第41話 レイの怒り8
翌朝6時
「だから斎藤真紀が逮捕されたのよ!?冗談言うために朝早くこんな場所に来る訳がないじゃない!!」
要石の上で一晩中真智子と組み手をしていた俺は何時もの時間に新聞屋に行き用意してあった新聞を読ませて貰った後、戻って来てパチンコ屋の開店時間が来るまでの間、一休みがてらアンテナを通じて街の様子を見ていた。
新聞が用意してあると言うのは店長が俺達の事を害のない幽霊だと認識した後は専用の場所を作ってくれて、そこで朝の一時を過ごす事にしているのだ。
何もお世話になりっぱなしって事は無いぞ?優遇して貰っているお礼に新規さんになって貰えそうな家庭を見付けたら紹介しているんだ。
てな具合でギブアンドテイクが成り立っているから問題無いのだ。
と…まぁ、朝の一時を満喫していた所に血相を変えた箕浦刑事がやって来てトンでもない事を言い出した。
真紀が父親を刺したと言うのだ。
犯行直後、佑哉の悲鳴を聞いた母親の瑞恵とお手伝いの女性に取り押さえられ警察に通報。間もなく駆けつけた警察官に逮捕されたってのが流れらしい。
尚、斎藤佑哉は3ヶ所程刺されてはいたものの、命に別状は無いが意識不明の重体であることには間違いない。
両方に黒尾の欠片が入っている以上、同士討ちみたいな真似はしない筈と言うか出来ない筈なんだ。
・・・って事は・・・?
夕べの出来事を思いだしながら黒尾のやりそうな事を推理してみる。
「あぁ…そうか…だからか…」
黒尾にとって佑哉は利用価値が無くなった。
だから消す。
然し、しくじるなんてあり得ないだろうよ?
祓われた或いは浄化された場合を除き、例え欠片であろうとも取り憑いたレア級やSSR級が離れる時は宿主が死ぬ時か良くて廃人なんで助かるなんて事はあり得ない。
何でだ?渦巻く疑問にパニックになりかかる俺を救ったのは
スパコーン!!
魂にも響くコヨミ手製のハリセンであった。
「アンタって真智子ちゃんが居なかったら直ぐに周囲が見えなくなるのね…どぉ?少しは目が覚めた?」
久しぶりの痛みに懐かしさを感じながら背後に立ち淀んだ目で俺を見下ろす女性を見上げる。
って、何でアンタがそれを持っているんだよ!
箕浦刑事!!
俺のツッコミに対してあの娘が旅立つ前に頼まれたのよ。アンタが暴走するのを防いで欲しいってねと嘯く箕浦刑事。
ガチ鳥の事件が終結した直後、事の顛末を伝える為に1度だけコヨミに会いに行ったらしく、その時にハリセンを託されたとの事。
アイツめ…
コヨミに対して内心毒づく俺の事など意に介せずアンタはどお動くつもりなの?と問い質してくる。
と、言われても雨音署には真智子が行った筈だし、自ずと行き先は1つしかないのだが…
「斎藤佑哉の様子を見に行くしかあるめぇよ」
と返答した後、直ぐに行動に移る事にしたのであった。
新雨音総合病院
此処が斎藤佑哉が搬送された病院。
嘗ての総合病院と比べれば少々小さいものの、設備は県内でも一二を争う程の最新設備を備えていて、近隣の街からも通院する患者もいる程だ。現在、佑哉はこの病院の集中治療室に居て出入り口には当然の如く面会謝絶の札が掛かっているのだが、俺には関係ない。
レイの姿は黒尾に知られているので念のため街中で見掛けたとびきりの美人の姿に変身して侵入した俺は一瞬慌てそうになる。
黒尾の欠片が佑哉の魂を持ち去る直前に出会したのだ。
「何やっているの?お兄さん」
思わず自がでそうになったが、平静を装い黒尾の欠片に話し掛ける。
「・・・みぃ~たぁ~なぁ!!」
身長20Cm程の黒尾の欠片は誰も居ないと安心していたのだろう、堂々と佑哉の中から出て来て作業の真っ最中であったのだが、突如として現れたとびきりの美人に目を丸くして驚きの表情を浮かべるも、相手が女性だと認識した途端、本性丸出しで襲いかかって来る。
かかった!!
この欠片は黒尾の魂の欠片であり、理性はなく本体の命令通りに動く意思在る操り人形であるのだが、自己防衛機能は半端なく高く他の者に見られた事も手伝ったのか俺を取り込もうと襲いかかって来たのだ。
ギン!!!
慌てる事なく素早く印を結び陣を発生させて黒尾の動きを止める。
この陣は不動禁縛陣と言う陣で相手の動きを止める事のみに特化した陣で印と僅かな霊力で発動出来、然も、仕込みも何も要らないお手軽な陣。
いやぁ…コヨミ相手に修行した成果が出たぜ…
「成る程…そう言う事か…」
動けない黒尾の欠片に注意を払いつつ、目視で佑哉の魂の状態を確認すると、黒く染まった魂の中心部が僅かに白くなっているのが解る。
恐らくだが、それが佑哉の良心なのだろう。僅かだが良心が残っていたが為に欠片に抵抗出来たのだろう。
思わぬ抵抗を受けた黒尾の欠片は佑哉の魂を取り込み本体へと戻ろうとしたが、問題なのが常に張られている個人結界。
その結界を取り除き本体へ帰還するために真紀を動かして刺したってことろか…
間に合って良かったぜ…
犯罪を犯している以上、その罪は生きている者達に裁かれるべきだろうしな。
それでチョロ松が納得すれば良いのだがな…
さて…
佑哉さえ生きていればコイツは邪魔だ。俺は浄化の気を纏わせた日本刀を作り出して欠片を神速の早さを持ってみじん切りにして存在を消したのであった。
ムッ・・・1号が消された・・・まさかアイツか?・・・まぁ良い・・・4号と5号は回収出来たし後は3号を回収出来たら目標は達成したも同然だからな
浦川学園体育館の体育用具室は普段は殆ど人の出入りは無いので霊の溜まり場になっている。
そこの片隅で座禅を組み瞑想するかの如く目を閉じていた黒尾の本体が突如として目を見開き
驚いた表情をするも直ぐに目を閉じて瞑想をしだす。
俺が佑哉に取り憑いた欠片を消滅させた頃、真智子は言うと…
「真智子ちゃんなのか?」
「そうだよ?ナニかヘン?」
「だってその姿って…」
「だってぇ…真智子の姿は面が割れているけどこの姿は知らない筈だからねぇ…」
「あのなぁ…」(本人が居ないからってやりたい放題だな…ホント…)
コヨミの姿で雨音署の中で森田警部と会い、真紀の様子を探っていた。




