第90話 ゆう子はネズミがお嫌い 前半
あたいの名は ゆう子
主様に覚醒させて貰った幽霊。
主様と言うのはレイ様の事。
主様はあたいの事をあまり重要視していないので、一応、自己紹介しておくわ。
生前の名前は綾辻ゆう子 享年 20歳
身長163cm
体重 ナイショ
スリーサイズは…コレ…言わなきゃダメ?まぁ、Cカップだったと自己申告しておきます。
顔は右目の下に泣きぼくろがあるくらいでごくごく普通。(化粧したらそれなりの美人には見えるらしい)
後は、その他大勢に埋もれると言うよりは「アンタ何時からそこに居たの?」と言われてしまう様な存在感が薄いタイプの人間だった。
まぁ、身の上話をすると長くなるので割愛させて貰うけど、母子家庭であったのと母が男癖が悪く柄の悪そうな男に言われるがまま、あたいが幼稚園に入る直前に児童養護施設に預けてドロンした。
「お母さんね、遠くの土地で新しいお仕事をする事になったから此処で大人しく待っていてね…お仕事が落ち着いたら必ず迎えに来るから」
とか、泣きながら言っていたけど、母が嘘を付いていたのは知っていたし子供心にあたいは捨てられたんだと認識していたわ。
実際は子供嫌いの男と結婚する為にあたいが邪魔だったから捨てたと記憶している。
強制入所させられた児童養護施設にたまたま置いてあった忍者モノの漫画が好きで読んでいたのだけど、忍術を駆使して敵をバッタバッタと倒してゆくヒロインのお姉さんに憧れて、将来はこんなカッコいいお姉さんになりたいって真剣に考えていた。
高校卒業後、色々あって刺されて20歳で死んだ後、肉体の方は無縁仏として葬られたらしいけど、魂や霊体は事件現場から離れられないままだったの。
他殺の場合、魂は現場に縛り付けられるか自由に動き回れるかの2種類になるらしい。
違いはと言うと、縛り付けられる場合は後悔や苦悩に苛まれて動けないとか殺された衝撃で気を失ったままで動けないか。動き回れる場合は恨みや憎しみや恐怖と言った感情に支配されるかの違いみたいね。後者の場合は界底落ちが殆どなのだけど、界底の方はリバースするかしないかで落ちるか落ちないか分かれるみたいだけど、村岡や5悪みたいな前列があるから本当のところは解らない。
あたいの場合は、全てあの男が悪いのに何であたいだけあんな目に遭わなければならなかったのかって言う感情とあの夫婦への憎しみでいっぱいで、リバース化する直前だった(主様と黒尾達は同じランクで紛らわしいので、黒尾達みたいなSSRをリバースと呼ぶ事にするわ)所を主様に救って頂いたの。
犯人夫婦は未だ捕まってはいないし、許す気も無いから何れは落とし前を着けると心に誓っている。
さて…
主様にワンダーランドの後始末の役を任せて貰った訳だけど、正直言ってどおしたら解らない。
だって、主様と箕浦刑事のおかげでワンダーランドと言うよりは金蔵の落日間近なのだから。
然し…
出勤して来た金蔵に取り憑いたアレは何?
主様の話では黒尾とやらの欠片と言っていたけど、
黒尾とやらは怨霊の筈だから、感じるとしたら禍々しい霊気の筈…勿論、禍々しい霊気は感じるには感じるのだけど、その他に微かに妖気も感じるのは気の所為?
