第13話 元魔法使いと妹エルフ
僕は目を醒ますと、エリスが起きていた。
その時間はまだ朝日が昇っておらず、夜の帳が上がり始める頃、出かける支度をしてエリスは扉を出て行った。
僕は嫌な予感がした。エリスが朝食を準備したのか、それを一気に掻き込む。そしては騎士本部へ急いだ。
膨大な魔力の持ち主は時々魔力により、未来予知のような事が出来る。僕もそこまででは無いけれど、嫌な予感は良く当たるのだ。外れたらそれでいい。エリスになにか悪い事が起きないようにしたい。
僕は騎士団に到着すると、エリスが騎士団本部の中に入っていくのが見える。訓練場の隣だが、エリスのような美人が他にこのぼろい建物に入る訳がない。
「おい、なにやってる?」
「あ!にんじん先輩!」
「ネルだ!言い加減覚えろ!」
縦長の顔のちょっとちゃらいであろう先輩は騎士訓練の恰好をしていた。どうやら日が昇ったばかりなのに訓練をしていたようだ。努力家である。
「こんなところで何してやがる。しかもこんな早い時間に」
「え?先輩だって。それに僕はエリス師匠が早く起きてどこか出かけたので気になりまして。そしたら本部の中に入っていきました。きになりませんか?」
そういうと、エリスにデレデレなニンジン先輩は顎に手を当てて考え込む。そして直ぐに頷きにやりと笑う。
「よし、ちょっくら見てみるか」
「え?」
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にんじん先輩に連れていかれた場所は物見櫓だった。騎士団の訓練場の一角に立っている物見やぐらは直ぐに司令部に報告出来る位置と高さに櫓が立っていた。
その櫓から本部の3階を窓から覗き込むに、エリスと騎士団長が話していた。どうやら朝から深刻な話をしているようだ。
『妹は?見つからない?』
『ああ、だが、手掛かりは見つけた』
『そう、その手掛かりは?』
『ああ、取り合えずこの写真を見てくれ』
どうやらエリスに騎士団長は写真を見せているようだ。近年発明された、クリスタルの板に、目の前の風景を本物そっくりの絵を映す板だ。この写真一枚撮るのに結構費用が掛かる。
「無理か。おい、まだいるのか?」
「………」
僕は遠見の魔法と空気振動を風魔法で耳まで届かせていた。
『ほら、お茶だ。取り合えず今どこに監禁されているか探している。もう少し待て』
僕は見た。そのお茶に何か入れていたのを。そしてそのお茶をエリスさんが飲もうとしている。仕方がない。僕は土魔法でお茶が入っている湯飲みを壊す。
『きゃ!?あっつい。写真は無事。』
取り合えず無事だったようで、僕は胸を撫でおろす。エリスに妹が居てどうやらつかまっているらしい。その写真には、牢屋のような場所にエリスさんそっくりの女の子が映っていた。
「おい、チビ。どうした?」
「え?いや、なんでもないです。あ、いや、先輩!」
「あ?」
「この近くに檻なんてないですよね?」
ダメ元で聞いてみる。もし僕がうっかり妹を救えばエリスさんは僕の事をもっと好いてくれるかもしれない。そのための布石だ。
「ああ、地下に牢屋はあるぞ?」
「ありがとうございます!」
僕はエリスの所まで急いだ。
「師匠!」
僕が家の方から歩いて来る。わざわざ今来たという事を装ったのだ。
「おはよ」
「おはようございます。朝ごはんだけ用意して先に出るなんて何かあったんですか?」
「ああ、次の任務。また戦争が始まる。いつものやつ」
いつものというのは、ソルティアとルナールの戦争だ。一年中戦争しているが、死者は少ない。負傷者は大変多いけれども。簡単に言うと、両国ともに、金稼ぎの戦争だ。商人達が裏で糸を引き、しかも兵士達もいつもの戦争という事で、殺し合いという意識が低くなっている。
