第37話 レイの怒り4
「あら、いらっしゃい」
あの事件の後、多方面からの協力を得て復活したみず乃の裏口から中を覗くと仕込みの最中だったのか恵美さんが驚きもせずに挨拶してくる。
表口から入ると不都合が発生するかもと言うので、用事が有るときは裏口から入る事にしているのだ。
「おっ!?旦那じゃないですか何か事件ですか?」
いらっしゃいました…社長は居ますか?と言い切る前に奥の部屋から顔を出して手招きをする社長。最近は俺の表情を見ただけで事件か悪戯の誘いか偶々立ち寄ったのかが解るようになっていて、今回もまた、俺の表情を見ただけで事件だと理解できたらしい。
それならそれで話は早い。邪魔するよと恵美さんに断って奥の部屋に入る事にする。
奥の部屋は普段はVIP専用部屋として、議員や大会社の社長達が使う。なので室内の造りも他の部屋とはひと味もふた味も違う。
いやぁ~…何時も思うのだが、この部屋に入ると金持ちになった気分に浸れるんだよな…
って、そんな気分に浸っている場合じゃない!事件だよじ・け・ん!昨日から今日迄の出来事と何があったかを社長に話し、その主犯格が斎藤佑哉の娘であることを伝え、その上で最近の斎藤佑哉の行動について問い質した。
斎藤佑哉はみず乃の常連でもあり、その娘の真紀もまた、父親と一緒に来る事が多いのだ。
俺の話を信じられねぇなと言った表情をし、腕組みをして聴いてウームと唸る社長にレア級が絡んでいるからソイツが思考誘導している可能性が高いからと伝えると
「あの禿げ糖親父だけじゃなく取り巻きにも取り憑いていますよ?」
と、何でもない様に言い放つ社長…って…何時気付いたんだ?と、聞き返すと
「商売柄ってヤツですよ。どんなに上手く隠れようと解りますし、予め離脱していても残滓は残りますからね」
と返事をした後で、どおやら今回の件は単独犯の様だと付け加える。
何故単独犯だと解るか?一言で言うと、幾らその幽霊が分身してその全ての姿を変化させていようが、その身から出ている波動は同一だからだ。
それは俺や真智子でも変わらなく、解る者には解ってしまうのだ。
だとすると…ご本体様は何処かで複数体の分身を操って対象の生者の悪意を吸って力を溜め込んでいると考えて間違いない…何の為に…?
「う~む・・・解らん・・・」
思わず考え込んでしまった俺に手伝える事が有ったら言って下さいよと言う社長。
幸いな事に閻魔で執行猶予与えられた幽霊は俺に協力する事を前提としてこの世に残る事を許されている。
もし、俺に非協力的な態度を示した場合は即時刑が執行され地獄へと落とされるのだ。
勿論、社長もチョロ松も閻魔の恐ろしさは知っているし、閻魔が無くても裏切らないと確約している。
行き先は解らないが、それ相応の重い責苦が待っているに違いない。
シッカし…あの閻魔の正体って…何だろうな?
「てか、取り巻きには能力者もいるし対策もバッチリ…つまり個人結界も張っているんだろ?何でレア級が憑いているんだ?」
話が横路に逸れそうなので元に戻すとしよう。
そう、能力者がいるからこそ近付けないし、隙を見て近付けたとしても個人結界を張っているからこそ取り憑けない。悪意を持つ幽霊なら尚更だ。
そんな奴等にどおやって取り憑き操っているってんだ?
俺の疑問に腕を組んで考え込む社長。
その時…
「マイドォ~旦那ぁ~色々と解りやしたよぉ~…フギャッ!」
アホ面晒して床から現れたチョロ松…この野郎…態と俺の真似しやがって!ムカついたから踏みつけたらフギャッ!と潰れたカエルみたいな声を出して弾けと飛びやがった…
全くコイツは…真面目に話している時に何やってんだよ…とか独り言を呟いたらアンタも変わらないでしょ!と真智子に突っ込まれたよ…トホホ
「ワリィワリィ…で?どんな状況だ?」
マジで勘弁して下さいよと抗議するチョロ松に謝りつつ情報収集の結果を訊くことにする。
「あの3人が通う浦川学園はですね…」
浦川学園は見た目はごく普通の生徒が通う一般的な学校と変わらないが、内情は180度違い、複数のイジメグループが仕切る悪意の巣窟となっているのだ。
然も、各グループを仕切っている生徒は親が何かしらの権力者だったり普段は成績優秀で真面目な生徒を装っていたりと巧みにカムフラージュしているために特定され難い。
今回犠牲となった美穂は氷山の一角でしかない。
原因としては、学園自体がレア級以上の巣窟であり、それと気付かれない様に悪意の強い生徒を操り悪事を働かせてその生徒の中で増大して悪意を食べて力を増大させているのだそう。
その数は20体とも30体とも言われていて上位5体は5悪と呼ばれており、かなりの強さを誇っているらしいが、その力は拮抗しているらしい。
う~む・・・本来、徒党を組む事はない幽霊が徒党を組んで生徒を利用して自らの力を増大させている?何で?
学園の内情を知り、混乱する俺にチョロ松から更に混乱する固有名詞が飛び出る。
「それでですね…旦那の言っていた奴等に取り憑いていたレア級の名前が黒尾康夫って奴らしいです。黒尾はその5悪の中の最弱の位置にいる奴らしいです」
なっ…黒尾康夫だとぉ!?
その名前を訊いて混乱する俺と真智子。
それもその筈で、黒尾は4年前に起きた通り魔殺人事件で犯人に取り憑いていたレア級であり、大捕物の挙げ句に取っ捕まえ間違いなく消滅させた筈なのだ。
詰めが甘かったとしか言いようが無いわね…
混乱しながらも、そう結論付ける真智子。それには同意なのだが、勝てないと知って手を打っていたと考えた方が合点が行くよな。
クッソ…しくじっていたとはな…あったまにくんぜ…
シッカし…5悪か…
気にはなるが、先ずは禿げ糖親父を潰すのが先だよな。
俺はチョロ松を連れて箕浦刑事に会いに行く事にしたのであった。




