第91話 ゆう子はネズミがお嫌い 後半
どどど…どおしよう…
あの二人は殺られちゃったし、あたいは足が竦んで動く事もままならない状況。
主様から危なくなったら逃げろと言われているけど、まるで蛇に睨まれた蛙の様に動け無いの…
落ち着けあたい…
あたいは深呼吸して萎縮する心を落ち着ける。
アシは…まだダメみたいだけど手は…動く…
攻撃の準備をしながらマネキンを観察する。
人間サイズまで巨大化したネズミ。
姿形はネズミなのだけど、グレーのスーツを着込んだ姿に首には金のネックレス。両手には色とりどりの宝石を嵌め込んだ指輪そして耳にはネズミのデザインをした金のピアス。
あのピアスは18金…いや…24金かも…
それと、右手の中指に嵌めてあるサファイアの指輪のデザインはステキだと思ったのは秘密ね。
と…まぁ…金持ち趣味丸出しのマネキンに対峙するハメになったあたいだけど、接近戦は絶対にしたくないから一定の距離を保ちつつ、物質創造で創り出したクナイを連続で投擲してみる。
「どぉ〜こ投げてんだよぉ〜〜〜下手くそめぇ〜〜〜」
喋り方はああでもやはりネズミであるマネキンの動きは早い。
俄仕込みのあたいのクナイでは掠りもしない。
でも、それで良い。
あたいの狙いはマネキンにクナイを当てるのではなくマネキンの周囲の地面と空間。
掛かった!
クナイで形成された陣に素早く霊気を送り込み印を結び…
発!!
陣が光り輝き現れたのは主様お得意のトリモチ結界。
通称ネズミ捕り。
妖縛陣系の術は今のあたいには無理だけど、このトリモチ結界は然程エネルギーを必要としないからと教えられた非常に便利な術。
まぁ、妖怪相手とは言え本当にネズミ相手に使用するとは思わなかったけど。
「ウォッ!な…なぁ〜〜んだコレェ〜〜」
マネキンが暴れれば暴れる程絡みつく霊糸で作られた結界。
コレでマネキンの動きは奪った…後は…どおやってとどめを刺すかなんだけど…
やっぱりムリィー!
ネズミの半径3m以内には近寄りたくないよぉ…
効果時間は約3分なので、その間にトドメを刺さなきゃなんだけど、核が何処に有るかも解らないしそもそも近寄ろうとするだけで足が竦んでしまう。
その時…
ザクッ!!
突如としてマネキンの背後目掛けて飛んできた一振りの日本刀がマネキンの背中に刺さり貫通する
予想はしていたけど流石は妖怪…あの程度の攻撃では死なないんだ。
でも、痛がっている所を見ると痛覚は有るのね。
「い…痛いんだなぁ〜〜っと…ここ…こんなモンで私を倒せるとでも思っているのかぁ〜〜〜!!」
なんて…悠長に観察して居る場合はない。
既にトリモチ結界は効果時間が切れ、自由になったマネキンが日本刀を引き抜き傷の再生を始める。
ン?刀が体を貫通している筈なのに何で血が出ないの?妖怪の血は青いと主様から聞いていたから再生中とは言え、青い液体がドバドバ出てもおかしくは無いのだけど…もしかして何かを依代として作られた分身体なのかな…って事は痛がっているのは演技なの?
「ゆう子ちゃん
危ないからもうちょっと下がってね」
とか考えていたら突如として出現するブルーとイエロー…って貴方方さっき食べられちゃった筈…どおなってるの?
等と考えていたら傷を再生させた筈のマネキンが急に苦しみ出した。
「特別製の人形のお味はどおだった?」
「もう、返事も出来ない筈だ…」
原型を保てない程にドロドロに溶けていくマネキン…ってアレは…金?マネキンの正体って金塊だったの!?
先程のブルーとイエローは妖怪の死体と金を溶かす王水で作られた操り人形であったの。
てか、あんな演出しなくてもトットとやっつけてよ!凄く怖かったんだよ!?
