第68話 同時多発事件? 2
今回のお話は死人出てます。
正直言ってムナクソ回と言っても良いかも知れません。
レイの中に居てアンテナの監視をしていた私の目に飛び込んで来た映像は私の怒りメーターを振り切るに値する程の映像だった。
ホームレスが集まる公園にやって来た4人の男達。
覆面で顔を隠しているみたいだけど、田中貴司と藤掛雄一は確認出来た。オーラのパターンは記憶しているから見ただけで本人確認は出来るから顔を隠しても無駄なのよ。で、残りの二人のオーラには記憶に無いと言う事は初見の者って事ね。
4人の男達は金属バットやゴルフクラブやらを手に持ち、暫くの間、公園内を徘徊していたのだけど、公衆トイレ裏に単独で住んでいたホームレスの男性を襲ったのを皮切に次々とホームレスを襲い出した。
まるでゲームを楽しむかの如く鼻歌混じりで
田中貴司なんか「恨むのなら、三上秀一を恨むんだな。アイツさえ自殺してくれればこんな目に遭わなくて済んだんだ」とか捨て台詞を残す始末。
マッタクコイツは…
どんだけだよ…開いた口が塞がらないとはこの事だわ…全く…
てか、田中貴司と藤掛雄一の二人にはレイの欠片が入っていた筈だし、ちょっとやそっとでは乗っ取り返すなんて出来ない筈なのだけど…不思議に思った私は事の成り行きを見守った。
この公園内に常駐しているホームレスは20人程でリストラと妻の浮気から他人を信じられなくなってホームレスへと落ちた者もいれば、ただ単に他人との関わり合いを極度に嫌った為に引き籠もりの挙げ句に両親から処置なしと言わんばかりに追い出されて落ちた者。多額の負債を抱えて会社を倒産させてしまい、借金取りから逃れる為に落ちた者とか理由は様々だがホームレス同士仲良くやっているのよ。どんな理由があってもそんな彼等を痛め付けて良い殺して良い理由にはならない。
ピシッ…
4人の凶行を観ていた私の中の奥底に封印している卵の殻にヒビが入る音がする。
私の怒りの感情に反応したそれが出て来ようと動き出したのだ。
ダメ…まだこの子の出番じゃないの…頼むから大人しくしていて…私は努めて冷静になろうとしたのだけど、アンテナが次に映し出した光景を目の当たりにして全ては徒労に終わってしまう。
藤掛雄一が振り抜いた金属バットと名も知らぬ男(面倒なので以後の呼び方はCとします)が振り抜いたゴルフクラブの一撃が年寄りのホームレスの頭部を同時に捉える。
頭から血飛沫を上げ、倒れたお年寄りはピクリとも動かなくなる。
「お…おい…今…グシャッって感触したよな…」
「し…知らねぇよ…」
「知らねぇじゃねぇよ…マジで殺してしまったんじゃね?」
「し…心配ねぇって…コイツらから襲って来たから怖くなって抵抗したって言っておけば問題ねぇよ…言い訳ならどうとでもならぁ…取り敢えず2人と合流して逃げっぞ!」
「あ…あぁ…」
動かなくなったお年寄りから魂が抜け出そうとするのが見える…って事は即死させたの?
重傷者は出るだろうと予想はしていたのだけど、死人が出るなんて想定外よ。
てか、5悪が操る生徒達の殺しはご法度じゃなかったの?それが唯一無二のルールじゃなかったの?
エッ…?あの姿って
パニック状態に陥る私の目に映る影。
・・・佐伯澪?…あのクソアマ〜!
生前、学園内の除霊と浄霊をしに行った時に2度程対峙した幽霊で、2度目にして確実に地獄送りにした筈…その佐伯澪が三度眼の前に現れたのだ。
バリーン!
