第65話 レイVSミキ
「かかった!罠とも知らずに食い付いて来やがった…単純馬鹿め!」
浦川学園体育用具室で小躍りする男 黒尾康夫 は次の一手を発動すべく体育用具室を出る。
20時過ぎ
「あの生徒…三上秀一だっけ?あの後どおなった?」
秀一の事が気になって眠れぬ夜を過ごした俊哉に頼まれたコンビニ弁当とレイへのお礼を持ってやって来たミキにあの後の事を質問する。
「昼間に秀一君の母親から連絡が来て外で会って話したのだけど、検査の結果が思わしくなかったから暫く入院すると言う事と、虐があった事を学園側が黙認している事、その他諸々考慮して今後の事を考えると言っていたわ」
秀一の状況はと言うと、有刺鉄線による傷と心理的ダメージが酷い事、更に性行為による下半身へのダメージが思いの外酷く、入院が妥当だと判断されたらしい。
静香が学園に来なかった理由は言うまでもない。
「性病のオマケが付いているみたいだし、そのまま退学して学園を訴えるんじゃないかなと思うわ…」
学園はあんな事が有ったにも関わらず何事も無かったかの如く当たり前に授業し、普段と変わらぬ日常が繰り返されていたとの事。
ミキの話しを淡々と訊いていた俊哉はミキは大丈夫なのか?と問い質す。
「レイって言ったかな…あの幽霊…」
実は、ミキの中に入っていたR級を取り除いた時、このままの状態で学園に行くと、また憑依されるとの理由でお守り代わりに欠片を残していて、そのおかげで事なきを得ている。
然し…
「アイツ、私に対して何て言ったと思う?いきなりピーよ?然も、立て続けにピーとかピーとか言ったのよ!?許せないわ!」
何故自分があんなド下ネタを浴びせられなければならなかったのかを理解出来ていないミキ。
そんなミキに直前の状況を確認した俊哉は内心「そりゃあ、言われてもしょうがないだろ」とツッコミながらも色々と動いてくれているのだから勘弁してやれとフォローを入れる。
「マイドォ〜幽霊のレイ君でぇ〜す…フギャ!!」
そんな中、空気を読まないで床から現れたレイを踏み付けるミキに何してくれてんだこの馬鹿女!と、今度は壁から顔を出して抗議すると今度は平手打ちされ、更に床から顔を出して抗議するもまた踏み付けられるそんな事が暫く続き…
「ドタバタ喧しい!モグラ叩きかよ!」
繰り返されるモグラ叩きならぬレイ叩きに呆れ返った俊哉が止めに入る。
怒りで真っ赤な顔をし、肩で息をしながら尚もレイを睨み付けるミキではあったが、ここに来てレイに対して妙な違和感を感じ始める。
(手応えは有った筈なのに何でこの幽霊はノーダメージなのよ…何なの…この幽霊…)
幽霊を殴る時は決して手加減をしないし、今までだって一発でダメでも2〜3発殴ればかなりのダメージを与えられている筈だし、ある程度弱っていればそこから強制浄化出来たのにそれがレイには通用していない。
「あの時、俺がああ言わなければ間違いなく飛び降りていだろがよぉ…止めてくれありがとうじゃないのかよぉ…全くよぉ…」
独り言の様にブツブツと呟くレイに「悪かったわよ」とふて腐れながらも謝罪するミキに
「悪いと思っているなら俺に協力しろ」
と言い放つレイに思わず身構えてしまう。
そんなレイに対して状況はどおであれ、言ってしまったお前のミスもあるのだからと宥めつつも何を協力したら良いかを俊哉が問い質す。
「祓い屋楠コヨミ…もとい…海野玲奈が今、どおなっているかを調べて、可能なら連れてきて欲しい」
と言い出すレイに渋々ながら了承するミキであったが、何故自分なのかとレイに俊哉が問い質す。
「何故かこの街に縛られていて、他の街に行けねぇんだな…コレが…案の定、コヨミはこの街に居ないのはハッキリしている。
こればかりは生者に頼るしかねぇんだ」
「仕方がないわねぇ…取り敢えず、明日にでも調べて来るわ」(海野…お師匠様なら知っている筈よね…)
祓い屋、楠コヨミの存在は知ってはいたが、その素性も知らなければ面識もないミキは海野と言う苗字で師匠の三条なら何か知っている筈と当たりを付けた模様。
「で?その、海野玲奈とか言う祓い屋はレイの何なんだ?」
いきなり展開に付いて行けない俊哉であったが、レイとコヨミの関係が気になったので、その事をレイに訊ねるとこれ迄の経緯を正直に話し出す。
「・・・って事は・・・」
「再び会う約束として婚姻届を書かされた」
「約束ねぇ…てか、サインしたの?」
「したよ?するしか無かったんでな」
そう言いながら俊哉のデスクの上に転がっているボールペンを持ち上げて宙にレイと描いて見せるレイ。
「あのねぇ…婚姻届なんて…コヨミさんがアンタに対して逆プロポーズしたも同然じゃないのよ!迂闊すぎると思わなかったの?」
「だから、サインするしか無かったと言っている!」
気が付いて無いのか、超が付くほど奥手なのか、はたまた両方なのか…状況はどおであれ、生者が幽霊に対してまさかの逆プロポーズなんて前代未聞の珍事であるのは間違いない。
レイの話しを聞いて、その婚姻届は唯の約束ではなく本物の夫婦になると強制的に約束させたのではないかと推測するミキであったが、此処で1つの疑いが残る。
ミキのレイに対する印象は、変態幽霊ではあるが、真っ直ぐな性格で、生者を道連れにしたり呪ったりしないタイプの幽霊。
学園に巣食っている幽霊とは正反対の幽霊だと判断出来る。
印象通りの幽霊なら、生者を道連れにしようとか危害を加えようとかはしない筈。
では、何故コヨミはレイに逆プロポーズをしたのか…危険と知りつつ…
(…と…言うことは…そう言うこと…なの…?)
