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気が付いたら幽霊やってました  作者: 京子
第四章 黒尾の逆襲
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第72話 コヨミさんを探して2

「ハァ…ハァ…運動不足だわ…ホント…フゥ…」


息を切らしながら千段超えの長い石段を登り切ったミキは運動不足で低下した体力を呪いながらも山海寺の入口に鎮座する阿吽像を見つめて嘆息する。


「この先の結界にコレが耐えられるかしら…」


ミキの耳に嵌められているイヤリングには赤く輝く石が嵌め込まれている。その中にレイの欠片が封じられていてその上で強力な結界が施されている。

当たり前の様に雨音から出られないレイではあるがミキが普段使用している個人結界の中に入っていれば自由に外へと出られる。


のだが…


敢えて強力な結界を施さないといけなかった理由は、この山海寺には対霊結界が在るから。

山海寺の結界はとても強力でミキが普段使用している個人結界では山海寺の門を通り抜けるだけで中にいるレイごと剥されてしまう為、負けない結界を張る必要がある。

その為のイヤリングである。


海野三条が弟子 畠田ミキと同行者レイ 通らせて頂きます…


阿吽像が睨みを効かせている前で心の中で呟き合掌して一礼をして精神統一と覚悟を決めてイザ!


結界は無事・・・の様ね・・・良かった


阿吽像の間を通り抜ける瞬間、まるで薄い発泡スチロールの壁にブチ当たった様な感覚を覚えるが、構わず一歩二歩と中に入った所でイヤリングの結界を確かめ、安堵の表情を浮かべるも、直ぐに不快な表情を浮かべるミキ。

何故なら、結界の外側と内側では空気の重さが違えば外の音等も殆ど聴こえないのだ。


何時来ても馴れないわ…


実のところ、この結界の中を苦手としているミキは今すぐにでも下山したい気持ちになるが、此処で下山すると言うことはレイへの不義理を意味するので、我慢の子と化し三条が居るであろう本堂へと向かう。


「何の用かな?」


ご本尊に向かい、読経をしていた三条が人の気配に気付いて読経を止めて後ろを振り返る。


「お久しぶりです…お師匠様…連絡も差し上げないで突然訪問した無礼をお許し下さい…実は、レイと名乗る幽霊との約束を果す為に楠コヨミ…いえ…海野玲奈さん事を訊ねに参りました…不躾ではありますが、是非とも彼女の消息を教えて頂けないでしょうか?」


「その前に、何故お主がそのレイと名乗る幽霊のパシリをやらないとならないのだ?その理由を述べよ!」


三条に理由の説明を求められ、あった事を包み隠さず話したミキ。


「フーム…お主程の者が本気で殴り倒してもノーダメージな幽霊とな…そヤツ危険ではないのか?」


強ければ強い程、その危険度は増すのは自明の理であるので当然の疑問を投げかける。


「接触していた時間が短かったので何とも言えませんが、悪ではないと断言します。」


「悪ではない…か…まぁ良い…玲奈の事を知りたければ不動神社の神野命を尋ねるが良い。住所は解るか?」


レイに対する印象をハッキリスッパリ言い切るミキ。その言葉を訊いただけで更にツッコむ事もせずに不動神社へ行くようにと言うと不動神社の住所を書いた紙をミキに渡して読経の続きをする。


「・・・月光げっこう・・・」


「ハイ・・・」


星南せいなと共にアヤツの後を追って事の顛末を見届けよ!」


「ハッ!」


「・・・行ったか・・・さて…」


ミキが出て行ったのと入れ替わる様に入って来た弟子の月光にミキを尾行する様に言付けると自らも読経を止めて何処へと姿を消す。


………

……


目的地付近デス

お疲れ様デシタ


三条から教えて貰った住所を頼りに車を走らせる事約2時間。

カーナビが案内を終了する宣言を聞きながら神社の駐車場へと車を滑り込ませた俊哉は駐車場からでも見える大きな鳥居に感嘆する。


不動神社…此処に楠コヨミさんが居る…?