私の怒りが頂点に達したと同時に響く音。
「アレはアナタでは無理です。私に任せなさい」
音の発生源から飛び出したのはもう一人の私。でも、ターゲットを無慈悲に消滅させるだけの感情の無い戦闘マシーン。
ダメ…まだこの子に任せては…
抵抗虚しく入れ替わったもう一人の私はレイを集団万引の対処に行かせて現場へと向かう。
………
……
雨音総合公園
廃工場跡地の半分の面積を利用して造られたこの公園は、子供達が遊ぶ遊具施設から各種スポーツ競技から芸能人のコンサートにと使用される多目的スタジアムと街が経営するトレーニングジムと体育館が存在しており、利用料金も格安とあって常連客も多数存在していて大いに賑わっている。
然し、それは昼間のみの顔で、夜になると殆ど人気が無くなる為にホームレス達の格好の塒へと化すのだ。
以前は繁華街から少し離れた公園が塒であったホームレス達は自治体の猛抗議により、退去させられ困り果ていた時に出来たこの公園を新たな塒とする様になった。
あの2人は1人殺したおかげで一時的にせよあの女幽霊の呪縛から逃れた様ね。
あぁ…言っておくけど、此処からはもう一人の私の実況を私、真智子がやるのでそのつもりで。何せBは余計な言葉は一切発しないので実況しないと何が何だか分からないじゃない?因みに私の中のレイの本体の周囲には街中のアンテナから送られてくる映像が360℃展開されていて、監視させているのでこの現象に気付けて居ないわ。
(作業開始…広域監視結界を展開…ターゲット探索…補足…誘導開始…)
面倒なのでもう一人の私をBと呼ぶ事にするけど、Bが現れたのはレイのアンテナが設置されている場所じゃなくて多目的スタジアムのド真ん中。
こんな場所に出て何をする気なの?と思っていたら公園全てを覆い尽くす程の広域監視結界を展開させて4人と佐伯澪の居場所の把握をしている模様。
4人と佐伯澪の位置は直ぐに把握し、分身体を4体作り出して対処に向かわせる。
この分身体は実体が有り、幽霊が見えない生者でも普通に見えてしまう程の強化型分身体。
然も、今の私より強いと来ているのだからムカつくことこの上なし!
そんな強化型分身体を4体同時に飛ばし、更にそれらを操りながら予め設定した場所に誘導するみたいね。
その時の田中貴司ともう一人の男の状況はと言うと、田中貴司ともう一人は最初こそ2人で組んでホームレスを狩っていたのだけど、動きが悪い田中貴司と組んでやるより単独の方がやり易いと考えたのか、名前も知らないもう一人の男(面倒なので以後Dと呼ぶ事にする)が嬉々として単独で暴れだしたのだ。
「ヒャハハハ…じゅうにんめぇ〜げきはぁ〜!」
何が起きたのか解らずに襲われ、あまりの痛みに蹲るホームレスの男を金属バットで滅多打ちにし、狂った様に喜びの声を上げるD。
どおやらこのDは暴力と言う名の快楽にどっぷりと浸かっている様子。
「オイ!もうヤメロ!それ以上やったら死ぬぞ!」
相手を罠に嵌めて追い込むのは好きでも暴力は好きではないのか、はたまた殺人まではするつもりではないのか解らないがDの暴挙を見かねた田中貴司が背後から羽交い締めにする。
「あぁ〜ん?死んで良いんだよこんな社会の役に立たないゴミクズども!俺様のストレス発散に貢献出来るんだ!コイツ等も嬉しいだろうよ!」
コイツ…
まだ暴れ足りない!気の済むまで暴れさせろ言わんばかりに田中貴司を睨みつけながら羽交い締めから逃れようとするD。
然し、田中貴司の力は思いの外強く逃れる事が出来ない。
「クソッ!放せ!放しやがれ!このバカ力!放さんとテメェも殺っちまうぞコラ!」
既にDの頭の中には目の前のホームレスにとどめを刺す事しかなく、田中貴司の足を踏んづけたりして必死に逃れようとしたのだが開放してくれそうにもない。
と…その時…
「オイ!何やってる!警察が来るぞ!早く逃げっぞ!」
2人を探しに来たCに言われ、慌てて出口へと向かう。
「アレッ?出口に向かった筈だけど何で…?」
2人がCに誘導されて来たのは体育館の前で、出口に行くには真逆の方向にいかないとならないの。警察と聞いて余程慌てた2人は逃げるのに精一杯だったので気付かなかったのかな?
