第45話 雨音の心霊スポットの事情3
噂を検証するために境内へと歩を進める淳一に地面から顔の半分だけ出して嫉妬と怨みを込めた視線を送る女性。そんな女性の視線には一切気付かずに真面目に噂の検証を始める。
1・2・3…10歩…
パンパン!
どおだ!
噂の通り10歩歩いて柏手を打った後で後ろを振り返る淳一
「妙な視線は感じるけど…誰も居ない…よな?俺は感じないけど、カメラには何か写っていたら良いな」
実はこの神社に来るにあたり、危険度小クラスの心スポとしか訊かされていない淳一は怖い思いはするだろうが、命を取られる事は無いだろうと安心していたのだ。
然し…
この七福神社は危険度小ではなく危険度特大であり、命を取られる危険性が最も高いスポットの1つなのだ。
噂が出ている事を考えると生き残った連中もいた筈なので、大した事はないと高を括っていた淳一ではあるが、その噂自体が全てあの2人の作り話だと言う事に気付いていない。
視線を気にしつつも2つ目の噂を検証する。
境内の左側に七福神を祀る祠に順番に一礼をして行く
恵比須
大黒
毘沙門
弁天
福禄寿
寿老人
布袋
の順番で一礼をした淳一は最後の布袋様の祠に一礼をした後三歩下がって更に一礼・・・
したのだが、視線を感じるのは相変わらずなのだが足首を捕まれる事はなく拍子抜けした感じになりながらも噂その3を検証するべく社に向かう。
ザザァ・・・
淳一が社に向かうべく足を向けた途端、風もないのに周囲の木々がザワつくも上空では風が吹いているのかなくらいに考えていない淳一は社に向けて歩を進める。
アカン…既に手遅れですわ…ありゃぁ…
淳一を付かず離れず一定の距離を保って付いている黒い影。
ひっぺがそうと思ったのだが負の感情が隠った瘴気が淳一を侵食しているのが見てとれる。
勿論、黒い影が放った瘴気なのは言うまでもないが、問題は瘴気の質なんだよ。
先程、真智子が呪いの正体とか言ったけど、ありゃぁ間違いだわ。
パーセンテージにもよるが、取り憑かれて悪さされるのも生者からしたら呪いの一種かも知れないが、それだけなら追い出すのは可能だし能力者に頼れば祓いも可能だろう。
従って、呪いとは言えないのではと推測出来る。
問題は負の感情を含んだ瘴気の方
この瘴気に侵食された場合、負の感情が強ければ強い程、侵食速度は早く生者を魂ごと食らい尽くす。
淳一を狙っている黒い影もとい女幽霊からは解りやすい程に生者に対する怨みの念が感じられるのだ。
つまり、この負の感情を含んだ瘴気自体が呪いの正体なのでは?と推理する。
まぁ、推理はこれくらいにして淳一を観察していると既に社を一周し、二周目に入っている。
一定の距離を保ったままくっついているのだが、怨みとは違う別の感情が芽生えつつあるようだな。
俺にはその感情を理解出来ないのだが、この女幽霊は何時から淳一を狙っていたんだ?
淳一は雨音の住人で駅から歩いて5分のワンルームマンションに1人で住んでいるのだが、職場兼自宅となっているし、友達と呼べる者も殆ど存在していなく、行動範囲は極端に狭く七福神社の方には来る事はない。
当然の事ではあるが、近寄らなければ呪われる事も呼ばれる事もない
筈…なのだが…
念を送り波長の合ったヤツを呼び寄せるなんて事が可能なのか?
考え得る方法としては街中に分身体を送り波長の合うヤツを探して憑依してこの地に誘導する。この方法しかないと思うのだが、結界が邪魔で外へは何も出来ない筈。
とか考えている間にも最後の行動に移ろうとする淳一。
「後ろを向いて…」
社の中に入った後、御神体に背を向けてパンパンと柏手を打つ。
「・・・何も起きないか・・・」
あれは…何だ…?
