第43話 雨音の心霊スポットの事情1
あの事件が終わってから数ヶ月が過ぎた。
真紀達がどおなったかは解らないけど、森田警部の話では自殺関与・同意殺人罪をメインとして複数の罪で起訴されているみたいだな。
てか、殺人罪で起訴されていないのかよと問い質したら直接殺してはいないからだとの事。
死ななくても良い人達を言葉で殺しているのだから殺人罪も有りだろうよとは思うのだがな…
楽しみではないけど1人だけではなく何人もの人を墓石に変え・不幸のドン底に導いたのだから、何れだけの刑になるか気になる所ではあるが、まぁ、遺族の怒りが半端なく強い筈だし厳罰を望まれているみたいなので人生詰んだと言っても過言ではないのかもしれないな。
因みに森田警部は雨音署勤務になったらしく事ある毎に俺や真智子に絡んで来るんだろうな…
個人的には絡みたくない相手だし半径10m以内に近寄って欲しくない相手ではあるけど、持ちつ持たれつの関係になってしまっているのでシャァなしと言ったところだ。
俺はと言うと、日々過激になる真智子の修行に悲鳴を挙げそうになりながらも何とか耐えていたのだが、修行漬けの毎日でストレスが溜まる溜まる…
なのでと言えば語弊があるかも知れないが、気分転換のつもりで心霊スポットを巡っている。
雨音の心霊スポットと言えば廃病院が真っ先に挙げられるのだが、あの魂喰の一件以来、暫く幽霊が住み着く事は無かったがどおやら真紀の仲間の毒牙にかかった高校生が屋上で自殺していたみたいで、それが切っ掛けでまた増えている模様。
とは言え、R級SSR級は住み着いていないので特に気にする事もないだろう。
それよりもこの街から東側の隣街に抜ける国道が貫く様に掘られた新幽玄坂トンネル…その上に存在する旧幽玄坂トンネル。
このトンネルと繁華街と工場地帯の丁度真ん中に存在している七福神社。
この2つが旬?の心霊スポットと言えよう。
まぁ、心霊スポットの話になると似たような話が多いしこの話も何処かで聞いたような話になるかもと思うので先にお断りしておく。
最初に話すのは旧幽玄坂トンネル
このトンネルが掘られたのは明治の時代らしく、それまでは険しい山道を越えて隣街に行っていたらしい。
途中で命を落とす人もいたらしくその方々の霊が今でもさ迷っているのだが、どおも霊って言うのは暗くジメッとした場所を好む霊が多いらしい。
「1・2・3・・・10体か?」
ザッと見た感じではN級8体にSSR級2体ってところかな。
トンネルの中だけでなく周囲に居る幽霊も合わせてなんだけど、外に居る幽霊はN級ばかりでトンネルの中に居るのがSSR級なんだよ。
最近解って来たことだけど、SSR級にも2パターンが有る事が解った。
1・自らがテリトリーと定めた場所に侵入・荒らされると怒り攻撃するタイプ。
2・特定の生者を怨んでソイツに取り憑き復讐するタイプ。
1の場合はその場に行かなければ、もし行ったとしても刺激しなければ良いけど、何事にも例外は有るもので行っただけで怒りを買ってしまい取り憑き殺そう又は殺してしまうタイプもいるから要注意だ。
2の場合は幽霊の俺が言うのも何だけど、ホント怖いし手が付けらんないので、通常は強引に祓うか浄化するしか方法はない。
とは言え、何処かに欠片を残していた場合は無駄骨に終わる事もあるよな…
で、トンネルの中には1の幽霊が存在している訳なんだけど、割かし大人しめなSSR級でトンネル内を通るだけなら怒りもしない。
然し、相手が撮影に来たとか肝試し感覚で来た場合は一切の容赦はしない。
生者でも普段大人しいヤツが怒ると怖いなんて事はよく聞く話なのだが、幽霊も同じなんだよな…だからこう言った場所では不用意に刺激しない方が無難なのだ。
この日は3人組の男達が撮影用カメラを持ちトンネル内に存在する幽霊を画像に収めようと来ていた。
男1「意外に荒れてねぇな・・・」
男2「落書きの類いは無いな…本当に居ると思うか?」
男3「由佳を連れて来なかったのはマズくね?」
男1「由佳は関係ねぇって!それにアイツが居るとあそこに居るそこに居るってうるせぇわそっちはダメあっちはダメってうぜぇわで顔もみたくないっての!!」
男2「だよな…」
男1「幽霊ちゃんよぉ~居るなら出てこいよぉ~」
男2「俺達にビビって出てこれないチキン野郎なのかよぉ~!」
男3「典型的な苛められっ子だったんですぅ~ほぉっておいて下さぁ~いってか(爆)」
幽霊を見たこともない3人は基本的に存在を信じていない。
TVの心霊番組やネットで視られる心霊写真や動画は全て作り物だし体験手記すら全てフィクションだと信じているのだ。
だからと言ったら何だが、幽霊と遭遇したいばかりの3人は考え得る限りの方法で幽霊を刺激し、挑発する。
・・・(怒)!!
