第76話 村岡隆也
じぃ〜〜…
「な…何よ…」
結界を解いて強制送還も良かったのだけど、街一つ分離れた場所からの強制送還で何かしらの弊害が出るかも知れないからと言う事で俊哉さんの車ではなく命さんの弟子が運転する車で雨音まで戻って来た私達なのだけど、戻って来る最中、コヨミが私を睨み付ける様にガン見するものだから落ち着かないったらありゃしない。
てか、さっきから私の事をガン見している理由ってまさか…
「何で和樹のままじゃないのよ!?TSまでして女になり切っちゃってさ…これじゃぁドノーマルじゃないのよ!?然も、アタシより美人でって絶対に許さないんだから!!!」
ヤッパリそっちかぁーーい!!!
こればかりはレイが嫌がった結果なのだけどってさっき説明したよね?貴女の脳内ってどんだけ男だらけの薔薇園なのよ!?
マッタク信じらんないわよ…
レイが和樹を拒否した理由が理解出来たわよ。
彼は正真正銘のノン気だからって理由が殆どだけどコヨミの脳内であ~んな事やこ〜んな事をさせて悦に浸っていただろうからね。
まぁ、コヨミがそっちの理由で苛ついているのなら好都合だわ…Bの存在も知られる訳には行かないしね。
こうなったらマジでコヨミからレイを奪ってやろうかしら…
あっ・・・それ良いかも・・・TS男と純女が純男を奪い合うラブコメ・・・ちょっとそそられるかも・・・
なんて考えても仕方がない。
今は浦川学園の悪党退治が先だものね。
で、今は俊哉君の仕事部屋。
この部屋は2LDKでその内の一部屋を仕事部屋にしていてもう一部屋はミキちゃんの私物が置かれていて私達はリビングに居る。
「コヨミは浦川学園の幽霊事情は知っていたか?」
「・・・全く知らない・・・」
「じゃあ、そこから始めるか」
コヨミが知らないとの事なので、現状から夕べの事件を丁寧に説明するレイ。
「ふーん…あの浦川学園がねぇ…」
レイの説明を訊いて俄に信じられないと言った様子のコヨミに対して納得の表情を浮かべる命。
まぁ、コヨミは浦川学園の卒業生だし当時から幽霊騒ぎはあったものの生徒を操って悪事を働くなんて事は無かったから無理も無いかな。
「で、5悪の筆頭が村岡隆也と言う名の幽霊だ。
コイツだけは面が割れてねぇ」
時折相槌をしながら説明を訊いていたコヨミが村岡隆也の名前を聞いた途端に何か記憶に引っかかるものがあったらしく待ったをかける。
「村岡…隆也…もしかしてアイツの事?」
作家生活と学生を両立させていたせいで、出席日数がギリギリであった事が災いしたのか、顔は覚えていないのだが、おなじ名前の生徒が1年下に居たと言う。
「もし、同一人物であった場合、学園に対してトンでもない恨みを持っている筈よ?」
そう前置きをした後で当時何があったか話し出すコヨミ。
………
……
アレはアタシが3年の時の一学期の期末試験の時だったわ…
村岡隆也はコミュニケーション能力が然程高くなく成績も中の下で友達も少なく、何方かと言うと最後尾で黙って他人を観察している様な人間であったと言う。
そんな村岡が興味を示して多大な労力を注いだのがオカルト研究会。
中でも、前川勘兵衛守定近の謎…
つまり、前川勘兵衛守定近は存在していたか否かに最も近づいた男であったと言えよう。
前川家はこの地を統治していた一族ではあったのだが、勘兵衛は前川家家系図及び現存する史実や文書には1度も登場していないのだ。
然し、塚が存在している…何故か…
興味と情熱を持って調査をしていた。
そんな村岡を快く思っていなかったのが当時の教頭である市井健であった。
市井健は超現実主義者であり、幽霊は勿論の事、宇宙人も信じていないどころかオカルト研究会を敵視しているところがあった。
市井健曰く
「オカルト研究会は幽霊や妖怪とか非現実なモノを追いかけているから成績が悪いのだ
そんなモノを追いかける暇があったらもっと勉強しろ!」
と常日頃からと言うよりは部室にまで乗り込んで来ては怒鳴り散らす事もあったと云う。
最初は無視していた村岡であったのだが、あまりにしつこい教頭に対して遂にブチギレた村岡が「では、どおしたら認めてくれますか」と食って掛かる。
その返事が
次の期末試験でオカルト研究会部員の全員が学年10位以内に入ったら認めてやる!
