悪役令嬢はヒロインを登場させない。
最初からヒロインがでしゃばらなければいいってお話
私が悪役令嬢?ならばヒロインの出番を奪ってしまいましょう。
「本当に、本当にありがとうございます!ヴィス様!感謝しても感謝しきれません!」
「いいえ、いいのよクレールさん。私は、貴女達平民の幸せを誰よりも願っているんですもの。もし感謝してくれるというのなら、どうか毎日を平穏に幸せに過ごしてちょうだい?」
「ヴィス様…!」
「見送りありがとう。幸せになってね」
「本当に、本当にありがとうございました、私、幸せになってみせます!そして、いつかヴィス様に御恩返しをしてみせます!」
私の見送りに来てくださった彼女にお礼を言い、ほっと息を吐く。これで、私は完全に悪役令嬢の役割を返上出来たはず。
はじめまして、ご機嫌よう。私、ヴィス・グランと申します。公爵令嬢ですの。そして…この乙女ゲームの世界の、悪役令嬢でしたの。
私には前世の記憶があります。その記憶では、私は平民でありながら恵まれた環境におり、女子高生という立場にあり、乙女ゲームというものにハマっておりました。そのうちの一つがこの世界。そして私は、前世では呆気なく病気で儚くなり、この世界に転生しました。
それに気づいた私は、悪役令嬢にならないために一生懸命に頑張りましたわ。まず、家庭環境。乙女ゲームでは、父は仕事人間、母は愛人を囲い、弟は両親から愛されない私を蔑むようになる…のですが、私、頑張りましたわ。マナーや教養は、前世の知識フル活用で天才と言わしめ、パスしました。そして仕事人間の父に必死に媚を売り、愛人を囲う前の母に必死に愛を乞い、生まれてきた弟には必死になって優しく振る舞いました。
結果、私の家庭環境は乙女ゲームの設定とは違い、仲良し家族と呼べるものになりましたわ。優しく子煩悩な父、穏やかで暖かい母、姉様姉様と慕ってくれる弟。私自身も、乙女ゲームの設定の傲慢で横暴、嫉妬深い女にならず、慎み深く優しく、領民達の幸せを誰よりも願う聖女のような少女を演じましたわ。
その結果、乙女ゲームの設定では嫌々婚約者になるはずのグロリユー・フィリップ王太子殿下から婚約を乞われ、リユ様からたくさん愛され、幸せな少女時代を送りました。
そして、私は学園に入学する歳になりました。学園に入学しても、リユ様とはラブラブで、それはもう学園内の憧れの的だったのですが、私には懸念が一つ。
これから転入してくる予定の、ヒロインさん。クレール・パルフェ様。クレール様は、元は平民。しかし、実はパルフェ男爵の妾腹の娘なのです。そして、平民のお母様と共にある日、強盗に襲われるのです。そこでクレール様自身はお母様に守られて無事逃げ出せますが、お母様は亡くなります。お母様に隠されて逃げ出す時に、クレール様はお母様にパルフェ男爵のことを初めて聞かされ、お母様亡き後パルフェ男爵を訪ねて、跡取りの男子はいれど、政略結婚させる女子はいないパルフェ男爵家に養子として引き取られるのです。妾腹の実子ということは隠されて。
もし、乙女ゲームの強制力が働いたら。もし、クレール様が現れるせいでリユ様から嫌われたら。もし、同じく攻略対象者である弟から嫌われたら。…そんなこと、許せませんわ。ならばヒロインの出番を奪ってしまいましょう。
ということで、私はクレール様とお母様が強盗に襲われる日、「たまたま」「平民の暮らしぶりを抜き打ちチェックするため」護衛の騎士を数人連れてクレール様の住む村に行き、「たまたま」「良さそうな家を見つけたため」クレール様の家に泊めていただきました。そして強盗は本当にクレール様の家に押し入ってきましたが、私の護衛の騎士によって呆気なく捕まります。そして、冒頭に戻りますわ。
「ヴィー!強盗に襲われたんだって!?大丈夫かい!?」
「リユ様。ええ、無事ですわ。またこうしてリユ様の側に戻ってこれて、幸せですわ」
「ああ、よかった…!」
私をぎゅっと強く抱きしめるリユ様。もう、可愛いお方なんですから。
「これからはもう、なるべく僕から離れて行動してはいけないよ?僕が側にいられない間に君が危ない目に合うなんて、僕には耐えられない」
「リユ様…ええ、善処致しますわ」
「愛しているよ、僕のヴィー」
「私も、お慕いしておりますわ。リユ様」
こうして悪役令嬢は、ヒロインに成り代わりましたわ。みんな幸せな大団円ですわ。
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