俊哉と一緒に鳥居を潜ると山海寺と同じく空気が変わるが、発泡スチロールにブチ当たった様な感覚は無い。

然も、不快な感覚は無く、寧ろ神聖な雰囲気すら感じられ、不思議な感覚を味わう2人。


「あの…」


「ハイ…何でしょう?」


「はじめまして 私の名前は畠田ミキ 此方が芳賀俊哉と申します。お師匠様…山海寺の海野三条様より不動神社の神野命様を尋ねろと言われて来た者ですけど、ご本人様はいらっしゃいますか?」


境内に入ったは良いが、参拝客がチラホラ確認出来るだけで関係者は見当たらなかったので、おみくじやお守りを売っている場所で店番?をしている見た目40代半ばの女性に神野命の事を尋ねるミキであったが…


「ハイ…神野命は私でございますが何の御用でしょうか?」


ミキにしては、丁寧に話をしたつもりであったが、三条の名を出した途端に表情を堅くした命は何の用かとミキを問い質す。


「あの…此処では話し難いのですが、レイと名乗る幽霊はご存知でしょうか?彼の「どうぞ裏の入口からお入り下さい 奥で話を訊きます」」


ただならぬ雰囲気の命に気圧されながらもレイの名を出すと、ミキの話を聞き終える前に奥へと案内する命に促されるがままに建物の裏手の出入り口から中へと入るミキと俊哉。

中はお客さんを接待出来る様に座敷となっており、命に言われるがまま座る2人にお茶を出して対面に座る命。

2人にお茶を出した後、対面に座った命は少しの間、2人を凝視する。


「少しお話をしましょうか…」


この後、出合いとか印象とかどんな事をしているかとか小1時間程質問攻めにあうが、出会ったのは最近で返答に困る事もあった。


「あの…」


「ハイ 何でしょう」


「命さんって、もしかしたらレイの事を知ってらっしゃいますか?」


生きてる者なら興味を持って質問攻めになるのは仕方がないかと思うが、相手は幽霊。

祓い屋にとってはその存在が悪ならば祓いの対象にしかならなく、そこに一切の感情は入り込む余地もないので口調もどことなく事務的になる筈なのだが、まるで遠くに居る息子の近況を気にする母親の様な話し方はしない筈。

話をしている間に、もしかしてと思ったミキはその事を問い質してみる。


「えぇ…知ってますよ…ミキさんが付けてるイヤリングの中に、あの幽霊の欠片が入っている事もね」


「「・・・!」」


「驚いている様ね。

此処の結界は私の旦那の寺…山海寺より強力な結界が施されているのよ?悪意を持っていようが無かろうが結界に包まれていようが入って来れる幽霊は皆無に等しいの

私が事前に許可している幽霊以外はね。

と、言う理由で気付けるって訳よ」


「それで…」


「えぇ…会わなくなってからの期間にどれだけ成長したか知りたくてね…さぁ、結界を解除して貰えるかしら」


全てを見透かす様な眼差しで射竦められた様になるミキはイヤリングを外して結界を解除する。


「プッハァ〜!あぁ窮屈だった・・・ンッ?…ちょっと待ってくださいよ 今、本体を呼びますので…」


なんかカワイイ…


イヤリングの結界を解除したと同時に飛び出た体長1cm程のレイは、まるで我慢大会から開放された参加者の様にスッキリとした表情を浮かべて大きく伸びをした後、3人から注目を浴びている事に気付くと、恥ずかしそうな表情を浮かべて本体を呼び寄せる。


「お久しぶりです。命様…」


「他人行儀な言い方は止めてお義母さんって呼んで下さいませんか?既にレイさんは身内と同じなのですよ?」


「エッ…何で?っと…申し訳ありませんが念の為、もう一枚結界を追加して頂けませんか?この神社の結界なら大丈夫だとは思いますが、最近は縛りがキツくなっている様で3分保たないのですよ」


「そうね・・・ハイッ!コレで大丈夫な筈よ?」


欠片と入れ替わったレイの本体は最初こそ戸惑いの表情を浮かべていたが、命の姿を認識すると姿勢を正して丁寧に挨拶をする。

そんなレイを見て驚きの表情を浮かべるミキ。彼女レイの印象は短気で喧嘩っ早くド変態丸出しで落ち着きのない幽霊と印象であって、この場でも崩れたと言うか粗暴な態度をとるものだとばかり思っていたのだ。