であった。
当時の部員は6人。
条件さえクリア出来たら大手を振って研究に打ち込める!そう思った村岡と部員達は猛勉強をし、その結果。
村岡隆也 学年3位その他部員も全員10位以内と好成績を残したのであった。
見事に条件をクリアした村岡は夏休み返上してでも謎を解き明かすと息巻いていたのだが…
事件は夏休み突入2日前に起こる。
なんと、試験問題が事前に流失していた!これは今回成績が良かったオカルト研究会のせいだ!
と学園側が騒ぎ出したのである。
勿論、村岡以下他の部員はそんな事はしていない。
部員全員一丸となって勉強をし、勝ち取った成績であった。
然し…
「村岡君が誰も居ない職員室で何かをやっているのを見ました
試験の3日前の事です」
と証言が出たのである。
証言をしたのは村岡唯一無二の親友である「黒田敏夫」であった。
まさかの裏切りに怒り狂った村岡は黒田を問い詰めたが、「お前が悪いんだ…お前が教頭に楯突いたからあんな事になったんだ」と言い放った。
教頭に楯突いたからだと・・・??それ程オカ研を潰したいのかよ…あのロリコン教師が!!
村岡は教頭が女子生徒をその醜い欲望のハケ口にしているのを知っている。
その数6人
そのネタを盾に疑惑を晴らそうとも考えたが、村岡はそれを良しとはせずダンマリを決め込んだ。
理由は
「それをやったらヤツと同じになるから」
との事。
村岡がダンマリを決め込んだ事にこれ幸いとばかり攻勢に出る教頭はオカルト研究会は解散。そして村岡は退学処分をすると校長に進言。
事なかれ主義バンザイの校長は当然の事ながらコレを承諾し、村岡は学園を追放されたのであった。
然し、事件はこれだけでは済まなかったのである。
退学処分になったとは言え、諦めの悪い村岡はその後も前川勘兵衛守定近の研究を辞めなかった。
「・・・そうか・・・前川勘兵衛守定近と云う人物は・・・いや・・・これは飽くまでも仮説に過ぎない・・・明確なる証拠が必要だ」
雨音に在住する考古学者や妖怪学者と呼ばれる人物と連絡を取り合って考察を続けた結果、1つの仮説に辿り着いた。
此処までは良かったのだが、今度は学園内で猥褻行為をしたと学園側から告発されたのだ。
告発者は3人で、何れも教頭に飼われている生徒達だ。
「何故だ…何故俺がこんな目に…」
告発により警察のご厄介になった村岡ではあるが、少年法に守られている事と証拠不十分で直ぐに釈放された。
違う…俺じゃあない…俺じゃあないんだ…
警察から釈放された村岡を待っていたのは人々の白い目。
誰も村岡の言葉を信用せず、犯罪者としてのレッテル貼られてしまったのだ。
それでも前川勘兵衛守定近の研究は続けた村岡は遂に真実への扉の前に立った。
此処まで来ては止まれない村岡は胴塚へと向かおうとしたのであったが、またしても教頭の魔の手が村岡に伸びる。
「隆也くん」
出掛けようとした村岡を呼び止めたのは同じクラスであった犬飼紗弥加。
この生徒は教頭に飼われている生徒達の1人だ。
然し、飼われたのは夏休み直前で村岡は知らなかった。
紗弥加は教頭と子飼いの生徒達に乱暴されてしまってそれをネタに脅迫されている。然し、そんなモノに屈服したくないから警察に行って全て話すから協力して欲しいと申し出た。
関わりたくなかったが、教頭の悪事を告発するまたとないチャンスに乗っかってしまった。
そして、紗弥加に連れられて行った場所は雨音署でも交番でもなく
「何故学園なんだ?」
夏休み中とあって生徒は殆ど居ないが、部活で来ている生徒も居る為に玄関は開いていた。
「教頭の机の中に決定的な証拠が有るからそれを回収してから警察に行こうと思って…」
「・・・そうか・・・」
何か変だと思いながらも教頭への恨みを晴らせるチャンスと思った村岡は紗弥加と共に職員室へと向かう。
「有った…コレだ!コレを警察に持って行けば…」
教頭の机の中からは被害にあった生徒の淫らな写真とネガが有った。
それを持って学園を出ようと玄関へと向かう途中。
「それを何処に持って行こうと言うのだね?村岡君」
唐突に背後から聞き慣れた聞きたくもない声が村岡を呼び止める。
・・・!!!
