男装令嬢は恋を知る
男装令嬢は恋を知る
昔、約束したんだ。彼女を、いつか迎えに行くと。
僕はジョージア・レイチェル・デイビス。伯爵令嬢だ。が、訳あって男として育てられていた。伯爵令息として相応しくあれ、と。…十五歳も年の離れた弟が出来るまでは。
もちろん、正統な後継者が生まれたのは喜ばしい。しかし、僕はずっと「僕」として育てられてきた。今更令嬢らしくしろと言われても、土台無理なわけで。大体令息として受けていた教育と令嬢として受けるべきだった教育とではあまりにも違う。一体僕にどうしろと言うんだ。
それに、昔、約束したんだ。彼女を、いつか迎えに行くと。僕が令嬢になってしまえば、それは叶わない。絶望しか感じられなかった。
…結局、僕はとある侯爵令息と婚約者になることになった。彼女を、迎えに行くことは叶わなくなった。
当然といえば当然だが、僕のような特殊な令嬢の婚約者も特殊なご令息らしい。どうも、そのご令息も何か理由があってご令嬢として育てられていたらしい。…そういう意味では、僕らは分かり合えるかもしれない。愛のある結婚にはならないだろうが、それなりの家庭は築けるかもしれない。…それでも僕は、彼女を忘れることは出来ないだろうけれど。
彼女との出会いは、あるお花畑。可愛らしい女の子が、お花摘みをしていた。あまりにも愛らしいその姿に、僕は自然と声をかけていた。僕と彼女はすぐに親しくなった。なんだかわからないけど、僕らはお互いに親近感を持っていたから。すぐに「ジョル」「アリー」と呼び合うようになった。でも、別れはすぐにきた。僕らはお互いに、夏休みの間に避暑地に遊びに来ていた身。夏休みが終わってしまえば、離れ離れだ。そこで僕は約束したんだ。彼女を、いつか迎えに行くと。彼女は喜んで首を縦に振ってくれた。甘酸っぱい、初恋の思い出。ああ、でも。それももう叶うことはないのだ。
だから、驚いた。婚約者を紹介された時には、本当に驚いた。「彼女」の名前はアレクサンダー・アリソン・フランシス。…彼女は、アリーだった。
「ああ…嘘…そんなことって…!」
「アリー!」
「ジョル!」
僕らは強く抱きしめあった。そして感動の再会の余韻に浸ると、僕は片膝をついてアリーに乞うた。
「僕の花嫁になってくれますか?マイレディ」
「もちろんよ…!」
それから僕らの婚約どころか結婚話はとんとん拍子に進み、今に至る。今日は僕らの結婚式だ。
「幸せだね、アリー」
「そうね、ジョル」
叶わないと思っていた恋が思わぬ形で叶った。僕はこの幸運を無駄にしないよう、全力でアリーを幸せにしようと思う。
そしてもう一度恋に落ちる