第85話 提督VS村岡
フッ・・・フフッ・・・
時間は少し遡ってレイ達が結界を解除する直前
学園の外側に集まる人の気配を察知し愉快そうな笑い声が村岡の口元から漏れ出る。
「明王の加護を受けし者と得体の知れない何かを内に宿した者
それから近隣の街ではトップクラスの祓い屋と…あの忌々しい教師ですか…
黒尾君ではなく俺達が相手をしたいところですね…
そう思わないか?相棒」
「あぁ…」
怨霊として覚醒してしまってからこんなに気持ちが高揚した事がない村岡。そんな村岡の気持ちを汲み取る様に愉快そうに話しかける何か。
然し、自分達がやらないといけないのは事の元凶である提督を倒す事。
「予測通りだな…結界が張り直される前に行くぞ!」
程なく結界が消えたことを確認した村岡は相棒と共に四谷邸へと向かう。
勿論、村岡の動きを察知していたが、今は黒尾を何とかしないとならなく、村岡に割いている戦力は無いレイは後ろ髪を引かれる思いになりながもスルーすることにする。
チャチな結界張りやがって…
四谷邸へと到着した村岡は結界が張られている事に気が付き、解除を試みるも対幽霊の強力な結界の為にお手上げ状態になるも村岡でダメなら俺の出番だと言わんばかりに中に居る何かが結界を解除する。
「君には特別期待してしたのに…とても残念だよ村岡君…」
村岡の到着を知っていたかの様に待ち受けていた提督は何故結界が解除されたかと言った疑問を投げ掛ける訳でもなく残念だと呻く様に言うと、持っていた杖でコツンと地面を鳴らす。
すると、1グループ4人で構成された妖怪の集団が3組も出現する。
「さぁ行きなさい!行って奴を八つ裂きにしてあげなさい!」
1体1体が村岡と同格かそれ以上の妖怪が徒党を組んで村岡に襲い掛かる。
クッ!
中段攻撃を躱したかと思えばそれは陽動で間髪入れずに下段攻撃と背後からの強烈な一撃を同時に貰いそうになったりと見事としか言いようが無い連携攻撃に翻弄され、徐々に追い詰められてゆく村岡を愉快そうに見る相棒と呼ばれた者はこの時点では協力する気は無さそうだ。
7・8・9・・・
「ガンバレ相棒!キミなら殺れる(笑)」
クッ…!後で覚えてろ!!
10・11・・・ラス(パンッ!!)・・・
それでも1体1体確実に仕留めて行き、残り1体となった時、突然背後からの銃弾が村岡の頬を掠めて飛んで行く。
屋敷の上に配置された妖怪に狙撃されたのだ。
「直撃はしなかったが掠りましたね…その銃弾は対幽霊用の特別な銃弾じゃよ。
掠るだけで力を奪い直撃したら消滅は免れない程の威力がある。
さぁ…どおする?このままでは宿主が消えてしまうぞよ?」
杖の先を村岡に突き付けて提督が脅しをかける。
どおやら村岡の中に得体の知れない何かが宿っている事に気付いているらしいが、それが何なのかまでは解らない様子。
………
……
「ヤツの操り人形になるわけには行かねぇ…」
提督の本体と初遭遇した後、このままではどおやっても勝てないと悟った村岡が選んだ選択肢は…
悪魔召喚
オカ硏ノートを調べても悪魔を調べていた者は一人しか見当たらず、その記述もディープな場所まで調べていなく、簡単な召喚術と海外に伝わる文献を訳す段階の悪戯書きの様な記述しか残されていなかった。
これじゃぁ使えるかどおか解らねぇ…ならば、強い妖怪を召喚したら良いかと考えたが提督は支配欲を司る妖怪の為、妖怪を召喚した場合、逆に支配され利用されてしまう可能性がある。
やってみるしかない!
意を決した村岡は夜中のグランドにノートに描かれていた召喚陣を描き呪文を唱える。
餌は今まで集めた魂。
「強烈な罪人の匂いを嗅ぎ取ったから来てみたものの、もしや此処は人間界か?そして我を呼んだのは貴様か…単なる怨霊如きが我に何の用だ」
結果として召喚術は成功し、悪魔は人間界に顕現した。
召喚された悪魔は銀髪に薄布を巻き付けただけの細マッチョのボディと絶世の美女と見間違える程の美しい顔の持ち主で、見てくれは天使かと思える姿ではあるが、背中に携えるは純白の翼ではなく漆黒の翼。
然も1対ではなく3対もあるのだから上位の悪魔だと認識出来る。
召喚された悪魔は 是流 と名乗った。
その名はノートにも記述されており、悪魔王にも匹敵する力を持つと言われている強力な悪魔であった。
呼び出された事に不快感を示す是流に対し、村岡は今までの経緯を全て話して提督を倒すまでの期間の協力を求めた。
召喚された悪魔の末路は大方予想は着いているが為に人間界と関わり合いを持ちたくはないが、相手が妖怪であれば話は違う。
「奴等には我も恨みが有るからな…ソヤツを倒す迄は協力するとしよう。」
シブシブ…ほんっとうにシブシブながら承諾した是流に握手を求めた村岡の手を握ってしまう是流。
その後は友好関係を築きながらその力を使いこなす事に専念する様になる。
………
……
たった一発の銃弾で窮地に陥る村岡。生者なら良くて瀕死の重症 悪くて即死級のダメージを食らってしまったのにも関わらず黙りを決め込む是流。
グエッ!
