どうも聖女です。貴公子攻略はしません。悪役令嬢は攻略します。
最近の乙女ゲームって悪役令嬢とか出てきますかね
まず先に述べると、ここは異世界。所謂乙女ゲームの世界。乙女ゲームという存在を知った暇な女神が、暇つぶしにそれに似せて作った世界だ。もっとも、女神はこの世界に干渉することはない。人間達の描く紋様をただ楽しむだけだ。例え乙女ゲームのような展開をヒロイン役に選ばれた少女がぶち壊しにかかっても、女神は優雅に手の中のワイングラスを揺らしながら高みの見物を決め込む。
…らしいですが、これどうしましょう。
はじめまして、こんにちは。私、空道南はごく一般な、ごく一般的な高校生です。この度、突然異世界とやらに召喚されました。私を召喚したこの国の王太子殿下曰く私は聖女らしく、聖女の祈りをこの世界で一年の間だけ捧げて欲しいと。聖女の祈りは魔王の封印の期限を延長させるものらしく、無辜の民を守るためにどうしても必要だと。一年の聖女の祈りが終わったら時空の歪みを利用して私をちゃんと元の世界の召喚後すぐの時間に戻してくれると言った。でも、私が希望するならこの世界に留まってもいいとも。
ということで、正直巻き込まないで欲しいと思いつつも無辜の民を守るため早速聖女の祈りを捧げ…たら、その後急に頭が痛くなって冒頭の知識が入ってきた。女神様勘弁してください。
とりあえず、私は聖女の祈りを毎日神殿で捧げた。王太子殿下や魔術師団長令息、騎士団長令息、宰相令息、聖王猊下の御令息が毎日神殿に遊びにきた。あと、時々王太子殿下の婚約者も来る。祈りの時間は一時間だけなので、それ以外は聖女教育という私を表舞台に出しても恥をかかない、かかせないための時間に当てられていたのだが、彼らが来ると一時中断される。それは彼らが高い身分の者だから…だけではない。どうもこの国の人間達は私に元の世界に帰って欲しくないらしく、ちょうど地位も高く顔立ちもいい彼らが私に召喚の儀で初めて会った時から一目惚れしていたため、私に彼らをあてがっているらしい。
いや、他4人はともかく、王太子殿下には婚約者おるやん。しかもこの国で公爵家序列第1位のお家のめっちゃ美人でぼんきゅっぼんで教養のある大人のお姉さんやん。クレア・シュバリエ様、この世界に来て戸惑うことの多かった私を唯一『聖女様』としてじゃなくて私、ミナミとして扱ってくれて友達になってくれた大恩人だよ?めっちゃ優しいんだよ?私と同い年とは思えないほど大人なんだよ?
けど、あのアホ王太子殿下はクレア様のことを毛嫌いしているらしい。親の勝手に決めた許婚だとか、優等生ぶっていて腹が立つとか、王妃になりたくて無理矢理婚約者になっただとか、言いたい放題。私が全力でクレア様はそんな方じゃないと否定すると面白くなさそうに顔をしかめる。一方でクレア様は、レオン様(アホ王太子。レオンハルト・ベゼッセンハイト)が今日もかっこいいとか、レオン様は冷たいようだけど本当はとてもお優しい方とか、レオン様に一目会った時からずっとお慕いしているとか、レオン様が私を良く思えないのは私の努力が足りないからだとか、レオン様のご機嫌を伺うけれどレオン様は私が側にいると途端に不機嫌になられるから…とかもう健気すぎて泣けてくる。クレア様は公爵令嬢としての矜持を捨ててはいないけど、アホ王太子のせいで自信を無くしている。なんとかならないものかと思ったが、私には何も出来なかった。
何もできないからこそせめて愚痴くらい聞こうと思って、神官さんに最高に美味しい紅茶を淹れてもらい、最高に美味しいお茶菓子を用意してもらった。クレア様にレオン様の愚痴なんてなかなか言えないでしょう、神殿でなら秘密のお話も出来ますから聞きますよと言うと、初めは戸惑いがちに、でも一度不満を言うと堰を切ったように次から次へと不満が出てくる。
曰く誕生日プレゼントやバースデーカードなんかもらったことすらないと。え、まじかと思ったけどまじらしく、クレア様は目に涙をためていた。
曰く将来の夫婦となるべく開かれるお茶会の席も早々に退散してしまうと。あのアホ王太子!クレア様は手を握り締めていた。爪が食い込みそうだったのでそれは止めた。
曰くパーティーなどでもエスコートは最低限だけだと。一応するにはするんだ、よかった…。でも本当にダメダメだなアホ王太子…。
次から次へと愚痴が溢れていくなかで段々とクレア様の表情が変わっていった。途中からアレ?という顔をし出して段々と能面のような表情になっていった。
「…ねぇ、ミナミ様」
「はい、クレア様」
「私、あの方に依存する必要ないですわね?」
「ないと思います」
まあ、公爵様がどう思うか知らないけれど。
「…実は、この婚約はレオン様が将来良き王となられるため、公爵家の後ろ盾を欲してのもので、私やお父様の望んだものではないの。むしろ、王家の方から請われて結んだ婚約よ。レオン様はなにか勘違いされているようだけど」
「あっ…じゃあもう公爵様に今の状況を説明して婚約破棄してしまった方がいいのでは?」
「お父様はとっくに知ってるわ。婚約破棄だと息巻いているお父様を私が止めていたの。けど、もうその必要はないわね」
ばさっと扇子を広げるクレア様。おー、美しい。
「私、あの方とは婚約破棄をして素敵な方を選ぶわ。男なんていくらでもいるもの」
「その意気です!さすがクレア様!」
その後、アホ王太子はクレア様や公爵家に見放されて、怒った公爵様の手により王太子位剥奪。離宮に幽閉。第二王子が王太子となり、まだ婚約者の居なかった彼がクレア様の新たな婚約者になった。二人は同い年なのでちょうどいいと思う。アホ王太子と違って誠実なようだし。
「じゃあ、私は元の世界に戻りますけど、皆様お元気で」
「本当に行くのか、聖女様」
「聖女様、行かないでください!」
「ここに残って俺と結婚していただけませんか」
「僕が貴女を幸せにしたい。どうか留まってください」
「ごめんなさい、向こうにいる家族を見捨てたくないの」
「…ミナミ様」
「クレア様」
「貴女のおかげで、私は幸せになれます。ありがとう」
「いえいえ、そんな」
「向こうでもどうか、お元気で」
最後にクレア様と抱きしめあってから、魔方陣の上に乗る。
「みんな、ありがとう。クレア様、大好きでした」
「私こそ。大好きよ、ミナミ様」
そうして私の異世界転移は幕を閉じました。
そもそも主人公以外の女性はみんなモブなイメージありませんか