まぁ、君子危うきに近寄らずって言葉も有るように、下手に仕掛けないで此処は見に徹するのが吉かも。
ワンダーランドの現状としては、主様が騒動を引き起こしてから数日が経過している。
異常に出たと噂を聞きつけ、二番煎じ三番煎じを狙ったお客が朝から殺到し、店の前は長蛇の列を形成していて、開店と同時に我先にと店内に雪崩込んで行く。
とは言え、忌々しい結界のおかげで中の様子が伺い知る事が出来ないから実際には解らないけど来たお客が2〜3時間程で帰って行くところを見るとボッタクリ…いえ…犯罪営業真っ盛りは間違いなさそう。
帰るお客の中にスッと入って記憶を覗いて見る。
・・・やっぱり思った通りね・・・
暇そうに店内を徘徊するだけの店員…そして、全く出ない台を今にも殴りそうな表情で打つお客。
こんな、あからさまな営業ではなくて真綿で首を絞める様な出し方をした方が効果は有ると思うのだけど、金蔵はそんな事を考えていない様子ね。
まぁ、此処に居ても仕方がないのでアンテナを残して箕浦刑事さんの様子を見に行こうと思う。
と…思ったら、現在、中西信介を絶賛取り調べ中ってヤツで、話をする暇も無いみたい。
取り調べ中の箕浦刑事って…とても怖い…
鬼も裸足で逃げ出す程の恐ろしさってあの事かなって思う。
あの顔で取り調べを受けた日には余程肝が座った犯人以外は全てを白状するのではないかと思うわ。
箕浦刑事の迫力に圧され、中西は前店長の四谷を罠に掛け金蔵を店長に押し上げた事を白状し、違法改造台を納入した事を吐露した。
因みに、前店長の四谷は四谷清十郎とは偶々名字が一緒なだけで何の関係もない赤の他人だ。
これにより、容疑が固まったとして金蔵の逮捕状が申請される事になった。
そうなると気になるのは、やっぱりあの黒尾の欠片かな?
と言うより、アレは本当に黒尾の欠片なの?
何か引っかかる…あたいはアンテナの映像を注視しつつ、再びワンダーランドへと移動した。
………
……
「オイそこの女幽霊!危ないから此処から去れ!」
ワンダーランドへと戻って来たあたいに唐突に声を掛けてきた青色と黄色の二人組…ブルーとイエローとか言っているけど、一体何者?
てか、妖怪だよね貴方達…
去れと言われて素直に去ってしまったら、主様に怒られてしまう。
それどころか、閻魔ジャッジの刑に処される可能性があるので、彼等への返事は当然NO!
然し、彼等もまた何かしらの目的があって此処に居るのだから一歩も引くことはない。
「ねぇ、貴女ってもしかしてレイに起こされた幽霊じゃない?」
ブルーと暫く帰れ帰らないの押し問答をしていたあたいの中に主様の欠片を見つけたイエローがその事を訊ねて来たので、コクリと頷くと納得したのか
仕方ないわねぇと言った表情で
「私達から離れないでよ」
と1言だけ言った後、ワンダーランドに仕掛けられた結界を解除に取り掛かるイエロー。
万が一に備えて、主様より欠片を頂いているのに気が付いたみたい。
あたいはよく解らないけど、この方達と主様は顔見知りで尚且、お友達?の様な関係にあるみたいね。
独特の拘り感は置いといて、悪い妖怪達では無さそう。
この結界はお地蔵さんを依代にした結界なのだそうだけど、そのエネルギー源は龍脈に流れるエネルギーを使用していて、幽霊は勿論、妖怪までも通る事が出来ないと言う強力な万能結界なのだそう。
主様は解除出来ない事はないけど、後が大変だからやらないと言っていた。
理由は、無闇矢鱈にやってしまったら龍脈のエネルギーが暴走しかねないからだそう。
どおやら、この結界を解除するのには一定の手順が有るみたい。
「切断完了…っと…開!」
配置されている全てのお地蔵さんに何かを施した後、印を結び叫ぶイエロー。
一瞬、ピキッ!と罅割れる音を立てたかと思ったら、まるでガラスが砕ける様に割れる結界。
結界が割れたおかげで、内側と外側の空気が混ざり込んで暫しの間、周囲は強風が吹き荒れる。
「オッ…絶景♡」
「もう…ブルーったら…何処見てんのよ!?」
「たまには良いじゃん…」
どおやらブルーは偶々居合わせたミニスカートを履いた女性を見て絶景と言ったみたい。
まぁ、ホントに絶景ではあったけど…コホン…
これは失言だったかな?
