第51話 ワンダーランド4
何か変だ…
要石の上で座禅を組んで瞑想しながら真智子は熟考する。
何を考えていたかと言うと、全くと言って出なかった台に固執して多額のお金を注ぎ込んでいたあの、お客の事だ。
あのお客は常連ではない事は確か。
それどころか知る限りでは一度も来た事がないお客だ。
初めてだからあれだけ粘れたの?
社長の話しからすると、今回の仕掛人は新台搬入業者だってのは推理出来るが、だからと言ってあの男が業者に雇われた人間だと安易に結びつけて良いのだろうか?
然し、そうだと考えたら全てが説明が着くのよね。
あの騒動の後、男の後を尾行したレイの話しではこの街から出ていった為に何も解らないとの事だったし、金蔵もまた、隣町の住人だと解っているし、業者に至っては都心から少し離れた場所に存在しているてのが判明している。
雨音に縛られているのがムカつくわね…ってのが正直なところよね。
まぁ、何にしても尻尾を出さない以上は何も出来ない訳だから後は…とりあえず、森田警部に報告を入れて暫く様子見と言う事にした。
その後、予想通り四谷は解雇され、後任は金蔵に決まった。
私達からの報告を訊いて金蔵と中西の周辺を探り出した森田警部であったが、なかなか尻尾を出さない。
それもその筈で、森田警部とその部下達の面はワンダーランド側に知られているからである。
警察にマークされているとあってはボッタクリ営業は出来る訳もなく当然ながら通常営業をするしかない。
「スッポンめ…全くしつこいったらありゃしない…」
四谷を追い落とした後、お客の財産を根こそぎ奪うつもりでいた金蔵は、動き出した警察に何故こんなにも早く動き出したのだ?と首を傾げる。
違法改造台は本社には報告したが、公表はしていないし店員にも口止め料も支払っているので裏切りはないと思われる。
なのに警察が動き出したから金蔵が首を傾げるのは当然だろう。
「中西にも連絡しておくか」
何はともあれ1度付いたマークは外れはしないだろうし何れは中西の後ろにも手が回るかも知れない。
そう考えた金蔵は中西に連絡を入れる。
0…
「フム…」
金蔵が中西に電話を掛けていた頃、ワンダーランドから少し離れた映画館の駐車場に停めた車の中で何やらメモを取る男。
「私達が協力出来るのは此処までよ?後はお任せするわ」
その男の身体から抜け出て話し掛ける女性の幽霊にありがとう助かるよとお礼の言葉を残し車を発進させて走り去る。
1ヶ月後
「動いた!!」
店の様子を伺っていたレイが唐突に叫ぶ。
それまではある程度出していたが、今日は全くと言って出ない。
そう、やりたい事をやれないストレスから業を煮やした金蔵が遂に動いたのだ。
今回の改造台の内容はと言うと、発動場所は前回と変わらないが
2回押すと通常確率✕2
3回押すと通常確率✕3
4回押すと通常確率✕4
5回押すと0分の0(激熱演出も出るが絶対に当たらない)
6回押すと通常確率✕0.5
7回押すと元に戻る
と、なる仕様になっている。
(てか、大当たり確率✕0.5になる仕様は99分の1の台にしか仕込まれていないじゃねぇかよ!!)
店長交代してからコソコソと機械を仕込んでいた金蔵はこの日、遂に機械を発動させたのだ。
とは言え、最初から全台に仕込む訳にも行かないので、都合50台程を稼働させた訳だが、それでも見逃す訳には行かない。
それに、何時からなのかは解らないが、金蔵の後ろに黒いモヤの様なものが漂い始めたのを見逃す俺や真智子じゃない。
恐らくアレはSRかSSRかと推測出来るが現状ではハッキリせんな。
「何をする気なの?」
期待の眼差しで俺を見る真智子。
実のところ、この展開を期待して金蔵を泳がせていた俺は以前から目を付けていた常連で見た目30歳後半の女性を指差すとなる程と言った表情になるが森田警部はどおするの?と質問してくる真智子。
あのオッサンは俺達がどお動くかなんてお見通しだろうから気にしなくても良いだろ。
そう、返事した後で早速仕込みに掛かる。
この女性の名は
戸倉京香30歳 独身
恋人無し ハッキリ言っておくが顔も性格も不細工じゃねぇぞ!?それどころか、街中を歩けば芸能人Dと間違われる程の美人だし性格も優しいぞ!?
