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気が付いたら幽霊やってました  作者: 京子
第四章 黒尾の逆襲
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第47話 コヨミさん逝く

時間はガチ鳥の一件の後に遡る


「残念ですが娘さんの余命は保ってあと3年でしょう」


新雨音総合病院の診察室

重苦しい空気の中、対面に座る命に辛い事実を告げる医者。

新作ラーメンの制作の途中、突然倒れたコヨミに付き添って来た命は医者の情け容赦ない宣告を重く受け止めていた。

コヨミの病名は胃癌でステージ4

然も、アチコチに転移している様子で手の施しようが無い状態なのだそう。


「・・・そうですか・・・」


我が子の死を宣告され、ガックリと項垂れる命ではあったが、ある疑念が沸いて来る。

そう、レイの存在だ。

レイの存在が玲奈の寿命を縮めていたのだとしたらと考えたのだが、実のところそうではなかった。


レイはその辺の事は特に気を使っていたし恋人関係には発展していなかったのだからレイには一切の責任はない。

海野玲奈と言えば、学生をやっている傍ら天才少女漫画家 朝田桃子と言う名で多忙を極めた生活をしていたおかげで、その食生活も乱れに乱れていた。

その結果の事であり、なるべくしてなった病と言えるのだ。

本来ならもっと早くこの結果になる筈だったのだが、コヨミは霊力を体内に循環させる事により病気の進行を遅らせていた。


全てはレイと仲良くなる為に


結果としてコヨミの目論見通り…いや、それ以上の結果に満足して気が抜けたと同時に病気が悪化し、現在に至る。

因みに、あの婚姻届は結婚情報誌に付いている何の変哲も無い婚姻届であるが、とある仕掛けが施されている。

そうとは知らずにサインしたレイもレイではあるが、コヨミのレイへの愛の勝利といえよう。


「アンタって子は!」


怒りを通り越して呆れるしかない命はそれ以上何も言わずコヨミを抱きしめる。

コヨミからしたら嫁としてレイと同じ土俵の上に立てるのだから満足なのは間違いないのだが、命からしたら10年という歳月は長く、心変わりするのに十分な期間であるのは間違いないし、約束の日迄の期間でレイと同レベルの強さにまでレベルアップしなければならない。

命から見たレイは既に並の能力者が束になっても敵わないレベルであり、普通なら放置しておく存在ではない。

聞くところによると、レイが覚醒したのは最近の事であり、普通ならあそこまでの強さまで到達する事は不可能なのだ。

勿論、何事にも例外は存在しているし、負の感情が強い幽霊なら短期間でレイと同レベルの強さに到達する事もあるだろうが、負の感情に囚われた幽霊が幾ら強くても祓い屋と呼ばれる者達には敵わない。

その点、レイは負の感情を利用せずにあのレベルに到達している。

命から見たレイは普段は変態チックなオチャラケキャラなのだが、いざとなるとトップレベルの祓い屋と思える程の雰囲気を醸し出して事に当たる。最初は祓いに失敗した祓い屋の幽霊かとも思ったのだが、記憶に在る過去30年の祓い屋の顔を思い出してもレイによく似た祓い屋は存在していないのだ。


奴の中にもう一体何かいるぞ。あれは間違いなく…


一体あの幽霊は何者なの?考え込む命に唐突に語りかける謎の声。

思い当たる節は幾つかあるのだが、命から見たそれは人の形をした或いは人の姿をした何かだと認識していた。

何故それが幽霊ではないと判断したのかと言うと、如何に霊気でカムフラージュしようが、本質的なものまでは変えられない。極々微量ながら霊気以外のものが混じっていたからなのである。

恐らくはその何かがレイをあのレベルまで押し上げたのだと推理出来るが、レイはその何かの正体に気付いていない様子。


もしアレが人間の魂を取り込んだ状態のままレイの中に入っていて…一体なにが目的で…

そこまで考えてそれ以上の思考を停止してしまう。


見届けなければならない


「あんな変態を好きになるなんてホント、モノ好きよね…」


ほぼ正解に近い推理をしながらもその欠片も見せることなくコヨミをモノ好きと揶揄からかう様に言うと、顔を真っ赤にして


「変態は余計よ…形はどおであれ婚姻届に名前を書いた以上、レイはアタシの旦那なんだからね…」


と言い返す。


その後、箕浦刑事がコヨミのお見舞いがてら事件の顛末を伝えに来たのはそれから2日後の事で、その時にコヨミの病状と余命も後僅かだと聴かされる。

然し、コヨミの病状をレイに箕浦刑事の口から伝えられたらレイのモチベーションが下がりかねない。なので、このことを硬く口止めした上でレイが暴走しそうな時の為にとあのハリセンを渡したのであった。



……………

………



2年後


「お母さんお願い…」


最早起きる事も間々ならないコヨミが涙ながらに懇願する。

普通なら手術するなり投薬治療したりと何かしらの延命治療をするのだろうが、余命の年数を聴かされた後のコヨミは全ての治療を拒否し、その上で母親に魂封印の秘術を依頼したのだ。

最初は拒否した命ではあったが、真剣に頼み込むコヨミに断りきれなくなり承諾する。

コヨミの母親は不動神社の巫女である。


不動神社とは、その名の通り不動明王を祀る神社であり、巫女は不動明王をその身に宿し悪事を働く幽霊を祓う役目を担っている。


「・・・解りました・・・これより楠木コヨミこと海野玲奈の魂封印の義を行います。貴女の魂はお不動さんの世界へ連れて行かれ、そこで修行をして貰う事になります…覚悟は良いですね」


魂封印の義とは、祓いきらない魂を依代に封印し、時間をかけて浄化させる為の手法である。

本来は依代となる物を用意し、その依代に標的を強制的に宿らせるのだが、それでは弱るどころか最悪消滅してしまう可能性がある。

それではレイの足手まといになりかねない。

目標は約束の日までにレイの強さと同等かそれ以上の強さにまでレベルアップさせなければならない。

そこで思い付いたのが不動明王を依代として明王の世界で約束の日まで修行させる。

幸い、不動明王の了承は得られているので、後は行動するのみである。


「はい…宜しくお願いします」


命の返事に安堵し、一瞬、満面の笑みを見せるも直ぐに覚悟を決めた表情になる。


「では…」


正座し直し、背筋をピンと伸ばした姿勢のまま両手をパン!と合わすと背後から不動明王が出現したかと思ったら携えたその剣でコヨミの胸を穿く。


楠木コヨミこと海野玲奈29歳の挑戦はコレから始まる。

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