予言書を書いた悪役令嬢
予言書を書いた悪役令嬢
私の最後の悪あがき
初めまして、ご機嫌よう。私はアイリス・ルーシー・キャンベル。公爵令嬢ですわ。私、実は所謂悪役令嬢ですの。
順を追って説明しますと、まず、私は所謂異世界転生というものをしたようなのです。前世で川で溺れた子供を助けて溺死した結果、好きな世界に転生する権利を得られたのですわ。そしてこの世界で目が覚めましたの。大好きな乙女ゲームの世界。しかし、私はヒロインではなく悪役令嬢に転生していたのですわ。でもその後、私は皆から愛されてすくすくと健やかに成長できたんですの。正直私には悪役令嬢になんてなる理由もありませんわ。…でも、いくら攻略対象の皆様の不幸、トラウマのフラグを折ろうとしても、ゲームの強制力なのかどんどんドツボにはまってしまうんですの。
だから、私考えましたの。
ー予言書を作りましょう!
…ということで早速、お父様におねだりして名のある小説家の方に来ていただきましたわ。そして、彼に私の知るこの乙女ゲームの詳しい設定を語り、小説にしていただきたいとお願いしましたの。正直、貴族や騎士の方の本名が出て来る小説を書いていただけるのか不安でしたが、幸いにも小説家の方は協力的でしたわ。
「いやいや、アイリス様は天才的ですな。こんなに素敵なストーリーを考えてしまわれるなんて!しかし、このストーリーを小説化すると、アイリス様が悪女のように見られてしまうのでは?」
「ええ、ですからこれを私の名前を使って世に出して欲しいんですの。私は攻略対象の皆様にこんな不幸を味わって欲しくない。だから小説という形でこの予言書を世に出したのだと」
「ふぅむ。わかりました。他でもない、こんな面白い小説を私に書かせてくださるアイリス様がそう言うなら喜んで」
これがフラグ折りに失敗し続けた私の最後の悪あがき。どうか上手くいきますように。
ー…
あれから数年。結果から言うと、予言書によるフラグ折りは成功しましたわ。小説は飛ぶように売れ、攻略対象の皆様の元にも届きました。「私は攻略対象の皆様にこんな不幸を味わって欲しくない。だから小説という形でこの予言書を世に出したのだ」という噂付きで。
それもあり、本人達が自分で不幸、トラウマのフラグを折りに行ったことでフラグは折れましたの。私のフラグ折りの苦労は水の泡でしたが、皆様がご無事でなによりですわ。それに、小説の中で飢饉が起こることにも触れていたので、平民の皆様も十分な蓄えを備えてくれて、飢饉は回避されましたわ。私は予言書の聖女として民からも慕われるようになりましたの。そして、攻略対象の皆様と仲良くなれましたの。
「アイリス嬢の予言書が無ければ俺たちは今頃不幸のどん底だっただろう。ありがとう、アイリス嬢」
「あらあら、うふふ。でしたら、是非私のお友達になってくださいませ」
「ああ、もちろんだ」
そして学園生活が始まりましたわ。そして当然のようにヒロインさんが登場しましたわ。でも、皆様からの評価は愛らしいご令嬢ではなく変わったご令嬢でしたわ。なんでも、折にふれ攻略対象の皆様に言い寄ってくるそうですの。乙女ゲームでは起きていたはずの、攻略対象の方の不幸やトラウマを慰め、しつこく言い寄ってくるとか。その不幸やトラウマは回避されていましてよ。しかも、自分で教科書をぐしゃぐしゃにしたり、荷物をばら撒いたり、水浴びをしたりした後必ず、攻略対象の皆様と一緒にいるためそこにいるはずのない私の名前を出して虐められたと言ってくるのだそう。私は攻略対象の皆様と一緒にいたと言っても、取り巻きのご令嬢を使って虐めてくるのだと言い張るとか。ああ、やっぱり予言書を作っておいて正解でしたわ。皆様、すぐにヒロインさんが予言書の通りに動いて攻略対象の皆様を堕とそうとしていることに気付いてくださいましたし、ヒロインさんが私を陥れようとしていることにも気付いて私を守ってくださいましたもの。それに、この件のおかげで攻略対象者の一人、侯爵令息のリアム様との仲はより良いものとなりました。今では恋仲で婚約者、お互いを気にかけ合い尊重できる間柄になりましたの。本当によかったですわ。
ご自分で不幸のフラグを折っていただく。それも一つの選択肢ですわ。
ヒロインさんも転生者
ただし学園からスタートなので予言書を知らずに墓穴を掘る