0-2
そこまで言って、女性は自分の顎に手を当てて中空を仰ぐ。ポンと手の平を叩き、つまりですね、と人差し指を立てた。
「今現在、皆さまは透明人間と幽霊をミックスしたような姿になっているというわけです。一応、主催者のわたくしの視点では、皆さまの姿を認識することができるようになっていますが、皆さまの視点からは、わたくしの姿しか見えず、しかも、いくら意見を述べようが、わたくしにも、他の人の耳にも届かないようになっています。こういった仕様にしたのは、皆さまの、プライバシー保護のためと、初回説明会を一方的、もとい円滑に進めるためでございます。ご了承ください」
女性曰く、声高らかに独り言を発していたわけではなかった。自分を取り囲む、見えない百名に向かって話している、とのことだ。が、真実を把握したとて、女性が一人で話をしている現状は、奇妙なことには変わりない。
女性は「ちなみに、幽霊要素を混ぜたのは、わたくしにも、皆さま互いにも、この舞っている雪をはじめとする様々な物体にも触れることができないからです、あしからず」と口角を上げた。「皆さまの中には女性もらっしゃるので、痴漢対策といったところです」
「さて、先も口述した通り、今宵集まっていただいたのは初回の説明会を皆さまに行うためでございます。いったい何の説明会なのか。答えは簡単、皆さんご存じ、待ちに待った、異世界転移権争奪ゲームのルール説明会でございます」
両手を広げる。声高らかに発した声は、静かなる夜天に飲み込まれてしまい、大広間内にそれほど反響しなかった。
「ゲームに参加してくれる百名様の厳選、並びにゲームに使用する物の準備などで相当な時間をくってしまいまして、皆さまのいた世界の日付で言えば十月の一日。ようやくゲームの開始に至ったのです。いやはや、応募していただいてから、大変お待たせいたしました」
申し訳なさなど微塵も示さず、女性が続ける。
「えー、意識しかない皆さま、つまりは気温を感じることができない皆さまには分からないかもしれませんが、見ての通り、この大広間の気温は大変、低い状況にあります。わたくし、この寒空の下、ドレス一枚なのですよ。先程から平然と喋ってはいますけれど、今すぐにでも火にあたりたい気分なのでございます。次回からは焚火でも焚いておきましょう」
わざとらしく二の腕を摩って見せる女性。彼女の服装は、肩を露出させたセクシーなドレス姿で、寒さと、ついでに言えば動きにくさがウィークポイントになる服装だった。
「故に、一方的に、もとい円滑にルール説明を終わらせようと思ったわけです。そのためには、皆さまの意見やざわつき等のような進行を妨害する要素の排除、そして」
彼女は空に浮かぶ白銀の月を指差して「この世界を説明会の会場に選び、実際に異世界に転移できる、ということをあらかじめ証明しておき、『異世界転移』という報酬の存在を確固たるものにしておいたのです」
指を下げて彼女は微笑む。目論見通り、余計な野次が飛んでこないことや、一方的な進行ができていることに満足しての微笑みなのかもしれない。なので、この集会が終了次第、皆さまは元の世界に帰ることになります、と言って、さらに言葉を続ける。