けど、あたいは同性愛寄りのバイセクシュアルなの。
だから、ブルーさんの今の言葉の意味も理解出来るわ。
「って・・・何よアレ・・・妖気じゃない・・・アレ・・・」
話が横道に逸れそうなので元に戻すと、強風が静まると同時にワンダーランドが黒いモヤに包まれて行くのが解る。
イエローさんが言わなくてもワンダーランドを包み込んでいるのが黒い霊気ではなくて妖気だとハッキリと解る。
然も、妖気を中心に街中の金運がワンダーランド目掛けて流れ込んでいる。
・・・どぉ言うこと?
金蔵に取り憑いているのは確かに黒尾だった筈…って事は…黒尾の欠片を依代に妖怪が金蔵に取り憑いているって事?
どおやらその予想は当たっていたみたい。
「ゆう子ちゃんにも解る様に説明すると、あの建物の中に居るのは金欲を司る妖怪よ
魔界では金魔と名乗っていたのだけど、人間界に来てからはマネーキングと名乗っているみたいね」
あたいの為に解りやすく説明してくれるイエローさん。
シッカシ…マネーキングって御大層な名前を付けちゃって…銭亡者って名乗った方が良くない?
「フンッ!銭亡者ってか…アイツの正体を知らないから言える言葉だな」
あたいの呟きを聞いていたのか、ブルーさんが吐き捨てる様に言う。
忌々しそうな顔をしていると言う事は、あまり会いたくない部類の妖怪なのかな?
とか、考えていたら…
「見てなさい…ヤツをお誘き寄せるにはコイツが1番よ」
無造作に懐から取り出した帯封の付いた諭吉さんを地面に投げ捨てるイエローさん。
てか、何処で手に入れたのそんな大金
「金の力はぁぁぁ〜〜〜〜〜偉大なりぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!!」
程なくワンダーランドを包んでいた妖気が1箇所に集まり、人形を形成したかと思ったらまるで私が大魔王だと言わんばかりの口調で出現した銭亡者…もとい…マネーキングは
「こんな所に金を捨てるなんて…一体全体何処のドイツだぁ〜〜〜!!」
出現するなり諭吉さんを拾い上げパラパラと捲り本物かどおかを確認した後で「金を大事にしない奴はお仕置きだぁ〜〜〜」とか叫んじゃっている。
あぁ〜あ…その前口上っての?それは殺られちゃうフラグかと思うのだけど…とか漠然と考えていたらブルーさんに一刀両断されちゃった。
はい、おしまい…と…言いたかったのだけど…
「今ぁ〜〜私を〜〜切ったのは〜誰だぁ〜〜〜!!」
切られた傍から其々再生して二人に増えるマネーキング(面倒だから以後はマネキンって呼ぶ事にするわね)が二人目掛けて襲いかかって来る。
けど、バカの一つ覚えみたいな突進だけでは敵わない程の実力差が有るって解らないのかな?
切ると増殖すると思ったブルーさんとイエローさんは妖気弾を連続で飛ばしてマネキンを迎撃。
最初は妖気弾を躱していたマネキンであったが、逃げ切れなくなり被弾。
マネキンは妖気弾に含まれる消滅のエネルギーで今度こそ消滅したかと思ったら…
「違う!それは囮!」
仮にも妖怪がこんな呆気なく終わる訳がないと思っていたら、突如としてブルーさんとイエローさんが立っている地面が割れ、そこから飛び出て来たのは
ネズミ!
大量のネズミ!
気付いた時はもう遅い。大量のネズミが飛び付き、二人を食い尽くそうと齧り付く。
ギャァァァ〜〜〜!!
断末魔の悲鳴を上げ、文字通り骨まで食い尽くされるブルーさんとイエローさん。
「何だぁ〜〜〜ヒーロー達が相手だからぁ〜〜張り切ったのにぃ〜〜〜ガッカリだぞぉ〜〜!」
二人を食い尽くし、1つに合体し、正体を表すマネキン。
やっぱりネズミの妖怪なんだ…てか…何?その間延びした喋り方は?非常にムカつくのですけど?
何にしても二人が食べられちゃったのだから、後はあたいが殺るしかないのだけど、ドオしたら良いの?
そ…それに…あたいは…ネズミが大大大っ嫌いなのーーーーーーー!!!
後半へ続く