広告代理店に勤めていたが、ブラックな職場環境で鬱病を患ってしまい3ヶ月前に退職して以来、仕事も探さずにワンダーランドに入り浸っている。
てか、酷いパワハラ・セクハラのおかげでそうなったって言うのに何で訴えないのかねぇ…不思議だ…
まぁ、それもこれも彼女の性格が災いしているとしか言いようがないが、鬱病のせいか負け過ぎてロクに飯を食っていないか或いはその両方かは解らないが、現在は実年齢よりプラス15歳で見られる程に疲れた表情をしている。
ワンダーランドに通い出した頃はプラス収支であったが、店長が金蔵に変わった途端、マイナス収支となっていて、このままでは借金生活まっしぐらと言った現状だ。
黙って見ていたのだが、負けて当たり前の立ち回りをしていたらそうなるのも仕方がないか…
何故俺が彼女を選んだかと言うと、ここ1ヶ月の間、何度も雨降山の裏側に来ては死のうとしていたからだ。
視た所、R級もSSR級も関わっていないので、何処かで取り憑かれたとか言った事は有り得ない。
なら、原因は界低の住人に有ると思えるのだが、そればかりは俺達にも祓い屋にも何ともならない。
彼女がこの先どおなるかは解らないが、あの場所で死なれるよりは助けた方が良いと思ったから助けようと思った。
ただそれだけの理由。
彼女の今日の戦績はと言うと、319分の1の台を相手に既に9人の諭吉が出撃して玉斉で10人目の諭吉が奮闘中であるが、その台は✕4の設定になっているから、まず出ないだろうな。
だから俺は真智子に言って彼女をトイレに行かせている間に設定を解除し、更に基盤にチョイと触れる。
コレで少しは当たりやすくなるだろう。
何も知らない彼女はトイレから戻って来て再び打ち出す。
再開5回転目…
派手な演出と共に始まるリーチを今度こそと言わんばかりに凝視する彼女であったが、直ぐに冷めた目に変わる。
それもその筈で、そのリーチはその台でも、ほぼ当たらないお寒いリーチだったからだ。
残り玉も少ないのも手伝ってハンドルから手を離して財布とにらめっこをしてどおしようか迷っている様子。
押せ!!
全ての演出を表示した後、当たりかどおか判別させる為にプッシュボタンを押せと表示が出たので、期待もせずにプッシュボタンを押す彼女…
「エッ…エッ?エ〜〜〜ッ!!!」
一瞬の間があって虹色に輝く画面、そして大当たりを祝福する様に降りてくるギミック。更にギミックが戻った後に表示された777の数字。レイからしたらしてやったりだが、彼女からしたら奇跡かマグレか執念かと言った気持ちだろう。
その大当たりを契機に31連チャンと言う記録をブチかまし、大量の出玉を吐き出したのであった。
「ちょっとレイ!?あんた何かやったでしょう?」
連チャン終了後、即ヤメで換金した彼女の手元には実に17人の諭吉が戻って来たのであった。
彼女が帰った後、案の定ヤッパそうなるよな?と思った通りの尋問に
「あの設定を解除して基盤をチョッと触っただけだ」
と言ってやったよ。
嘘は言ってないよな?触った時に何やったの!?と問い質して来なかったから言う必要はないからな。
ただこの場でフワフワしていた訳じゃないぞ?パチンコ・パチスロの仕組みはもとより、更に基盤の事まで隅々まで調べた成果だからな?コレは…
等と、自分に言い訳をしつつも、彼女が生きる事を辞めないでくれよ願ったのであった。