屋根の上からスナイパーとして配置いていた妖怪の叫び声が邸内に響き渡り、もしやと思った提督が振り返るとそこには冷たい目で四谷を睨み付ける村岡の姿があった。
村岡は今の狙撃で確実に仕留めた筈だ。
現に村岡の身体は原型を留めない程に崩れているではないか。
一体何が起こったと言うのだ?
混乱する提督の背後に瞬間移動をした村岡の黒刀が問答無用に提督の首を切断する。
「ハイッオシマイ!と…言いたいところだけど、そんな簡単に倒せる程弱くはないよな?」
黒刀を鞘に納めダラリと脱力した姿勢のまま周囲に響き渡る様な大声で提督を挑発する村岡。
「変わり身の術ってヤツかの…まったく…保険は掛けておくべきですねぇ…おかげで大損害じゃよ」
提督の胴体がまるで落とした眼鏡を探すド近眼の人のコントの様に地べたに転がる頭を探し胴体の上に乗せると同時に何が起きたのか看破して見せる提督は村岡と一旦距離を置き更に数体の部下を召喚し、守りを固めたかと思ったが何を考えているのか部下に自分自身を粉々に破壊させたのだ。
「驚いている様じゃの…吾はこんな事も出来るぞよ!?」
驚き固まる村岡が見守る中、切り刻まれた破片が次々と再生し始めてそれぞれが提督の姿を形どり妖気を練り始め、練られた妖気が提督が突き出した両手の先で黒い塊となって溜まったかと思ったらそこから弾け出した無数の小さい玉が高速で村岡目掛けて飛んで来る。
「ば…バカかお前は…!」
最早逃げ場なしの状況下に置いても興味を引くものが目の前に有ると周囲が見えなくなる程に集中してしまう村岡の癖が出てしまったのだ。
直撃を貰えば消滅は間違いない状況下にも関わらず全く動こうとしない村岡を怒鳴りつける是流の声で我に返った時には玉は目の前1mの距離に迫っている。
手応え有り!
直撃した証拠の爆発が巻き起こると、連鎖反応を起こし次々と誘爆する玉。
村岡の強さを考えるとこの程度の攻撃では消滅はしないだろうが、かなりのダメージを与えた筈だと考えた提督は、さらなる一撃を加える為に妖気を爆発的に高める。
然し、その一撃は放たれる事はなく提督の手の中で暴発し手を粉々に吹き飛ばす。
「オイ虫!提督なんて大層な名前を名乗りやがって低級の癖にいきがってんじゃねぇよ!」
いつの間に入れ替わったのか、淡い光に包まれた漆黒の6翼を背負った是流がいい加減にブチギレました的な表情で提督に向かって一喝する。
虫?是流…提督って…
無理矢理中に押し込められた村岡が問い質すも、その問いには応えず、黙って見ていろと返しただけに留まる。
そんな是流の態度に文句の1言も言いたいが、是流の例えようの無い迫力に気圧されてしまい憮然とした表情になりながらも静観する事に決め込む村岡。
「おぉ…村岡君の中には貴方が入っていましたか…人間界には干渉しないとの協定違反で粛清の対象になると思いますが、大丈夫なのですか?」
何か居るとは感じていたが、まさかの悪魔の出現に内心驚きながらも挑発する様な口調で悪魔の人間界への干渉を咎めるもそれがどおしたと言った表情で
「それを言うなら妖怪は人間界への往来は出来ても人間界で悪事を働く事は御法度では無かったか」
と挑発仕返す。
「フッ…ファファファ…吾が人間界で悪事を働いた?吾がどの様な悪事を働いたと言うのですか?証拠は有るのですか?」
提督と名乗っているこの妖怪の魔界での名前は 虚栄 と言うが、その正体は寄生虫のハリガネムシが妖怪化した成れの果てである。
対象の人間の体内に自らの眷属を寄生させ、本人に気付かせる事なく操るトンでもなく厄介な妖怪だ。
然も、1度人間に寄生した眷属は直ぐに宿主と同化する為に誰にも気付かれる事はなく、幽霊が目を付けた生徒が悪意を芽生えさせると同時に発生する良心を喰らい成長し、3年かけて宿主を完全なる悪党へと変化させた後で自らが経営する会社へと呼び込み、魔界へご案内といった寸法である。
つまり、提督は雨音の街を妖怪達の為の牧場に変えようと画策していたのだ。
「証拠なんて要らないさ
何故なら、悪事を働こうにも肝心の幽霊が居なくなってしまったからな」
提督のテリトリーであった四谷邸を自らのテリトリーへと上書きし、更に巨大スクリーンを展開させ浦川学園の現状を映し出してレイと黒尾の戦いを見せ付ける是流。
「なっ…なんて事じゃ…あ奴等が消滅してしまったら吾の計画が…」
スクリーンには次々と消滅させられる澪達の姿とレイが呼び出した黒尾の母親が黒尾をどつき回しているシーンが映し出されている。




