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異世界を望む者たちよ  作者: 実 助宏
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0:希望をばら撒く死者

 一部あたり平均1200字(文庫本見開き程度)で区切っているので、ぶつ切り感は否めません。ご了承ください。

 その場所には、零れ落ちるほどの巨大な月が浮かぶ夜空から、絶え間なく、しんしんと雪が降っていた。空から舞い落ちた雪は地表面に積もり、夜空の黒と、雪の白が混ぜ合わされて、銀色の景色を作り出している。


 幻想的と表現しても差し支えない、銀色の、その場所には、さらに幻想性を追加してくれる建造物が存在した。外壁が崩れ、すっかり衰退し、荒廃を極めた古城である。


 青白い空、銀色の大地、月明りと淡く舞い落ちる雪に装飾された古城。雪が舞い落ちているからこそ実物だと理解できるが、仮に、この情景に雪が降っていなかったら、一枚の絵の中に入り込んだのだと錯覚してしまうかもしれない。


 この場所はそれほどまでに美しく、そして、時という概念にすら置き去りにされたのではないかと思えるほどの静寂に包まれていた。


 忘れられた雪原の古城、といったところだろう。


 そんな古城の一室。


「かつてこの土地は、雪も降らないような、温暖な気候だったのですが」


 繁栄していた頃には、ダンスホールとして使用されていただろうと想像できる城内の大広間。シャンデリアでも飾られていただろう天井は、崩れ落ちてしまい、屋内にいながらにして夜空を展望できるようになった大広間に、程々に活気が含まれた女性の声が響いた。


 広間の中央。積雪によってできた白い絨毯の上に、鮮血のように真っ赤なドレスを身に着けた女性が、夜空を仰ぐようにして立っていた。周囲の雪にも負けぬくらい美しい白髪のミディアムヘアに、赤薔薇の髪飾りを付けた若い女性だ。足元には、麻の小袋が転がっている。


「さて」女性は視線を空から外し、一八〇度、身体を反転させた。「やぁやぁ、異世界を望む百名のプレイヤーの皆さま。ようこそ、いらっしゃいました」


 両手を広げ、高らかに声を上げる女性。


 真っ赤なドレスの彼女は、例えば仮面舞踏会で使われるような、華やかなベネチアンマスクをかぶっていた。たった今から、この場でマスカレードが始まっても、彼女なら問題なく対応できるだろう。


「ふふ、皆さま何が起きたのか分からない、といったご様子ですね。まぁ、美しい月夜を展望できるなんて、皆さまにしてみれば初めての経験でしょうし、無理もございませんよ」


 女性は、相変わらず広間の中央に立って言葉を紡いでいる。


 周囲には、彼女以外の人の姿が見当たらないのに、だ。


「この場所、いえ、今いるこの世界、というべきですかね。この世界は、そうです、ご察しの通り、皆さまが元々いた世界とは違う世界。ご存じ、皆さま大好き、異世界というものですよ」


 朗らかな笑みを溢す彼女。対象に、腹部の前で組んだ指をモジモジと蠢かせている。まるで、大ホールのステージで演説を行っている最中の緊張を現す仕草のように見えるが、周囲に誰もいない現状で緊張を起こしているというのは、奇妙な話である。


「ふふっ」女性は自分の周囲をキョロキョロと見まわして、口元に手を当てる。


「皆さま、ザワザワしていますね。もっとも、このざわつきは、わたくしにしか認識できない喧騒。何故ならば、この大広間に集められた百名の皆さまは、意識こそ、大広間という空間内に存在できているものの、姿かたちは存在できていないからです」


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