第4話 状況の確認
3時30分
キメラを出た後、23時に緑地公園の河原で会う約束をして別れた。
コヨミは自分の部屋に来ないかと誘って来たが、独りになりたかったと言うのが正解だったからだ。
「取り敢えずはこの街の事を把握しないとな」
そう考えた俺はフワリと空高く浮かび上がり街並みを観察する。
駅を挟んで北側に廃工場と住宅街が在り、住宅街の中にはスーパーが一軒とコンビニが数件と公園が一つ在る。それと読読新聞と朝朝新聞の配達店が存在しており、その先に田畑が広がっている。
南側の繁華街の先には廃棄された神社が在り南西側の緑地公園の方に大きめの図書館が存在している。
そうそう、学校の事を忘れていたよ。
住宅街のど真ん中に小中学校とその西隣に県立の高校が在って図書館の北隣に私立浦川学園高校(以下は浦川学園)が在る。
和樹の話ではこの浦川学園は10年前迄は理系の大学に進むのなら浦川学園が1番の近道だと全国的にも有名な高校で有名な学者も出たらしいが、とある事件が切っ掛けで今はみる影もなくなっているとの事。
まぁ、この事件については話す機会もあるだろう。
「図書館には籠ってでも本を読み漁る必要があるな…それと…」
そして、その南側に聳える雨土山の周辺には多種多様な工場が存在していて24時間稼働の工場が在るせいなのか不夜城の様相をしている。
不夜城と言えば東側の山脈の一般道が通るトンネルの横に巨大なパチンコ屋と24時間営業のアミューズメントパークや数件の飲食店やインターネット喫茶が存在していて此処も不夜城の様相をしているな。
「生者を観察するのなら彼処が良いかもな」
午前4時30分
そう考えながら読読新聞の配達店を覗いてみると店長らしき人物が独りで朝刊を読んでいる姿を見てとれたので、背後からそぉ~っと朝刊を覗いてみた。
パラ・・・
店長は俺の存在に気が付かない様子で夢中になって朝刊を読んでいる。
「えぇ~っと・・・昨日午後3時過ぎにN市の繁華街で通り魔が出現し死傷者多数?・・・ハァー・・・世も末だねぇ」
他にはA国大統領が来月末に来日予定の記事と芸能人の不倫騒動の記事が目を引くくらいかな。
この街に関する記事は無いようだ。
この時間に朝刊を読めるのなら、ちょいちょいと覗きにくるのは有りかな?等と考えつつ、他には用がないのでとっとと退散した方が良いかな?
そう思った俺は新聞屋から出て明るくなってきた街から移動して雨降山へと向かう事にする。
山の麓に在る立派な造りの神社に気を引かれたのもあるが、和樹から譲り受けた力を使いこなせる様になる為の修行の場にもってこいの場所が在るのでは?と思ったからだ。
生者と違い、夜は活発に動けるのだけど夜が明けると途端に動きが鈍くなる。
やっとの思いで神社に辿り着いたのだが、神社の鳥居の両側に鎮座する石像に絶句した。
「三首の犬!?何で?」
普通は狛犬かお稲荷さんじゃね?何で三首の犬なん?
この事が現在の俺の中の最大疑問として残る事となったのだが、調べない限りは解らないだろう。
まぁ、疑問を疑問のまま残しては気持ち悪いしな。
鳥居を潜り抜け神社を見学しようと思ったのだが、潜り抜けようとした途端、俺の侵入を阻止するべく見えない力が阻む。
どおやら何かしらの結界が張り巡らせてあるらしい。
侵入方法が無いかと思案してはみたものの、覚醒したての俺では何が出来る訳でもないし、そもそも和樹から受け継いだ力を使える訳もない。俺と同化した和樹は完全に俺と混じりあっているせいか呼び掛けても反応は無い。
仕方がないので神社は鳥居の周辺から見学するだけに止めて雨降山へと向かう事にする。
雨降山
標高700mのこの山は地元民には山菜の宝庫と知られており、季節になると採取する者達で溢れ返る程だ。
それでも入るのは神社に面した場所のみで裏側には誰も足を伸ばそうとしない。
後学の為と思い、山の裏側に行ってみたが、これが酷かった・・・
首に縄を掛けてぶら下がっては消え、また何処からともなくやって来てぶら下がると云った一連の動作を何度も繰り返しているヤツもいれば木の根もとに蹲っていたと思えば何処からともなくやって来て何かを飲む動作をした後、暫く蹲る動作を何度も繰り返しているヤツもいる。
ザッと数えてみたが、100を超えた所でコケたよ。
然し、コイツら・・・全員同じ行動を繰り返すだけの様だな。
何故繰り返すだけなのかは後でコヨミにでも聞けば良いかな。
そう言えば、うつ伏せのままピクリとも動かないヤツがいたけど、一体、どんな死に方をしたんだろうな。
まぁ、死んでも無になる訳でもないからこれが自殺したヤツの哀れな末路ってヤツなのだろう。えっ!?幽霊なんて居ないって?
じゃぁ、この俺は何なんだよ!って話だよ!!
こんな事を言っていても仕方がないのでコイツらをループ系と名付けてその場を後にして頂上を目指す事にする。
シッカシこの山に入って一時間程経つってのに全く疲れを感じない。それどころか体が活性化してくるのは何でだ?この山に居続ける限り24時間フル稼働出来るんじゃね?と思える程だ。
「デケェ!!」
疑問を抱えつつも辿り着いた頂上。
そこで俺が見たものはこの街の全景と巨大な岩。
後で調べて解った事だが、その巨大な岩は要石と呼ばれて戦国の世には既に存在していたらしい。
その岩の上は平たい舞台みたいになっており、結構な広さが在る。よく見ると晴れてもいないのに陽炎みたいなものが立ち上っていて、その陽炎みたいなものが何かしらのパワーが漏れ出たものかと推測出来る。
修行するならこの場が良さそうだ。
「何か起こるのかな?」
せっかく此処まで来たのだらから修行僧の気分でその岩の上に乗って座禅を組んでみる。
「・・・この山はパワースポットと呼ばれる場所でその中心が此処だ・・・」
不意に俺と同化した和樹の声が聴こえて来る。
「オワ!」
驚きのあまり思わず声が出ちまったじゃねぇかよ!喋れるなら喋れるって言えよな!そう和樹に話し掛ける俺に笑いながら
「わりぃ…てか、俺も話せる様になるとは思ってもみなかったんだわ…悪いけど、俺がお前の中に居る事はコヨミに内緒な」
と返して来る。
「女なら良かったのに男同士は趣味じゃねぇし正直言ってキメェぞ」
等と毒を吐くとやはりそうなるのかとため息を吐いた後で
「じゃあ、この声ならどお?」
と女性の声で話し掛けて来る。それと同時に気配も男→女に変わっている様子。
一体、何をしたんだ?と疑問をぶつけると魂の色を変化させたとの事。
「練習次第で貴方も色んな生物に変わることが出来る様になるわよ?」
と、何の問題も無いと言わんばかりに平然と言い放つ和樹♀は修行するなら手伝うよ?どおする?と言ってくる。