「アレはヤツお得意の金分身ってヤツで本体は何処かで見ている筈よ」
「アイツは恐ろしく用心深くてな
バカ正直に戦っていたら俺達の方が殺られかねん」
先程のマネキンは金塊を依代に作り出した金分身である事が判明したのだけど、なんて贅沢な分身なの?貴重な金をそんなものに使うなよと思っていたら
「金塊と言っても魔界で産出された金塊だから心配する必要もないぞ」
と、説明してくれるブルーさんはお金や財宝とかにはあまり興味が無いみたいね。
魔界でも金は貴重かと思うだけど…まぁ…良いか…
と…その時…
ギャァッ!!
少しは慣れた場所から聞こえる悲鳴。
マネキンの悲鳴だ。
どおやらあたい達が悠長に話をしている間に逃げようと思っていたらしく、この場から離脱を試みたのだけどイエローさんが張り直した結界に阻まれる。
マネキンには結界は無意味。
どんなモノでも破壊出来る前歯で結界を食い破り、強引に脱出しようとして噛み付いた途端、マネキンの体に強烈な電撃が走る。
それが今聞こえて来た悲鳴
「こんな事も有ろうかと仕掛けていた結界が役に立ったわね」
悲鳴が聞こえた方へ行くと黒煙を上げ、黒焦げになった一匹のネズミが転がっていた。
「おーぉ…こうなってしまったら暫くは再生は無理だな…」
ブルーさんが箒を使ってマネキンをネズミ捕り用の捕獲器に収納する。
てか、何処から出したの…そんな物…
「コイツで焼き殺してあげたかったのにな…」
右手の人差し指に炎を灯らせて残念がるイエローさん。
あれ…サイズこそ小さいけど、トンでもない熱量を持った炎だわ…この妖怪さん達が敵でなかった事を幸運に思えるわ。
「30%って所か…チッ!コイツも本命じゃないのかよ…!」
あたいがイエローさんの炎に驚いていると、苦虫を噛み潰したような表情でブルーさんが吐き捨てるように言う。
どおやらこのマネキンは本体を分裂させた欠片みたいね。
主様からその事を訊いていたから納得出来たのだけど、黒尾の欠片はどおなったの?
「あぁ…アレなら…」
黒尾の欠片は既にマネキンがエネルギーとして補給されて消滅しているとの事。
どおやらブルーさんとイエローさんを食い尽くしたあのネズミの大群を使用した時にエネルギーとして使用した模様。
何にしてもコレで金蔵を利用して街中のお金を巻き上げようとしてたマネキンの野望は潰えた訳だけど、本体が残っている限り次の来襲に備える必要があるかな…
「ねぇ…ゆう子ちゃん…」
「はい…なんでしょう…」
「貴女…強くなりたくない?」
「ヘッ?」
「強くなって真智子ちゃんを振り向かせたくないかっ訊いてんの
好きなんでしょう?
彼女の事…」
「・・・・・・」
「沈黙はOKだって受け取るね」
「ヘッ!?チョッ…チョッと…ま…………」
な…何であたいが真智子姐さんが好きだって知ってんの?てか、此処…何処?
あたいは人間界での1時間が1年になると言うイエローさんの専用空間へと誘拐され、強制的に修行をさせられるハメとなった。
「ゆう子ちゃんは忍術系が合うみたいだね
じゃあ、ピンクも呼ぼうか」
修行を初めて少ししたところでイエローが言うと「アイツの忍術は魔界でも一二を争う程だからうってつけだろうな」とブルーが同意する。
どおやらゆう子の身の熟しでくノ一として育てた方が面白い存在になると思ったらしい。
イエローさんの専用空間で修行する事約3年…人間界での時間は3時間…漸く開放されて戻って来た時、金蔵が逮捕された所であった。
この事を受け、本社が雨音から撤退する事を決定し、土地と建物を街に売却したとの事で、跡地は海野三条監修の下、幽霊屋敷に改装するとの事だ。
こうしてワンダーランドは終わりを告げる事になったのだけど、この街に住むパチンコを趣味としている人達はどおするつもりかなと思っていたら、トンネルを抜けた直ぐの土地に新店舗がグランドオープンした事により、そちらに流れる事になる。




