいよ、ゲームの内容について説明していきたいと思います。フリップやプレゼン用スライド等はありません。全て口頭となりますので集中して聞いてくださいね」
準備不足のまま講義を進める講師よろしく早口に説明を開始した。
「異世界転移権争奪ゲームは、わたくしが指定したターゲットをデリート、つまり殺害、をするミッション系のゲームとなっております。ゲームの間、ミミック、アイテム、コンパスと、三つのゲームアイテムの使用や十の決まり事がございますが――」
暗記してきた台本をそのまま読んでいたかのように話していた彼女だったが、自分を取り囲む、見えない百名の雰囲気が一変したことに気づいて、あれ、と暗記文の朗読をストップする。
「八割ほど、顔色が険しくなられましたが、いかがなさいました?」彼女の声音がより優しいものに変わる。
「……って、『殺害』の部分が引っかかったのですよね」彼女はうーむと頭を抱える。人殺しも厭わないような奇人百名を集めたつもりだったのに、とブツブツぼやいている。「人らしい部分は残っているというわけですか」小声で言い、大きなため息を一つ吐いて口を開く。
「安心してください。殺害するのは、この城、この国、果てはこの大陸一つを滅ぼした超極悪人。ユア・ポーカという名の、女です。煮て焼いて喰って殺そうが、誰も咎めはしない大罪人なのですよ」
仮面から覗く彼女の瞳は遠くを見据え、忌々しそうに細くなる。他人目に見ても私怨を滲ませていることは明らかで、「失礼」とルール説明を中断して私怨を滲ませてしまったことを彼女は詫びた。
「そうですね。ならば殺害するゲーム、だとかデリートミッションだとかの言い方を変えましょう。皆さまには、お願い、をするのです。悪の滅殺。皆さまが心を痛めることはない、正義を伴うお願いです。そのことをしっかり念頭に置いておけば、罪の意識など発生しようがないでしょう?」
コホンと咳払いをする。独りぼっちに見える大広間内に、彼女の咳払いは思いの外、反響した。
「皆さまの緊張が和らいだところで、ルールの説明に戻ります。まずは三つのゲームアイテムの紹介です」
彼女は足元に転がっている麻の小袋を取り上げて、中から黒い羽根を取り出した。羽毛布団に詰められているような、小さな羽根だ。
「こちらは純異世界産。名称は『コンパス』。地に落とすと羽根の先端がターゲットのいる方向に向き、ターゲットの位置を教えてくれる、文字通り、導です。また、ターゲットとの接近距離が五百メートル以下になると、神隠しの機能が使用可能になります。神隠し機能とは、発動している間は、ターゲットとプレイヤーの皆さま以外を対象に、ありとあらゆる世間の視線から姿を隠す機能でございます。この機能を使用することで、殺人罪に問われる危険がなくなるというわけです。他にも、毎月行われるプレイヤー集会へのチケットとしても使用しますので、取り扱いは慎重にお願いいたします」
羽根の詳しい使い方については付属の説明書をご参照ください、と詳細説明の責任を説明書に投げ、コンパスと呼ばれる羽根を袋の中に収納する。収納してすぐに、次は親指サイズの極小の箱を摘み出した。コンパスの説明は終了し、次の説明に移る気なのだろう。集められた者たちの疑問に思った点などを無視した、たしかに一方的な説明会だ。