【短編】月とシャチ
Pixivにて「ペンネーム改名記念作」として同作品を投稿しております。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13116363
なろうサイトでは本作品で、「月織 かおり」としてデビュー致しましたので、本作品を事実上デビュー作とします。
執筆は趣味として始めました。
至らぬ点は多いかと思いますが、どうか温かく見守っていただけたら幸いです。
【なろうデビュー作】
【テスト投稿】
【短編】
月とシャチ
1:伝説の月
“シャチの女神”
タウカ・マカの海に伝わる古い伝承。
ある満月の晩に、シャチの姿の女神が海上に舞うという。
「じゃ、行ってくる」
返事は無いと解っておきながらも、無言の部屋にしばしの別れを告げるのが少女の日課だった。
浜辺には波が寄せては返り、月明かりに照らされたティキの木像が不気味な笑みを浮かべている。
桟橋から小舟で漕ぎだしながら、昔祖母が話してくれたおとぎ話を思い出す。
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古い星の命が尽きる夜、
女神はシャチの姿をとり、満月の海上を舞う。
月明かりに照らされた飛沫は新たな星となり、百年の夜を再び照らしだす。
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今夜はこの伝承の日から百年目の夜であると、島に遺された書物にそう書かれていた。
2:真実のシャチ
小舟はタウカ・マカのとある海域に着いた。
「クジラの眠る海」と言われるこの一帯はタウカ・マカの海で最も深い海域と言われており、その名の通り世界各地の海から集まったクジラの遺骸が不思議にも流れ着いては沈み、静かに横たわっているのだという。
その深淵と日の光も届かぬ暗黒から、島に流れ着いた先祖が畏怖の念を込めてそう名付けたそうだ。
シャチが月の高さまで飛び上がる深さの場所と言えば、少女の覚えている限りではここしか無かった。
時間が流れ、月は少女の真上に座った。
その時、急に波が荒れだし、海の底から力強く美しい咆哮が轟いた。
海面が弾け、青白く輝く一頭のシャチが海上に飛び出した。
目が合った。
力強さと優しさを湛えたその瞳に見つめられ、少女は不思議な感覚を覚えた。
まるで自分が月のように高い位置から海を自分の命を眺めているような、そのような不思議と壮大な気持ちが胸に溢れる。
シャチは海に着水したのち、再び少女の前に姿を見せることは無かった。
月明かりに照らされた飛沫は星の如く夜空を飾る。
単なるおとぎ話では無かったのだ。と、この一瞬で少女は自覚した。
新たな百年の幕開けに立ち会った奇跡を女神に祝福され、白くなり始めた空の下、真実を胸に抱いて帰路に着く。
少女はいつしかこの伝説と真実を一つの物語として書き記そうと、休息の眠りに誘われる寸前まで想っていた。