「やっと見付けた・・・って・・・何でDがそこに居んだよ!」
「それはこっちの台詞だC!俺達はテメェに言われて此処まで逃げて来たんだぞ!」
構図としては、田中貴司とDはCに誘導され、藤掛雄一とCはDに誘導されて此処に来た事になるのだが、実際的にはCが田中貴司とDを見付けた時は、既に合流していなければ説明が付かない。
何が何だか分からない状況の中、さらなるパニックが4人を襲う。
ヒトゴロシ…ヒトゴロシ…ヒトゴロシ…
言い争いになりかけた4人の耳に聞き慣れた4つの声が聴こえてきたのだ。
有り得ないその声に驚き固まりながらも周囲を見渡す4人。
「ど…ドッペルゲンガー…!?」
現れたのは4人のそっくりさんで、利き手には金属バットやゴルフクラブではなくギラリと妖しく輝く一振りの日本刀が握られている。
「ヒトゴロシめ…ブジニニゲラレルとオモウナヨ…」
ヒィ…
恐怖は一瞬。なんの躊躇も有無を言わせる間もなく4人のドッペルゲンガーはオリジナルを真っ二つに切り裂く。
ドサッ…
日本刀で斬り裂かれた4人は死を感じる事も無く意識を手放したのであった。
(田中貴司と藤掛雄一とC及びDの処理完了…続いて佐伯澪の追跡…確認…発見…作業開始…)
ハヤッ!もう見付けたの!?あまりの迅速さに驚く私を置いてけぼりにして移動開始するBの行き先は…
「魂♪魂♪…
なぁんだ肉体は汚くても魂はメッチャキレイなんだぁ(ウットリ…)
この魂をたぁ〜ぷりと苛め抜いてぇ〜
澪ちゃんの大好きな漆黒に染め上げてから取り込むの…あぁ〜ん…澪ちゃんゾクゾクしちゃう…アン♡」
暴行され動かなくなったホームレスの魂を回収して回る佐伯澪は特製の網の中に入れてある魂を覗き込んで軽いエクスタシーに達したのか、フヤケた表情を浮かべて独り悦に入っている模様。(何度黄泉帰ってもやる事変わらないのね…このドSの変態は…)
「ん〜…?まだ終わらないの?20人全員の魂回収が目標なんだからね!グズグズしている暇はないのに…って…アレッ?何で彼奴等にアクセス出来ないの?」
どおやら佐伯澪は4人が襲った人達に夢中になり過ぎて4人がどう言う状況に陥っているのか把握していなかった様子。てか、こんなにも速く4人を処理されるとは夢にも思ってなかった筈だしね。
「・・・!!増田和樹・・・あなた魂喰に食われた筈なのに・・・何でまだこの世に存在しているのよ・・・」
佐伯澪の姿を発見したBは間髪入れずに移動したのだけど、移動した時には真智子の姿ではなく増田和樹の姿で佐伯澪の眼の前に姿を表したのだ。
てか、今の発言で確定したわね。彼女も他の5悪も奴等の…五欲の手先って事が…
「ちょっと…何でまだこの世に存在しているのって訊いてんジャン!答えくらい訊か…せ…て…アレッ?
何で右と左の視界がズレてんの?何で澪ちゃんの身体が燃えてんの?アレッ?」
ホント…一瞬で仕事を終わらせちゃうんだから嫌になっちゃうわよ…ホント…何があったかと言うと…
和樹の姿で現れたBに疑問を浴びせた佐伯澪は疑問の解消させる事なく背後に現れたB(これは真智子の姿)に真っ二つにされたのであった。
あえて技に付けるのなら、炎斬唐竹割りって言ったところかしら…エッ?ネーミングがダサいって?良いのが浮かばないんだからホッといて!
とにかく、技の名前に有る様に、斬ったその斬り口から炎が発生して対象を焼き尽くす技なのよコレ。
斬り口から発生した炎は佐伯澪に恐怖の念を抱かせる間もなく焼き尽くす。
(作業終了…事後処理はアナタに任せます…)
って…ハァ?ちょっと…マッ…しょうがないか…私じゃあこれ程迄に迅速且つ的確に動けなかったでしょうし最悪、全滅させていた可能性だってあるのだから…お疲れ様…ありがとね…
アッ!あの4人は斬ったは斬ったのだけど、4人を斬ったんじゃなくてその中に居た佐伯澪の欠片を斬っただけだから死んでは居ないわよ?
とは言え、幻術も掛けてあったから本当に斬られたって感覚はあったでしょうけど。
敢えて技に名前を付けるのなら、幻影剣朧切りってところかしらね…(ダサいって言わないでね)
で、この1時間後、通りすがりのランニングマンが体育館の前で気を失っている4人を発見し、その姿から救急車ではなく警察に通報する。
この事件の犠牲者18名
内訳
重傷者13名
死者5名(即死2名 搬送先の病院での死亡が3名)
の大惨事となり、当然の如く4人は逮捕される事になったのであった。
そうそう、不幸にもお亡くなりになった方達は全員あの世に送って差し上げました。
来世では良い事が沢山有ります様にって祈りを込めて…
さて…レイの方も片付いた様だし、残るは強姦魔達の始末だけど…森田警部は上手くやっているかしら…