第86話 提督VS村岡 2
「・・・なんて…言うと思ったか?あんな奴等が居なくても配下の者共を使えば同じ事よ」
短いやり取りの間に準備していたのだろう
持っていた杖を軽く一振りすると是流を中心に光り輝く陣が出現する。
「此処で一戦交えても良いのじゃが、面倒なのでの…逆召還陣!」
レイ達が使う閻魔は飽くまでも人間対象の陣でこの逆召還陣は妖怪が悪魔を地獄へと送り返す陣。
魔界で起きた戦争の後、無用な闘いをしないで済む様に魔王 空 と一部の幹部が共同で開発した陣だ。
効果は絶大で戦争の結果が気に食わない一部の悪魔が徒党を組んで襲って来た事があったのだが、1個大隊に匹敵する程の悪魔の軍団を一瞬で消し去った事もある。
提督が使用した逆召還陣はその縮小版だ。
縮小版と言っても効果は折り紙付きなのは言うまでもない。
提督の身体から溜め込まれた黒い妖気が発せられると陣の光が一層強くなり是流を包み込む。
・・・!!!
「さぁ、地獄へ帰るが良い!」
光が巨大な光の柱へと変わり是流を地獄へと誘い、そこには何も無い空間が在るだけであった。
然し…
陣が発動したのにも関わらずなにごともなかったかの如く不敵な笑みを湛えた是流が存在していたのである。
「ば…馬鹿な…陣は確実に発動した筈じゃ!何故地獄へと帰らん!?」
発動した筈の陣が機能していない…本気で狼狽える提督に対し、勝ち誇るわけでもなく淡々とした表情でアレから何年経っていると思っていると言った表情で「既に対抗策は構築済みなんだよ」と言うが早いか6枚ある翼の内の一翼から1枚の羽根を抜き取り優雅な姿勢で提督へ向けて投げつける。
全てを止めろ…
拘束!
提督へと飛んだ羽が刺さると同時に七色の光を発して提督を包み込み動きを封じる。
「何を驚いている?アレから一体何年経ったと思っている…既に対抗措置は完成しておるわ!」
拘束は妖縛陣系の術の中で最強を誇る術で、対象者の周囲の時の流れをも止めてしまう程の威力を持つ。
そこまでの術を使わなくても良かったのであるが、何せ相手はハリガネの様な虫の集合体であるが為に生半可な術では逃げられる可能性があるが為に使用しただけの話なのだ。
う…動けん…何も出来ん…
何とかこの状況から逃れようと抵抗を試みる提督ではあったが、指一本動かせないどころか妖力を高める事も出来ない事に愕然とする。
「此処で貴様を消滅させても本体は専用空間でのうのうとしているのだろう?」
此処で提督を消滅させても本体は自らの専用空間でこの状況を見ているに違いない。
是流の中でこのまま提督を消滅させても良いものかと躊躇が生じる。
どおすんだ?
本体が安全圏でのうのうとしている以上、この提督を消滅させても何の解決にもならないのは確かなのだが、拘束と言う術は先も述べた様に対象者周囲の時間をも止めてしまうが為にエネルギーの消費が半端なく、本来ならどおしようかと迷っている隙はない。
村岡もまた、是流に任せてしまった以上、手出しは出来ない。
と言うのも、是流と言う悪魔は普段は悪魔らしくもない悪魔なのだが、いざ戦闘となると村岡が口を出せない程の短気で凶暴になると言った一面が有るからだ。
その是流が提督を消滅させるのを躊躇っていると言う事はこの後、余程の事が待ち受けている可能性があると言う事なのだろう。
「ゴミ箱って言ったっけ?あの術…」
「?…あぁ…あの女が得意とする人間界と地獄を一瞬だけ繋ぐ空間系の術だろ?それが?」
「相棒も使えないかって事だよ」
「出来ん!」
「なっ…」
「原理は解るのだがな…俺には出来ん…だから…こうする事に決めた!」
実の所、あの廃病院での戦闘を覗き見ていた村岡はコヨミが使ったゴミ箱と言う術を羨ましく思っていた。
ゴミ箱と呼ばれている術は陽の気を基本ベースに構築される術であり、陰の気で動く村岡や是流には使えない術なのだ。
フンッ!!
