第71話 コヨミさんを探して1
「祓い屋 楠コヨミがお師匠様…海野三条の愛娘だったなんてね…」
AM8時過ぎ
ミキは俊哉の運転する車に乗って山海寺の在る八海山を訪れていた。
「で?俺は此処で待っていれば良いのか?出来れば少し眠りたいのだがなぁ」
八海山の3合目付近に在る駐車場に車を停めた俊哉は夕べは殆ど眠れなかったらしく、欠伸をしながらミキに訊ねて反応を見る。
「そうね…俊哉は此処で待っていて貰えるかな。此処から本堂迄は長い石段になっているからキツいと思うし。」
右耳のイヤリングを外して結界が正常に機能しているかどおか確認しながら返事をした後で本堂へと繋がる石段を登り始める。
その頃、要石の上では夕べの事件の事と今後の事を相談しに来た箕浦刑事とレイと真智子の話し合いが行われていた。
レイ「マジかそれ…」
箕浦刑事「マジです。幸い、命に別条は無かったから良かったものの、もう少し突入が遅れていたら取り返しがつかない状況になっていたのは間違いないわ」
レイ「とんだ失態だぜよ…」
真智子「とは言え、まさか相手がそんな手段に出るなんて予想も出来なかったわけだからレイが気にする必要は無いと思うけどな」
レイ「イヤ…失態は失態だ…こっちの弱点を曝け出したのとかわりはないんだからよ」
真智子「確かにそれは言えるわね…5対2では勝ち目が無いと言うか、今夜また同時に複数の事件を起こされたらそれこそ終わりよ?」
レイ「そう言えば1人頭から血を流したまま倒れていた男が居たけど、アイツはどおなった?」
箕浦刑事「・・・私が雨降山に到着した時に連絡があったのだけど亡くなったそうよ・・・」
レイ「俺が引き止めて無ければ間に合っていたとか…か…?」
箕浦刑事「既にあの時には心肺停止状態だったからそれはないと思うわ…それに、ホームレス襲撃事件の方は5人の死者を出しているし」
レイ「そうか…完全に後手に回ったせいで何人もの死者を出しちまったって事か…マジで落ち込むよ…」
真智子「私もよ…」
箕浦刑事「レイや真智子ちゃんが悪い訳じゃあないわ…悪いのはぜぇ〜〜んぶあの学園とそこで悪事を働く悪党幽霊よ」
レイ「そうなんだけどな…せめて後1人いてくれないと勝負にもなんねぇよ」
真智子「それもそうだけど、高坂穂乃果とか言ったかな?あの女性はどおなったの?」
箕浦刑事「取り敢えず一命を取り留めたけど、意識は戻って無いわ…意識が戻ったら事情聴取しなきゃねってところよ。彼女…恐らくは1人殺してるし…」
真智子「そおなんだ…正当防衛又は過剰防衛ってやつに当たるのかな?」
箕浦刑事「十中八九はね…それでも何があってそうなったのかを問い質さないとならないのは間違いないわ」
真智子「そうよねぇ…幾ら正当防衛の果ての出来事だとしてもねぇ…」
箕浦刑事「だからと言って記憶操作とかはヤメてね…特に真智子ちゃんはやらかしそうだからね」
真智子「チッ…!バレてんのかよ…」
箕浦刑事「あんた達は前科が有るからね。絶対にダメよ!?」
レイ「じゃあ、四ツ谷や学園が動いて被害者や加害者を消しにかかったら?アンタら警察じゃあ防ぎ様がないのではないのかな?」
箕浦刑事「ウッ・・・!痛い所突くのね?って、あんた達の何方かが見張りに入っているのではないの?」
レイ「そこまで余裕が無かったからやれてないよ」
真智子「右に同じ」
箕浦刑事「えぇ〜監視くらい着けておいてよ」
レイ「あのなぁ…アレはダメ!コレはやれ!ってあまりにも虫が良すぎるんじゃねぇか?そこまで助ける義理はねぇよ…俺達は便利屋じゃねぇぞ!」
箕浦刑事「そんなこと言わずにさぁ〜ネッ♡」
真智子「飽くまでも持ちつ持たれつの関係なんだからさ。無理なものは無理よ。で?レイの身元は何か解ったの?」