「嘘」
「え?」
「師匠が嘘を付く時は僕の目をしっかりと見る。そして癖で右手で髪を弄る」
「っっ!!?」
エリスは驚き、目を開く。
「トラブル。犯罪。殺人。強盗。誘拐。誘拐…。母。姉。妹。妹。監禁。場所は分かっているのですか?そう、ですか。では探すの手伝います。」
「ちょ、ちょっと!なんで分かった!?」
「師匠の事は何となく分かります。顔に出やすいので」
真っ赤な嘘でーす。妹の監禁という事実を知った為、確認しただけだ。これで妹探しの口実と、どこを探してて偶々《・・》見つけた事にするのかの布石を打った。
実は魔力の反応で既に見つけていたのだ。それが、牢屋の方からの魔力だった為に無視していたのだった。
「じゃあ行ってきます。」
「ちょっとまって!危ない!」
「大丈夫。直ぐ連れ戻して来るから」
僕は身体強化の魔法で訓練所の中に入る。エリスを振り切ると、牢屋のあるところまでくる。
中に入る時に看守が立ちふさがる。
「なんだ?坊主。」
「騎士団副団長、エリスフィール様からの使いです。」
「ほほう、お前が噂の雑用新人か」
「なんですか!その不名誉な名前は!?」
泣きそう!でも今それどころじゃない。看守は道を開ける。しかしついてくる。
「どうして付いて来るのですか?」
「監獄の中の案内と、監獄の鍵は私が持っております。一応話をする監獄の者との…」
看守は急に眠り出す。崩れ落ちる前に声を掛けておくかな。
「え?看守?大丈夫ですか?ねえ!看守!?」
「きを……つけ…」
気を付けろと言おうとしたのだろう。僕が心配している振りをしたのなら、僕以外の者だと思うだろう。取り合えず看守をそこに寝かす。催眠魔法『スリープ』。
その様子を見ていた監獄の極悪人達は歓喜に震える。看守を眠らせる。つまりは脱獄の手助けをしてくれるという事だと勘違いさせたらしい。
「おい!坊主!その鍵でここをあけえへあへ…」
周囲の捕まっている人を眠らせる。脱獄させる積りは毛頭ない。
牢屋が整然と並んでいる中、突当りの壁まで向かう。すると…。
「はぁ~」
溜息が聞こえる。どうやらスリープが効かない魔力耐性が高い者がいたようだ。その人物を見ると…。
「あ!」
「はぁ…あ?」
見知った顔がそこにいた。ソルティア王国の魔術師元副団長だった。僕が団長で暫く補佐をしてもらっていたのだ。新しい副団長はむかつく奴だったが、この副団長はとても良くしてくれた人だったのだ。
僕に気が付いて、首を傾げる。今僕は白い髪を黒に塗りつぶしている。
「ハルシオン副団長?」
「アー坊か?こんなところで何してやがる!?」
僕の事に気が付いたようで、檻を掴むと叫び出す。僕はジェスチャーで静かにと合図すると、ハル副団長はコクコクと頷く。
「ここで捕まっていたのですね。ほら、空きましたよ。」
「いや、なんでここに。いや、それよりも脱獄した事がバレたら…」
「ほほい、その辺の死体で偽装しとくね。これでハルシオン副団長は死にました。あなたは第二の人生を僕と行きましょう!」
僕は時間もないため直ぐに死体をハルシオン副団長の髪色と同じ青に塗り替え、ハルシオン副団長の髪を赤に変える。服も軍服を魔法で再現してみる。二時間だけはその場で再現され、時間が来ると消えるという魔法だ。『クリエイト』という。
「かたじけねぇ」
ハル副団長が着替えている間に僕は壁を透過させる。そして壁の向こうに目的の人がいた。
「え?誰?」
鈴が鳴るような声の少女は怯えたような顔で僕を見るのだった。