とある兄妹の話
とある兄妹の話
「ねえ、お兄ちゃん」
「うん、なんだい?」
「これから何をしに行くの?」
「お札を納めにいくんだよ」
「なんで?」
「さあ?風習だからね」
「ふうん?」
私は言葉楓。こっちは兄の言葉伊吹。お兄ちゃんは、どうやら私にしか見えないらしい。なんでも、生まれてくるときになにかあって、私にしか見えない存在になったとか。ついでに言うと私とお兄ちゃんは双子である。お兄ちゃんのことはうちでは禁句だ。お母さんが泣くから。泣かなくてもここにいるのにー。ついでに言うと一応弟がいるので跡継ぎ問題は大丈夫。お兄ちゃんとお話する時は独りぼっちで誰もいない時。これはお兄ちゃんとの約束だ。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
「うん、なんだい?」
「この着物似合うー?」
「うん、楓の柄が楓によく似合うよ」
「あはは、なんだか紛らわしいねー」
「紛らわしいねぇ」
神社までの一本道を行く。お兄ちゃんは少し寂しそうな表情。…なんでも、お兄ちゃんはこれからお札を納めた後は私にも見えなくなるらしい。そんなの嫌だよと駄々をこねたが決まったことなんだとか。ちぇー。
「夜が来る前に帰らないといけないよ」
「わかってるよー。それに今お昼だもん。そんなにかかんないよー」
「ふふ、そうだね」
お兄ちゃんがいたずらっぽく笑う。これは何かあるな?
「すみませーん、七五三のときにもらったお札を納めにきましたー」
「よしよし、よく言えたね」
「あらあら、一人で偉いわねー」
「えへへー」
一人じゃないもーん。
「じゃあ気をつけて帰るのよ」
「はーい!お巫女様ありがとう!」
「お礼が言えて偉いね」
「あら、お礼が言えて偉いわねえ」
「えへへー」
お兄ちゃんに褒められたー!るんるん気分で神社の階段を降りる。
「楓、ちょっと待ってな」
「え?なあに?」
「最後にいいもの見せてあげるよ」
お兄ちゃんがそういうとあたりに靄がかかって、靄が晴れると全く違う場所にいた。
「わー!お兄ちゃん、ここどこー?」
「神の国だよ。これからお兄ちゃんが暮らす国。楓にも一度だけなら見せていいって」
「お兄ちゃんありがとー!」
よくよく周りを見てみると妖怪さんや神さまがたくさんいた。みんなお酒を飲んだり踊ったりしてる。わーい!お祭りだー!
小豆洗いさんが、わっ!て驚かして来たり、塗り壁さんがお酒やお菓子を勧めてきたり。あ、お酒とお菓子はお兄ちゃんに取り上げられました。尺八さま?って言う大っきい人がお兄ちゃんに言い寄ってくるから撃退したり、くねくねって人が変な踊りをしたり。一反木綿って人がお空まで飛んで連れて行ってくれたり、わいわい楽しく過ごした!でも、これが終わったらお兄ちゃん見えなくなっちゃうんだよね。やだなー。
「さ、楓。そろそろ夕方だから帰らないとね。お兄ちゃんは一足先にここで待ってるから、楓は寄り道して長生きしてから来るんだよ」
「…お兄ちゃん、やっぱり一緒に帰ろうよー」
「だめだよ。聞き分けて、楓」
「…じゃあ私もここに」
「それはもっとだめだ」
お兄ちゃんは真剣な目で訴えかけてきます。お前は生きろと。そう、私は能天気なフリをして、本当はわかっていたのです。お兄ちゃんが他の人に見えないその理由を。
「…待っててくれる?」
「うん」
「…迎えに来てくれる?」
「いつかね」
「…見守っていてくれる?」
「もちろん」
お兄ちゃんは安心させるように私の頭を撫でてきます。…よし!
「…行ってきます!」
「気をつけて帰るんだよ」
その後はまた靄に包まれ、靄が晴れると神社の階段を降りているところでした。
「お兄ちゃん、だーいすき!」
神社の階段を降り切る前に最後にそう叫びます。もう返事は返ってきません。そこからは振り返らず、真っ直ぐに家に帰ります。
いつか迎えに来てくれるその日まで、お兄ちゃんの分まで精一杯生きていきます。だから、見守っててね、お兄ちゃん!
いつかまた会える日まで