3対有る翼の内1対を握り気合いと共に引き抜くと一本の片手剣と一振りの刀にその姿が变化する。
右手に炎剣 イフリート
左手に妖刀 鬼龍
と名付けられている剣と刀が提督を切り刻む・・・筈だった・・・
ギィン!!
然し、是流の剣戟は提督に到達する直前で何者かに防がれてしまう。
「貴様は・・・」
突然の邪魔者の正体に驚愕する是流。
是流の剣戟を受け止めたのは、態とらしい程に全身
赤で統一された服装のアイツ…
そう、残念レッド・・・もとい・・・怪レッド(自称)とピンクであった。
「申し訳ないけど、第二次魔界大戦だけは御免被りたいんで…邪魔させて貰ったわよ」
「邪魔すんな…マッド「おっと…皆まで言わないで宜し!コイツの後始末は魔界の責任だ
例え影分身と言えど、悪魔が妖怪を殺っちまったらどおなるかくらい解っているよな?」
何かを言いかけた是流の台詞をひったくる様に言葉を被せるレッドは姿勢を正して是流を説得にかかるも是流とて村岡との契約でもあるので引き下がる訳には行かない。
「我の宿主はそこの虫に殺されて怨霊化してしまったと言っても過言ではない。我は宿主の復讐の手伝いをしていただけだ!」
そこを退けと言わんばかりの剣幕でレッドを恫喝する是流。然しながらレッドとて此処で退く訳には行かない。
平行線を辿るばかりで歩み寄る気配も見せない二人。そうこうしている間に拘束の効果が消えてしまい、これ幸いと言わんばかりに逃げようとする提督であったが、今度はピンクに不動妖縛陣を掛けられてしまう。
エネルギーが底を尽きかけていた是流にとってこれは幸運であったが、そのおかげで主導権は村岡に奪われてしまう。
「初めまして私は村岡隆也と申します。
見ての通り怨霊です。
そこの妖怪を退治しないと私の気が収まりません。そこで提案なのですが、提督と私でコレを使用しての一騎討ちで蹴りを付けたいのですが、見届けて頂けないでしょうか?」
此処に居る提督を倒しても何の解決にもならないのは理解出来る。
出来るが、提督が浦川学園に目を付けなければ今頃はと言った気持ちが強く残っている村岡は此処でどおしても提督を倒す必要があるのだ。
二振りの刀を見せて懇願する村岡に対して暫し、熟慮する素振りを見せたレッドであったが、返答の代わりに村岡と提督を自らが創り出した結界の中に閉じ込めてしまう。
「この結界はファイアーウォールと言う俺が得意とする結界だ。
その壁に少しでも触れると跡形もなく焼かれてしまうから気を付けろ」
半径10m程の巨大な炎のドームの中に閉じ込められた村岡は提督に一振りの刀を放り投げて
「だとよ…コレで決着付けようぜ小細工無しでよ…俺かアンタか…消滅するのはどちらかだ!」
片方の刀を提督に投げ渡し、手持ちの刀の切っ先を提督に向けてキメポーズをとる村岡に対し不敵な笑みを浮かべ青年の姿になり刀を持って構える提督。
何の合図もなしにほぼ同時に二人が掻き消える様に動き程なくドーム内に刀と刀がぶつかる音と激しい火花が発生し消えて行く。
悪魔相手に相当な修行を積んでいるの…然し…足元がお留守の様じゃの。
お互いの力量が拮抗してる為に決め手に欠ける中、提督の動きが剣戟だけではなく足技が混じる。
勿論、その攻撃にも見事に対応する村岡。
バチィッ!!