何も起きない事に安堵と落胆がまぜこぜになった様な複雑な表情をした淳一が社を出ようとしているのだが、あれに気付けないとは…
初めから憑いている女幽霊に加えて新たに出現した黒い影。
「・・・妖怪ね・・・けど、魂喰よりはランクは下ね」
チラリと見ただけで看破する真智子がどおする?と俺に問い質す。
通常なら両方成敗するのが今までのパターンなのだが、女幽霊の動向が気になって仕方がない俺は臨戦態勢のまま見に徹する事にする。
心スポの噂話とかを確かめる為にとか肝試しとかの理由で現地を訪れる人達がいるが要は見えるかどおか感じる事が出来るか出来ないかそれが別れ道になるのではないかと思う。淳一もあの2人も見える感じる事が出来る人ではないが為に霊現象(おっと、この場合は霊現象とは言わないかも知れないな)
に気付けていない。
とか考えてる場合ではないかもな…真智子が妖怪だと言った黒い影は今にも淳一を捕獲しようとしてるぞ?
「ヤッパリダメ!!」
黒い影が淳一を捕獲しようとした正にその時、女幽霊が黒い影を思いっ切り踏み付けて捕獲を阻止する。
「ギャァ!!」
予期せぬ大ダメージに情けない悲鳴を挙げる妖怪は姿を現してまるで飼い犬に手を噛まれた時の様な表情で女幽霊を睨みつける。
身の丈2m程で筋骨隆々のボディにお坊さんが身に着ている衣装を着てその上に1つ目の赤ら顔に髪の毛一本も無い禿頭が鈍く光り輝くその姿。
見上げ入道とか言う妖怪が居たと思うが、恐らくはその親戚みたいな妖怪なのだろう。
てか、神社に坊主なんて場違いも良いとこじゃねえかよ!と心の中でツッコんでみたのはナイショの話である。
「ヒッ!!!」
その時の悲鳴が淳一にも聴こえたみたいで引きつった表情を浮かべて脱兎の如く走り去る。
「テメェ!奴に惚れやがったな!?」
女幽霊が淳一に抱いていた感情はどおやら恋愛感情だったらしい。
「だったら何?もう私は貴方の言いなりにならない!」
妖怪に対し一歩も引かず強い口調で言い返す女幽霊ではあるがどお見積もっても勝ち目はない。
手は出さないでね
固唾をのんで成り行きを観ていた俺を牽制する様に真智子が呟く。
そう、本来なら妖怪を退治するのはアイツ等の仕事なのだ。
「だったらあの男の魂の半分をお前にくれてやるよそれで良いだろ」
食事の時間を邪魔されてゴネる子供の様に苛立ちを隠さない妖怪にあの男は私が守ると言い切りやがった。
「ではあの男の代わりにお前を喰ってやる」
問答無用で女幽霊を掴みかぶりつこうとする妖怪坊主に対し、こんなヤツに負けないと言わんばかりに呪いの瘴気を飛ばして抵抗するが、悲しいかな瘴気では妖怪にダメージを与えられないのだよ。
あの女幽霊終わったな…等と考えていた俺の頭の中に何処かで聞いた様な声が届く。
「レイ!事情は後で話す!兎に角そこの妖怪を切ってくれ!早く!!」
何で俺なんだ?とボヤきつつ素早く妖怪の背後に移動し霊気で創り出した愛刀で女幽霊を掴んでいた手を腕ごと切り落とす。
「ぐわぁ〜…不意打ちとは卑怯なり!」
完全なる不意打ちを食らわしたのだが、直ぐに切った箇所を再生させ襲って来る妖怪坊主。
「っとぉ…!油断大敵ってね・・・グハッ!!」
唸りを挙げて迫る妖怪坊主の拳を難なく躱し一度距離を置こうとバックステップしようとした俺のボディに高速の蹴りが入り、背後の壁まで吹っ飛ぶ俺。
なぁ〜んてね
実はこうなるって事は予測済だし、強烈な蹴りではあったが受け身は完璧にとれていたのでノーダメージなのだよ。妖怪坊主にとどめを刺すのは俺じゃぁない!俺は飽くまでもアイツの時間稼ぎに利用されたに過ぎないのだ。
「何者だ…」
何者だお前はと言おうとした妖怪坊主はそのセリフを最後まで言い切る事はなかった。
言う途中で青いアイツに核を破壊されてしまったのだから。




