お爺ちゃん
義理でも家族は家族
私の実家は男爵家です。家族構成は両親と姉五
人に弟一人。 姉弟仲はとても仲良しでした。ですが両親は跡取り息子である弟ばかりを可愛がり、姉達や私は良家に嫁がせるための道具としてしか見られていませんでした。一応その為の淑女教育は受けさせてくれました。それは救いでしたが、いずれは政略結婚させられる身。それに何の意味があるのか、と思う時もありました。そして、姉達は十七歳になると爵位の高いお爺さんの後妻にされたり、裕福な商家のおじさんの後妻にされたりしました。そして、私も十七歳になった時、裕福で爵位の高いお爺さんの後妻になりました。
私からは持参金を。夫になるお爺さん、トーマス様からは実家に結納金、私に寡婦財産を差し出しました。そして結婚式を挙げ、夫婦になった私達。私は愛のない結婚をして、これからどうなるのだろうと不安になっていました。でも、トーマス様はにこりと優しく微笑んで言いました。
「私には跡取りの子供もいるし、無体なことをするつもりはないよ」
「それよりも、こんなお爺さんの後妻にしてしまってすまないね」
「大丈夫。息子達も君の立場に理解があるからね」
「勉強だって好きなだけしていいんだよ。亡き妻の形見ではあるけれど、色々な本もたくさんあるんだ」
「ほら、おいで。書庫を見せてあげよう」
そこには、私にとっては宝の山。たくさんの本がありました。私は思わず、トーマス様に許可を得て本を読み耽りました。それはそれは充実した時間でした。気が付いたらお夕食の時間になっていました。そしてトーマス様は私を書庫まで迎えに来てくれました。
「気に入ってくれたようでよかった」
私はすぐにトーマス様にお礼を言いました。そうするとトーマス様は、これからここは君の城だよ、と言ってくれました。その日から私はまるで孫のようにトーマス様に可愛がっていただきました。
その後トーマス様の息子さん達やお孫さん達にもお会いしました。結婚式の時にもお会いしましたが、その時にはあまり言葉を交わさず、挨拶程度でした。嫌われているかな、疎まれているかな、と思っていましたが、全然そんなことはなく、快く受け入れてくれました。
「いやー、義母上も父上の奥さんとか大変だねー」
「おばあちゃん、なにかあったらすぐマリーにそうだんしてね」
「おじいちゃんがおばあちゃんにいじわるしたら、マーカスがやっつけてあげるー」
「はっはっはっ、これは手厳しいなぁ」
私はそこでようやく安心してぽろぽろと泣いてしまいました。そんな私を新しい家族はみんな温かく受け入れてくれました。
夜の営みなどもなく、孫のように可愛がっていただいて、数年。もはやトーマス様…お爺ちゃんのいない生活など考えられなくなっていたある日。それは唐突に起こりました。お爺ちゃんが突然の心臓発作で亡くなってしまいました。
跡継ぎであるマークス様が諸々の手続きをしてくださっている間も、私はお爺ちゃんの柩に縋り付いて泣いていました。心無い方々はああやって取り入ったのか、などと酷いことを言っていましたが、それよりもお爺ちゃんが亡くなったことがショックで全然気になりませんでした。それに、マークス様やマリーちゃんやマーカスちゃんが私の代わりに怒ってくれたので、それでもう十分でした。
その後数ヶ月経ち、マークス様とお話ししました。
「あのさ、お節介かもしれないけど、義母上の再婚相手を探してきたんだ。年齢も近いし、悪い話じゃないと思うんだけど、どうかな?」
「マークス様…ありがとうございます」
「とっても良い人だよ」
「はい」
「とりあえず会ってみる?」
「わかりました」
「じゃあ今度呼んでくるよ」
その後、再婚相手を紹介されて驚きました。幼馴染のレオンだったのです。レオンは幼い頃からずっと一緒に育ち、私の初恋の人でもありました。まだ物事をよく理解していなかった時に、結婚の約束をしたこともありました。
「レオン!」
「迎えにくるのが遅くなってごめんな。あの時の約束を叶えに来た」
「レオン…私…!」
「俺の花嫁になってくれますか?マイレディ」
「レオン…!」
私は思わずレオンに抱きつきました。マークス様もマリーちゃんやマーカスちゃんも祝福してくれました。
そして時は流れて早数年。私とレオンは夫婦として幸せに暮らしています。子宝にも恵まれ、可愛い男の子が一人と、可愛い女の子が二人います。
「ねえ、レオン」
「ん?」
「幸せね」
「そうだな。お前を大切にしてくれたトーマス様のおかげだよ」
「お爺ちゃんには頭が上がらないわ」
「本当にな」
「パパー!シエルがいじめるー!」
「ちがうよー!ミアとアイラがいじめるんだよー!」
「パパー!ママー!」
お爺ちゃん。お爺ちゃんのおかげで、私は今すごく幸せです。これからもお爺ちゃんとの思い出を胸に、幸せに生きて行こうと思います。どうかまた会える日まで、私達を見守っていてね。
お爺ちゃんはきっと笑顔で見守ってくれます