第3話 BARキメラにて2
キメラでのお話は此処で終わりです。
「コヨミは優しいね。でもね…」
幽霊に情は無用と正論を振りかざし再びお経を唱え始めようよする真子の鼻の穴に再び指を突っ込み止めさせた後でコヨミは意を決して
「あたしはこの幽霊に記憶を取り戻して貰いたい!」
と言い出す。
「好きにしたら?私には関係ないし、これ以上用が無いなら帰ってよ」
一度言い出すと退く事を知らないコヨミに呆れながらも、私も忙しいから出て行ってよとコヨミと俺を追い出そうとする真子であったが、気が変わったのか、せっかく来たのだから一杯くらい飲んで行きなさいよと言って入り口から一番遠い二人かけ用のテーブル席に強引に座らせコンチータを作って持って来る。
「真子ちゃんのカクテル久しぶりね」
メニューにカクテルの説明が書かれていたので見るとテキーラベースのカクテルでグレープフルーツジュースとフレッシュレモンジュースの酸味が効いた爽やかなカクテルと書かれている。
カクテルを飲みながら何かを考えていたコヨミは考えが纏まらないのか今度はギムレットを注文した。
メニューにはジンとフレッシュライムジュースとシュガーシロップで作るカクテルの様だ。
「貴方にも一杯あげるわ。勿論、私の奢りよ」
そう言いながらメニューに載っていない日本酒にグリーンティーリキュールを混ぜたカクテルを出して来た。
「香りだけでも楽しめるのな?良い酒使っているんじゃね?」
中に入っているライムが香りを引き立てる。
俺は幽霊なので飲めはしないが、不思議に香りを楽しむだけで飲んだ気になれた。
「で?貴方はこれからどおしたい?」
気持ちが落ち着いたのかコヨミが尋ねて来る。
「取り敢えず記憶を取り戻す為に行動する…しかねぇよなぁ…」
何をどおして良いか解らないが、取り敢えずは自分の記憶を取り戻さないと何も始まらないのは確かなのでその事を伝えると何かを思い付いたのか
「それ…あたしが手伝っても良い?」
と言って来るコヨミの表情は思い詰めた様な感じだった。
その表情に何か裏があると思った俺は俺に何をさせたいんだ?と尋ねてみると
「あたしの手伝いをして欲しいの」
話によると、この地には有名になり損なった武将の首塚と胴塚や雨降山に自殺の名所になってしまった場所や廃病院や一般道が走る西側のトンネルと心霊スポットとなっている場所が在って悪意を持って生きている者達を襲う幽霊が居たり、他にも幽霊被害に困っている人達が多いとの事。
それらの幽霊被害を解決するのを手伝って欲しいとの事。
「勿論、貴方の過去を探す手伝いもするから」
それにギブアンドテイクになるからお互いに損は無いでしょう?と猫なで声で迫って来る。
確かにそうなのだが、こう言う話には裏がある。受けない方が良いと直感が警告して来る。
!!
その時、唐突にコヨミの背後に一人の男が現れて俺に対して両手を合わせているが、コヨミも真子も気付いていない様子。
(頼む…コヨミを助けてやってくれ…)
どおやら俺にしか見えないらしい男は俺に目で訴えかけてくる。
(俺にこの女を助ける義理は無いのだが?)
男の訴えに拒否の姿勢を見せた俺に必死の形相で訴えかけて来たと云うか俺の中に飛び込んで来て男の最後の様子を俺に映像で見せて来る。
「・・・!!」(何だあの人間モドキは?)
映像で見せられた男の記憶の最後に写った濃い灰色の肌色をした人成らざる者。肌の色以外は猫背で姿勢の悪い人間と言った方が良い程なのだが、体毛も無ければ性別も無い様子。
(ヤツは魂喰と呼ばれる妖怪だ)
男が(俺の中に入ったせいで対話が可能となったらしい)話し掛けてくる。
男の話によるとヤツの名前は魂喰と云う名の妖怪で生物の魂を餌にする妖怪との事。
(魂喰…)
この男の名は増田和樹と言う名でコヨミの婚約者であったと言う。
とある建設会社からの依頼で解体予定のビルに住み着いた悪霊を退治してくれとの依頼で現地に赴いた所で魂喰に遭遇したのだそう。
準備も何も無い状態では魂喰に勝てる訳がなく、呆気なく殺されてしまったとの事。忌野際に最後の力を振り絞り魂の欠片を幽体に込めて離脱させ協力者を探していたらしい。
トンでもない事になったと思いながらも何で俺なんだ?と訊ねてみると
(お前が俺よりも強いから)
と言って来る。
俺が強い?ハァ!?こんな記憶もねぇ気が付いたばかりの幽霊がお前より強いだぁ!?意味わからんぞ!?
俺が強いと言い切られて混乱する幽霊は猛抗議するも
「この俺の姿が見える事が証だ」
と返して来る。
和樹の姿が見えるのは一定以上の強さを持った者であり、コヨミや真子では見えないらしい。
何故なら、弱い者では話にならない返り討ちにあって終わるのがオチ。
だから和樹の姿が見える俺に訴えかけて来たのかと納得する反面、厄介事に巻き込まれてたまるかと言った気持ちもある。
どおしたものか・・・
寝起きにいきなり目の前に置かれた1kg以上のステーキを食えと言われている様な状況で二つ返事でやりますと言えないわな…普通…
でも、そのステーキを食う…いや、条件を飲むしかないのは火を見るより明らかではあるのだが…
「強くなる方法を教えるから…お願い!!」
切羽詰まった表情で懇願するコヨミ。
「チッ!解ったよ解りましたよ!!」
渋々ながらも承諾する俺。だってしょうがねぇだろ?俺に選択肢は無いのだから。
「ありがとう…これから宜しくね…」
俺の返事を訊いて安堵の表情を浮かべるコヨミ。
笑顔がめっちゃ可愛いです。
生前の俺ならムラムラしながら交際を申し込んでいたのかもな。
いや、それは無いと思いたい。
俺の中に居る和樹がありがとうと言い残して俺に同化する。
途端に俺の中から力が湧いて来るのが解った。後はこの力を使いこなせる様にしないとならないな
カチッ…
そんな事を考えていると、俺の中で何かが嵌まる様な音がした。