振り返った先に居たのは2人の女子生徒と教頭そして校長と数人の教師。
「不法侵入と窃盗…キミは何をしたか解っているのかね」
教頭を制して校長が村岡を咎める。
「僕は教頭にハメられたんです!だからこの証拠を警察に持っていって教頭を告発します!」
幾ら校長でも教頭の悪事の証拠を見せれば態度を改める筈。そう思った村岡は奪った写真を校長に見せ付ける。
が…
「コレがどおしたのかね?生徒達は私達を愛しているのだよ。その証拠がその写真だよ…まぁ、童貞の君には理解出来ないだろうけど、この娘達は私達のカワイイペットなのだよ…だからこんな事をしても平気なのだよ…」
と、ぬけぬけと言い放ったのである。
「このカス男にも解る様に見せつけてやりましょうよセンセ…」
「ナッ・・・」
人前にも拘わらず始めてしまった教頭と生徒…
村岡は信じられない光景を目の当たりにすると同時に玄関目指して全力疾走する。
「逃げなきゃ…」
逃さないと言わんばかりに立ちはだかる紗弥加や教師を突き飛ばして走る村岡であったが、既に玄関は施錠されており、開かない。
ならば、最寄りの教室の窓から出れば良いと思い直して方向転換をしようとしたのたが…
「何処へ行くの?逃げ場は無いわよ」
陸上部担当 山川咲良と野球部担当 韮山健三が逃げ道を塞ぐ様に立ち塞がる。
「あるお方との約束でね…前川勘兵衛守定近の秘密を嗅ぎ回るヤツは殺さねばならないのだよ…殺れ!」
「あるお方…まさかそれって…グガッ・・・!!」
遅れて到着した校長が教師に村岡の殺害を命じた途端、絞まる首。
何時の間にか背後に回り込んでいた紗弥加がロープで村岡の首を締めたのだ。
「センセ…紗弥加は人殺しの悪人です…キツイお仕置きを…お願いします…」
く…狂ってる…許さん…許さんぞ…クソ野郎共…コノウラミハラサデオクベキカ…!!
遠のく意識の中、呪詛の言葉を心の中で吐き出した村岡は程なく絶命する。
……………
………
その後遺体は雨降山の裏側に首吊り状態で捨てられたの。
遺書は無かったものの、状況と首以外の外傷が無かったとの事で自殺と片付けられたのよ。
それから間もなく浦川学園で幽霊騒ぎが頻発したのよ。
「そうだったわよね?真智子ちゃん?」
村岡隆也について話し終えたコヨミが確認すべく真智子に話しをふる。
この事件は幽霊騒ぎを鎮めて欲しいと理事長から依頼を受けた和樹の話しをコヨミが漫画にしている。
話しを振られてウンウンと頷く真智子。
てか、そんな話が有るのなら何でもっと早く話してくれなかったのかねぇ…
そんな目で真智子を見ると「忘れていたのだから仕方がないじゃない?」と開き直ってしまったよ。
で、犯人共はその後どおなったのかと言うと、事故や病気で死んだり通り魔に巻き込まれたりとシチュエーションは違えど、全員死亡しているとの事。
そんな事があってか、死亡した奴等全員村岡の呪いで死んだと噂される様になったと言う。