箕浦刑事「それなんだけど、濱田壊には腹違いの弟がいたところまでは解ったから、当たりかなと思って調べたら、5年前まで生きていたのよ。」
レイ「因みにソイツの名前は?」
箕浦刑事「匠達人って名前で20年前まで濱田建設の社長をやっていたらしいわ」
レイ「たくみたつひと…」(・・・なんだろう・・・この違和感・・・)
真智子「レイ?」
レイ「ン?あぁ…何でもねぇよ…」
箕浦刑事「魂が抜け出て行方不明になっていても肉体は生きているって話は聞いたことが有るから、万が一って事も考えて生前の写真を探したのだけど、これがもの凄いブッサイクでデブな男でさぁ…アレはレイとは別人だわ。てか、濱田壊とも似ていなかったけどね」
真智子「生前の写真って…若い頃の写真も手に入れたの?」
箕浦刑事「当然よ!浦川学園の卒業生だったみたいでね。卒業アルバムに載っていたわよ」
レイ「そっか…まぁ、しゃ〜ね〜か!」(どおやら最初の場所では無かったらしいな。)
真智子「唯一の手掛かりが濱田壊だったのに…」(えぇ…移動しているわね…一体何処に行くのかしら…)
箕浦刑事「話が横道に逸れたけど、今回の事件で本署も目一杯なのよ…」
レイ「それと、四ツ谷達の圧力が何時かかるか解らないから…ってか?」
箕浦刑事「解っているなら…ネッ♡お・ね・が・い♡」
レイ「・・・無理だな・・・アンテナを設置しても見れるのは俺か真智子だけだし四六時中監視している訳じゃあねぇからな。それに、俺達はこれからやる事があるから手は貸せない。」
箕浦刑事「ケチッ!」
真智子「例えこれが森田警部のお願いでも無理なものは無理!私達は忙しいの!Understand!?」
箕浦刑事「・・・解ったわよ・・・忙しいから帰るわ」
レイ「悪いな…学園内の幽霊共の始末はやって置くからそれで勘弁してくれ」
箕浦刑事「それがないと真実が隠されてしまうからね…お願いね!」
真智子「りょーかい」
?「アタイが行きましょうか?」
レイ「ゆう子か…ワンダーランドの方は良いのか?」
ゆう子はレイが遊び相手欲しさにR級へと覚醒させた廃ビルの暗闇に佇んでいた幽霊である。
幻覚と憑依に特化した幽霊だと判明しているのだが、攻撃力・防御力は皆無に等しく2人は戦力にカウントしていない。
生前の名前は綾辻ゆう子享年20歳
上司との不倫が相手の奥さんにバレてしまい、逆上した奥さんに廃ビルの中で殺害されてしまう。
生前の容姿はその他大勢に埋もれてしまう程の極々普通。
子供の頃の夢は、くノ一になる事であったらしい。
ゆう子「ハイ・・・キッチリと潰して参りましたし金蔵も先日逮捕されました。」
真智子「それで箕浦刑事が此方の応援に入っていたのね」
ゆう子「そうです。」
レイ「でもよ…ゆう子のレベルでは5悪どころかその三下にも敵わないぞ?ヤメておいた方が良いと思うけどな。」
ゆう子「見張りなら出来ますし、危険を感じたら直ぐに逃げますので大丈夫です。」
レイ「じゃあ、お願いするよ。祓い屋と他のR級以上の幽霊と警察関係の者には気取られるなよ!?」
ゆう子「御意!」
くノ一に憧れていただけあってか、片膝を付いた姿勢でレイと真智子に頭を下げ、スッと掻き消えるゆう子を見送ったレイはヤレヤレといった表情を浮かべて真智子に話しかける。
レイ「潰したとか言っていたけど、黒尾の欠片はどおなったんだ?」
真智子「さぁ…この件が片付いたらジックリと話を訊きましょう。」
レイ「だな…取り敢えずはミキから呼ばれない限り此処から動く訳には行かないからよ」
思わぬ助けを得て警察への協力も何とかなりそうだと安堵したレイと真智子はミキからの一報を待つ。