然し、実際には真面目で丁寧な態度をとっている姿を目の当たりにしてレイの本質が解らなくなってしまう。


「ありがとうございます。時間も限られているので、早速で申し訳ありませんが、コヨミさんは…何処に…」


「そうね…その為にこの方々を巻き込んでまで此処に来たのでしょう?」


「ハイ…この2人には悪いとは思いましたが、俺にはこの方法しか思い浮かばかなかったので、協力して貰いました。」


「…でしょうね…然し、申し訳ありませんが、コヨミ…いえ…玲奈はこの場には居りません…ガードは完璧に致しますので、着いてきて貰えますか?」


「・・・?・・・解りました」


命に会えばコヨミと再会出来ると思っていたレイは命の話を不審に思いながらも着いて行く事にする。


「此処です…」


レイが連れて来られたのは不動神社から車で30分程移動した場所に在る墓地。その一角に存在している墓。

墓には海野玲奈の名が刻まれていた。


「マジか…どおしてこうなった…」


墓の前で愕然とするレイ。その姿を黙って見ているしか術がない3人。ミキに至っては目に涙をためて今にも泣き出してしまいそうな表情になっている。


「強くなって帰って来るって言ったじゃねぇかよ…何勝手に死んでんだよ…

婚姻届が有れば辛い修行にも耐えれるっていっていたよな…

それが何勝手に死んでんだよ…

このドSの腐女子が!

腐女子は不死身じゃなかったのかよ!

答えろ!」


愕然としていたのも束の間、怒りで体をプルプルと震わせて墓に向かって罵詈雑言を浴びせるレイ。そんなレイを止めようとしたミキと俊哉に「黙って見ていなさい」と制する命。


誰が淫乱腐女子だぁ!?言わせておけば好き勝手言いやがって…この変態亭主が!!!


「玲奈…貴女…」


罵詈雑言に反応したのか自らの墓の上で薬師如来像みたいなポーズをした状態で出現したコヨミは怒りの表情でレイに噛み付く。


「淫乱言ってねぇし!てか、何で俺が亭主なんだよ!」


あれだけの罵詈雑言を浴びせた後で感動の再会なんて言葉は有り得ない。それどころか直ぐにでも大喧嘩が勃発しそうな雰囲気がその場に流れる。

コレは拙いと思った俊哉とミキが慌てて2人の間に割って入ろうとした所、またしても命が二人を制して成り行きを見守る様にと注意する。


「あら?まさか、コレを忘れたとは言わせないわよ!?」


「テメッ!ハメやがったな!?」


レイの眼の前で懐から取り出した例の婚姻届を突き付け、ドヤ顔で勝ち誇るコヨミ。

最初はハァ?それがどおした?的な態度をとっていたレイに対して赤く光を発した婚姻届に全てを察知し、激しく抗議を始めるが時既に遅し。


「レイがサインした時点で契約は成立していたのよ?もし、契約を破棄しようとしたり不貞をやらかしたその時点でレイは地獄行き確定だからそのつもりでね♡」


レイの負けの様ね♡


見ないつもりでいたが、2人のやり取りが面白過ぎてつい様子を伺っていた真智子が思わずチャチャを入れる。


「ふぅ〜ん…レイってば早速浮気をしていたんだ?」


それは、一瞬の出来事であった。

思わず出た真智子を見逃さず捕まえたコヨミがレイの中から真智子を引き摺り出したのだ。


「チョッ…や…ヤメロ…苦しい…」


真智子を捕まえてほんの少し力を入れただけなのに何故か苦しみだすレイ。

これには流石のコヨミも「どおなってんの?」と不思議に思い、今度は真智子を擽ると2人同時に笑い出してしまう。


「何がどおなってんの?この子は一体誰?何でレイの中に居るの!?」


何が何だか分からなくなり、2人を目の前で正座させて理由の説明を求めるコヨミに対して観念した様に全てを話し出すレイ。


「・・・と、言う訳で真智子…いや、和樹は俺と一心同体の存在になってしまったんだよ」


「切り離す事は?」


「無理!出来たら既にやっている」


「・・・まぁ良いわ・・・あたしとレイの仲を邪魔しないと誓えるのなら許してあげる!」


「誓います!絶対にそんな事はしません!」


「コレでレイとの新婚生活が出来ると思っていたのに、まさか小姑までくっ付いて来るとは思わなかったわ…」


事情を知ったコヨミがヤレヤレと言った表情で真智子の存在を許す事にする。


「って…こんな事をしている場合じゃないんだって…早速で悪いけど、今すぐ雨音に戻ってやらなきゃならねぇ事があるんだ。

復活早々で悪いけど、手伝ってくれ」


いつになく深刻な表情でコヨミに懇願するレイ。

その、ただならぬ表情を見て余程切羽詰まった事か発生しているのだと察したコヨミは無言で頷く。


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