第59話 真相へ1
今回は何時もより少し長いです。
「何で自殺なんて…」
三上静香は何故息子が自殺未遂をしたのが理解出来ないでいた。
秀一は自宅では普通に生活していたので学園生活はどんな感じなのかは一切知らない。
救急搬送されて来た後、とりあえず目立った外傷の応急処置をしただけで、後は診察が始まった後で検査となっているし、今は薬で眠っている為に話を訊く事も出来ないでいるのだ。
不安と焦りで混乱する中、一筋の光明が照らしたかの如く男の声が頭の中に響き渡る。
フと周囲を見渡すと病室の出入口に見知らぬ男の影が手招きしている。
此処では何だから一旦外へ出よう
男の影は静香を誘う様に手招きをして誘導しようとするが、祓い屋稼業を営んでいる静香は男の影の誘導には乗ろうとしない。
「フン!幽霊の話なんぞ誰が聞く耳持つかい!!」
祓い屋稼業の悪癖であろうか、絡んで来る幽霊は祓いの対象としか見ていない静香は素早く印を結び男の影の動きを封じようとするが、男の影がスッと搔き消えてしまい、失敗に終わってしまう。
原因は調査中だけどそこの少年が何をされていたかを知りたくはないのか?
消えたと思った影は今度は静香の背後に現れて静香の耳元で囁く様に挑発する。
「アンタは一体何者だい!タカが幽霊の分在で一体何かが解かるってんだい!?」
何度か影を捕まえようと試みるも悉く失敗に終わってしまい、イライラが限界値迄達した静香は強い口調で怒鳴り散らす。
ほぉ?此処は病室だってのを忘れてはいませんか?いけませんねぇ…短気は損気ですぜ…
それに、幽霊だからこそ解る事柄もあるってものじゃないですか?
つい怒鳴り散らしてしまった静香に逆ギレする事もなくケタケタと笑いながら注意すると冷静さを取り戻したのか
「幽霊に頼らなければならないなんて、アタシもヤキが回ったねぇ…屋上にでも行こうか」
と、返事をした後で立ち上がり、屋上へと向かう。
「此処なら誰も居ないから思う存分話も訊ける。けど、デタラメ言ったら成仏させるよ!」
屋上へ到着すると、レイがこっちに来いと言わんばかりに手招きをしているのが見える。
強がりを言っているが息子がこんな事になった理由が知りたい静香ではあるが、初めて対峙するレイに対して例えようのない感情に支配されそうになり、咄嗟に何時も持ち歩いている対幽霊用の御札と数珠を懐から取り出して身構える。
「オット…こちとら喧嘩なんてしたいと思っていませんぜ?飽くまでもあの少年が何をされたのかその途中経過を聞かせてあげようって思っただけですぜ?」
喧嘩を売って来るなら買ってやる的な勢いで身構えたレイであったが、そんな事をしている場合ではない。相手は祓い屋であるが為、何時攻撃されても良い様に臨戦態勢を維持しつつも守護霊から訊いた話を静香に話して聞かせる。
その頃
「さぁ〜てと…やりますか…」
病室のベッドで眠る秀一を見下ろし、秀一の額に手を翳し何かを探る様な動きをした後で残念そうな表情を浮かべ、仕方がないと呟き念を送り込む。
レイはまだ上手に出来ないが、真智子は対象の人物の記憶を24時間迄遡って垣間見る事が出来る。
然し…
ン??何でブロックされるの?
何者かに記憶のブロックが施されている様子で秀一の記憶を垣間見る事が出来ない。このままでは夢枕に立った所で上手く行かない可能性が高い。
夢枕に立った時は本人の魂に直接呼びかけるが、記憶を垣間見るのは夢枕に立つ事と同じ原理で行っている。
魂に直接話しかけるのが夢枕に立つと言う行為であり、刻まれた記憶を強制的に引き出す行為なのだ。それが出来ないとなると、何者かが秀一の魂を掌握又は呪いを掛けていると言う事になる。
本来、それが出るのは界低に捕らわれている幽霊だ。もし、そのパターンだと界低に趣き秀一の魂を捕らえている幽霊を何とかしないとならないが、そもそも界低に行けない以上、それは無理な相談である。
誰よこんな真似をしてくれたのは
最初は黒尾を疑ったが、黒尾は何方かと言うと猪突猛進のイノシシタイプでこんな手の込んだ事はしない筈。だとすると、強力なブレーンが加わったと判断出来る。
少し時間は掛かるが、私は注意深く正体を探る事にする。
これなら何とかなる…開!
調べたところ、秀一の魂は掌握ではなく呪いの一種で覆われていただけで侵食されてはいない模様。恐らくは死亡した瞬間、完全に呪われて術者に搾取される類のものだろう。
私は細心の注意を払いつつ呪いの解除をし、更に辺りを結界で包み込み、秀一の魂を探る。
「酷い…これが高校生がやる事なの?」
秀一の虐めに関わっているのは男3人と女2人。記憶によると、朝の通学時に必ず迎えに来る2人の男に連れられて女のアパートに行き、そこで女装させられてから学園に行く。
授業中は全員マジメに授業を受けているが、休み時間は逃げ出さない様に常に誰かに監視されているし、お昼休みにはバスケ部部室に連行されて5人の相手をさせられている様子。
然し、それは学園内での事で、放課後は5人の男女が代わる代わる秀一を調教と言う名の虐めを行い、1〜2時間程相手をさせた後で男に戻して開放する。勿論、この事を誰かにバラしたらテメェの人生が終わると思えと脅しを入れるのも忘れてはいない。こんな事が毎日繰り返されていたらノーマルの人間なら死を選ぶのは自明の理だと思うし、事実、2人の女からは「死ね」「自殺しろ」と繰り返し言われているのが解る。これは自分達よりかわいい秀一に嫉妬しての言葉だと思う。
だって…二人共明らかにかわいい・美人の真逆の立ち位置に居る様な顔をしているし、体型もふくよかってもんじゃない。
男達もそう、どお見ても根暗のオタクだと判断出来るようなスタイルだし、顔もまた、ブサメンなのだから。
然し、どおしてこおなったか解らないし、切っ掛けが何か解らない。
けど、全員の顔は覚えたよ。コイツ等を脅しても怖がらせたりしても何も解らないと思うけど、お仕置きはしないとね。
どんなお仕置きをしてあげようかしらねぇ…
お仕置きの事は後で考えるとして、これが毎日の生活パターンだとしてもだよ?よく耐えていると思うわこの子…根性だけは有るのねと思いつつ、私は秀一の夢枕に立つことにしたのであった。
………此処は…?……そうか…僕は死んだんだ…
気が付いた秀一が見たのは、見渡す限り何も無い空間であった。その空間を見渡し、此処が死後の世界なのかな?とぼんやりと考えていたが
貴方はまだ死んで無いわよ?