・・・(怒)!!
あ~ぁ…やっちゃったよ…
男3が最後に放った心ない一言で2体のSSR級のオーラが真っ赤に染まるのを見た俺はヤっちまったなぁ…オイ!と心の中でツッコミを入れつつ静観する。
そう、怒りを買ってしまったのだ…
示し会わせた様に30%の分身体を作り出して怒りのオーラを隠しもせず男達が向かっている方向から3人に迫る。
男1「何か急に寒くなったよぉな…」
男2「何でだ?」
基本、幽霊には温度がなく、属性と言った言葉に当て嵌めるのなら氷属性になるので力を解き放ってしまえば周囲の温度は一気に下がる。
その時にもよるし幽霊の強さにもよるけど近くに存在するだけで周囲の気温は10℃~20℃程下がると言えば解りやすいだろう。
この時、都合15℃程下がった周囲の気温に両腕で自らを抱きしめる仕草をして身震いする3人。
・・・なかなか器用な事をするもんだな…
静観していた俺は目を丸くしてその光景を見つめる。
3人に迫っている分身体が更に分裂して5%の分身体を作り出してそれぞれ3人の中に入り込んだのだ。
器用な事をすると言ったのは、分身体から更に分身体を作り出したと言うこと。
通常なら分身体から更に分身体を作るなんて事は出来ない筈なのだ。
考えられることは30%の分身体ではなく30%の本体と言うことになる。
現在の状況はと言うと30%の分身体から更に分裂した5%の分身体3体。
つまり
15%1体と5%3体
を、それぞれ作り出して5%を3人の中に侵入させたと言うのが現状だ。
然も、5%の方に怒りのオーラを纏わせて…
怒りのオーラを纏わせた分身体は男の中に入り込んだと思ったら直ぐに男の魂を掌握し取り込もうとするが取り合ったりせずに半分こした様子。
「呪いの正体みたり分身体ってね…」
俺の中で様子を見ていた真智子がボソリと呟く。
呪い?・・・そうか・・・
呪いの正体とは、魂の欠片を入れた分身体を目標人物に侵入させて支配する事。憑依とは違い相手の中に侵入し、相手の魂を侵食して命を奪ったり相手の運気を操作し不幸を呼び込んだりする事。
そう結論付けた俺は真智子に問い質すと興味無さそうに「そおね」と返事をした後スリープモードへと移行する。
目の前で生者が襲われているのを黙って見過ごすのも何だかなぁと思ったのだけど、如何せん対処するのが遅すぎた。
男1「お…おい…後ろ…!」
男2「な…何だコイツ…」
男3「や…ヤベェ…」
男1「に…逃げるぞオイ!!」
入り込まれたおかげで見える様になった3人は恐怖のあまり逃げ出したのだが、分身体はそのまま入ったままだぞ?
アンテナを飛ばして3人が乗り込んだ車を追ったのだが、雨音の外に逃げて行った為に追うのは断念せざるおえなかった。
その後、2体のSSR級に話しかけようとしたのだけど、俺の話など聞こえていないかの様子で薄ら笑いを浮かべて微笑みながらブツブツと呟くだけ。
ダメだこりゃと思った俺はここで1つの疑問にぶち当たってしまう。
とは言え、幾ら考えても解らないものは解らないので、この疑問は課題として残すとしてあの3人が直ぐにお祓いに行く事を願ってトンネルを後にして神社に行く事にしたのであった。