そうは思ってもこの目で確かめてみない限りは断言出来ない。
「それと、ミキって言ったっけ?お前は暫く学園へ行かない方が良い。いっその事、辞めた方が良いと思うぞ」
ミキがコヨミの行動を考察しているのを一切無視して話しを進めるレイが今度はミキに学園を辞めろと言い出す。
流石にこの1言はカチンと来たみたいで、何でそんな事を言われないとならないのよと噛み付くミキにコレを視ても学園に行くと言えるか?と勝手に俊哉のパソコンを起動させて浦川屋のスレッドを見せる。
「何コレ…マジで有り得ないわ…こんなの嘘に決まってんでしょう?てか、よく鍵を抉じ開けれたわね」
浦川屋のスレッドに掲載されていたのは、ミキや他の女性教師に対する誹謗中傷だけでなく、女性教師全員に対するレ●プ計画であった。
「まあな…侵入出来れば簡単なもんだ。信じられないのなら行っても構わないけど、どおなっても俺は知らんからな」
このスレッドはロックされていて、ロックナンバーを知っている者しか閲覧や書き込みが出来ない仕組みになっている。
ロックを解除して中を確認しただけで13人のメンバーが書き込みを行っている様子。
最初はミキに対する誹謗中傷や卑猥な書き込みのみであったが、次第に話が広がりこの流れになって行った模様。
オープンスレッドなら、デマだと一笑に付せられるところだが、態々鍵をかけて犯罪計画を練っているところを考えるとマジネタと考えても良いと思う。
浦川屋に入り込んだ時、サイトの構成や乱立しているスレッドの全てを把握したレイであったが、何故かこのスレッドともう1つのスレッドに入り込む事が出来なかった。
更に、内部を徘徊しているあのスライムモドキに追い回されてユックリと調べる事も出来なかったのだが、追い回されて長居したおかげか偶然にもロックナンバーを入力して入場する者がいた場面に遭遇し、中を閲覧する事が出来たのだ。
「ひでぇ…既に2人も餌食になってる…あの学園、何時から犯罪者養成学校になったんだ?」
最新の書き込みを視た俊哉の肩が怒りで震える。
最新書き込みには女性教師の岬遥と江村直美の写真と共に成果の自慢をする書き込みが成されていた。
更にはミキの部屋の前で待ち伏せしている輩がいるらしく、早く帰って来いとか楽しい事しようぜとか書かれている。
この書き込みが本当であった場合、このままミキを帰したら取り返しのつかない事態になると踏んだ俊哉はミキに帰らない様に忠告すると同時に警察に通報する。
……………
レイが俊哉君の部屋に入る少し前に本体をレイの中に残して離脱した私は森田警部さんの様子を見に行ったのだけど、序に手伝えと脅されてしまい、今は警部さんのお手伝いの真っ最中なの。
何のお手伝いかって?勿論、浦川学園の現状の把握と四谷の身辺調査よ。
「警部さん…ちょっと待って…」
普段は極力干渉し合わない様にしているのだけど、今回は相手も多数だし、情報を共有しないと対応出来ない。
だから、レイが何をしているかはリアルタイムで解る様になっているの。
「パソコンで、今から言うアドレスのサイトを覗いて視てよ」
なので、レイが開いた浦川屋に書かれている事も余裕で知る事が出来たので、鍵付きのスレッドを閲覧させた。
「・・・マジか・・・コレ・・・」
トンでも書き込みのオンパレードを視て絶句した森田警部は直ぐにサイトの情報を専門部所に連絡し、解析と捜査の依頼をすると共に名前の上がっている2人の女性教師の身元調査を始める。
う〜ん…何か展開が急じゃない?
学園の名簿をチェックしながら昨日からの事を思い起こしていた私は一連の生徒の動きに何者かの意図を感じていたのであった。