突然聞こえて来た声の方向に顔を向けた秀一は目を見開き驚きの表情を浮かべて私を凝視する。
エッと…お姉さん誰?もしかして女神様?
秀一目線では私の姿は女神と同じ位の美人に見えたみたい。まぁ、それはそれで良いとして、一瞬だけど私は真智子と名乗るか別の名前にするかと迷ってしまう。
私は幽霊のレイちゃんよ?貴方の夢枕に立っているの。
私の中に居るレイの本体が猛抗議しているけど、今は秀一と話をするのが先なので無視して何であんな事をしたのか尋ねてみたのだけど、予想通り解らないとの事。
然し、切っ掛けは掴めた。
その出所も…
「最初はクラスメイトのシカトから始まったんだ…けど、元々陰キャの僕はシカトなんかは全然苦にならない。
寧ろそっちの方が趣味に没頭できるから居心地が良かった程だったよ。
それが拙かったのかも知れないけど、少しした頃、僕の机の中に中身が詰まったGホイホイが入れられていたんだ…それから僕はG扱いされ、更に同性愛を公言している5人組に捕まり乱暴されて、その時に撮られた写真をネタにして女として学園生活を強要されたんだ…それからの僕は奴等の玩具になってしまったんだ…後になって捨てアドで送られて来たメールに載っていたアドレスから学校裏サイトに僕の事が書かれていた事が虐めの発端になったのは解ったけど、学園側は僕はそう言う人間だと思われていたから誰も何も言わない…このままでは僕が僕で無くなってしまう…だから…」
ここまで話した秀一は感極まったのか、言葉に詰まる。
然し、ここで手を緩める私ではない。
「だから…死んで復讐してやろうと思ったんだ…」
「・・・来い!!」
「な…何を…」
「良いから!黙ってる!!」
・・・気持ちは解るよ?辛い・苦しい事から逃げ出したくなる気持ちは痛い程ね。
けど、自殺した人の末路は・・・
本当は「ふざけんな!」と怒鳴り散らしてやりたかったけど、グッと抑えた私は秀一の首根っこを掴み例のマンションへと向かった。
「あのマンションの屋上をよく見な!」
「エッ…?女の子?あんな場所に立っていたら落ちるよ…助けなきゃ…」
マンションの屋上に立つ人影。風でスカートと長い髪の毛がヒラヒラしているので、女の子だって判断出来る。
今にも落ちそうな女の子を助けに行こうとする秀一の首根っこを再び掴んで止めさせる私。
「さっき死のうとしていた人間が助ける?フザケてんのか?あぁ?どんな事をしても助けられないから黙って見てる!」
気持ちは解るんだけどね…こうでも言って止めないとすっ飛んで行きそうだからねぇ…この子…そうこうしている間に、ついに女の子は屋上から飛び降りた
「アッ!オチ………………エッ!?何で?」
飛び降りたと思った女の子は途中で消えてまた屋上へと戻る。その光景を信じられない様子で目を白黒させて驚く秀一は「あの子は何なんですか!?」と詰め寄って来る。
そりゃそうよね?見えないから信じない人なら信じられなくて当然なのだから。
「数年前に貴方と同じ学園で貴方と同じ立場になった女の子があのマンションから飛び降りたの…確か名前は…佐藤美穂とか言ったかしら…」
レイも私も思い出したくない記憶なので、言いたくなかったし、極力見ない様にしている光景なのだけど、この子はまだ救える可能性が高いし、何にしてもレイがこの子を生かしたがっている様に見えるからね。私は当時何があったか、そして、美穂の最後。更に、そうした人間の末路を説明してあげた。
「噓だ!お姉さんは噓を吐いている!」
どおやら、秀一はあの事件の事は知らないらしい。まぁ、学校側が厳重に箝口令を発令していたら伝わならないだろうしと思っていたらどおやら別の意味で噓を言っていると思ったらしい。
「人間、死んだら無だよ!その先は何も無い!だから幽霊なんて存在しない!!」
あらら…まさかのそっちね…じゃぁ、私は何なのよ!とツッコミを入れたら「これは悪い夢だ!!」だって…トンでも言い訳にレイが腹を抱えて笑いだしてしまったわよ…けど、その笑い方は心底怒った時の笑い方なんで、レイを宥めつつ、あの場所に連れて行く事にしたの。
そう、自殺の名所となってしまった雨降山の裏側に…
てか、死んだら無だ!とか言っている割にどおやって自殺した後に復讐をしてやろうと思ったのかしらねぇ…レイじゃないけど意味不明過ぎて私も笑けて来たわ。