お互いの側頭部を狙ったハイキックが交差し、凄まじい音と火花が散る。
実力が拮抗していると判断したのか、ヒートアップしそうになっている頭を冷やそうと思ったのかは定かではないが、一旦距離を取った提督が縦横斜めと素早く4方向に刀を振ると蜘蛛の巣状の斬撃が村岡目掛けて飛んで来る。
それを飛んで躱したまでは良かったが、着地するタイミングで低空の斬撃が村岡の足元を狙って飛んで来る。
ウォッ!
着地のタイミングで足元を狙った斬撃が飛んで来るとは思いもしなかった村岡はマトモに食らったかと思われた。
が…
バサッ!
唐突に生える1対の漆黒の翼を羽ばたかせ急制動をかけフワリと着地する村岡。
「悪魔化ですか?それとも…」
既に人間の皮を捨て去ったか是流に侵食されているものと思った提督が慌てる事も無く問い質したのだが、コレは霊気を具現化させたに過ぎなく、中身は人間のままなのだ。
とは言え、霊気で無理矢理翼を生やすのだから消耗は激しく残された霊気ではそう長くは戦えないのは必死。
「次の一撃で終わらせる」
居合抜きの構えを取り霊気を練る村岡に触発されたのか、提督もまた村岡の全力に応じるかの如く居合抜きの構えを取り妖力を練り上げて行く。
「中の悪魔と共に地獄へと送って差し上げましょう」
提督が発したこの言葉が合図となり二人の姿が陽炎の様に揺れたと思ったら同時に消え、次の瞬間、お互いが居た場所に出現する。
「な・・・何故・・・ウギャーーーーー!!」
切られた箇所から発生した黒い炎が全身を包み込んだのは提督であった。
居合 獄炎一閃・極!
全てを焼き尽くす地獄の炎を刀身に召還させ、敵を焼き尽くす大技だ。
「やっと終わったな・・・」
「あぁ・・・消化不良だがな・・・」
提督が消炭と化すとファイアウォールが消えて行く。その光景を見ながら是流が話しかけて来る。
「あぁ…疲労なんて感じる筈がないのにシンドイよ…」
「で…どおする?この後、あのトンでも幽霊と決着を着けるのか?」
「いや…とてもじゃないが無理だ…」
「・・・そうか・・・じゃぁ・・・逝くか?」
「あぁ…っと…その前に…レッドとか言ったか?」
「何だ?」
「あの幽霊に伝えて欲しい事があるのだけど、伝言頼めるかな…図書館の資料室を調べろと…」
そこまで言うと是流と交代する村岡。
どおやら力を使い果たした為に眠りに着いたらしい。
「伝言は引き受けたが、その幽霊はどおするんだ?」
レッドが是流に問い掛ける
「相棒はこのまま地獄へと連れて行く。まぁ、霊界へは上がれないから当然だな…」
「・・・そうか・・・」
「で?貴様はアレををどおするつもりだ?」
「あ?俺じゃねぇよ…アレをどおにかしたいのは魔王だよ…理由までは言えねえがな…」
「チッ!どおやら我は人間界に来るタイミングを間違えた様だな…」
「知るか!後は俺達に任せてサッサと帰れ!」
「そうさせて貰う!」
そこまで言うと、煙のように現れたブラックが地獄への扉を開く。
レッド「呼び出された悪魔がアイツで良かったぜ…」
ピンク「ホント…もし、ベルやサリーなんかが出て来ていたらヤバかったわ」
ブラック「それはそうと、そこで呆けている年寄りはどおするんだ?」
レッド「人間の事は人間に任せれば良い。俺達には関係ない」
ピンク「でもさ…ただ単に利用された被害者じゃないの?」
レッド「寄生して操っていたとは言え、やって来たことは認識している筈だから俺達は手は出せねぇよ
それより、本体をどおするかって事だけど…」
ブラック「それはブルーとイエローが捕まえに行ったよ
今頃は捕獲されて魔王の御前に突き出されている筈だ」
レッド「じゃあ、問題ないか…それじぁ、あの幽霊に会いに行くか」
それから間もなく事情聴取に来た箕浦刑事と部下二人の求めに応じた四谷は雨音署へと連れて行かれる事になったのであった。




