第34話 レイの怒り1
かなり重い話しになると思います。
智子はあの世に旅立ったものの、幸子は治療のかいなく1年保たずに亡くなった。
レイは何も出来なかった事に対して悔しがっていたのだけど、そもそも手遅れの状態であったので仕方がなかったと割りきる他はない。
それから暫くの間は何事もなく昼間はワンダーランドでマッタリと人々の喜怒哀楽や台から流れて来る音や歌を楽しみ、夜は廃病院や旧道に存る幽玄坂トンネルと心霊スポットで肝試しに来る人達を驚かせていたりしていた。そんなある日の事…私達にとって忘れたくても忘れられない事件が起きた。
今回はその話をしようと思う。
コヨミが居なくなって早5年。
夏の終わりを告げる蝉であるつくつくぼうしが鳴き出した頃の夜…時刻は23時を少し過ぎた頃。
「ン?何であんな場所に人がいるの?」
雨音のマンションは駅前の15階建てが最高の高さで、そのマンションを筆頭に駅周辺に10~13階建てが数棟建っていて、後は駅から離れた場所に5~8階建てのマンションが群れを成している場所が数ヶ所在るだけ。
マンションの屋上にアンテナを設置しているので、街の様子を伺うのが最近の私の日課となっているのだけど、その中の13階建てのマンションの屋上に設置したアンテナが妙な光景を映し出した。
そのマンションの屋上は普段は使われておらずエレベーターでは屋上に行けず、行くのなら13階から非常階段で行くしかない。
然もその階段への出入口は南京錠で鍵が架かっている為に何人も屋上へは行けない場所となっている。
そんな場所であるが為に安心してアンテナを設置したのであったのだけど、そんな屋上にまさかの人?
落下防止用のフェンスもない屋上の縁に腰掛けて街の夜景を観ていたと思ったら立ち上がり、また座るを繰り返していた人は暗いから顔は見えないけど風になびく長い髪の毛と体型を見る限りでは女子高生の様だ。
どんな方法で屋上に侵入したのか解らないけど、誰も入れない場所でたった一人とくればもう理由は1つしかない。
そう、彼女は自殺しようとしているのだ
手首を切って自殺する場合、ためらい傷ってのが幾つか出来るものらしいけど、何度も立ったり座ったりするところを見たら飛び降りるのを躊躇っていると考えて良いかな。
「見てしまった以上、何とかせにゃぁならんな…しゃぁねぇ…」
瞬時にアンテナと入れ替わったレイは見た目10歳くらいの女の子に姿を変える。その姿を見る迄もなく私は女の子の中に入り込み、レイの姿を女の子に認識させる。
この5年間、ただ遊んでいた訳ではない。
自身を鍛える為の修行は勿論の事、こう云ったシチュエーションにはこうした方が良いと話し合い、シュミレートしていたのだ。
「何やってるのお姉ちゃん?危ないよ?」
レイ(子供バージョン)が女子高生の右横に立ち、女の子のスカートを掴んで話し掛ける。
妙に芝居がかっているのが気になったけど今はそんな事を言っていられないわね。兎に角、女の子を屋上の中央に戻して危機を回避しないとね。
誰も居ない筈の屋上に突如出現した女の子に驚き固まる女子高生。
ヤバッ!
このままではパニックになって飛び降りかねないので一時的に意識を奪い屋上の中央まで戻して意識を戻す。てか、最初からこうしておけば良かったかな?
やだ…この子…かなり陰湿な虐めを受けているわ…
意識を奪った事で見えたこの子の記憶…
虐めているのはクラス委員の女の子を含む男女3名からなるグループで売春や性的暴力は当たり前で少し前に妊娠もさせられたらしいけど、バレて殴る蹴るの暴行を受けていたみたいで恐らくはそれが最終的な決断をさせた。
そう結論付けた私は悪いと思いつつも更にこの子の記憶を覗いてみた。
この子の名前は佐藤美穂
私立浦川学園の3年生
少々天然が入っているドジだけど心優しい女の子みたい。
物怖じしない性格みたいで友達もそれなりに多い。
そんな子が何故虐めを受け始めたのか?
新学期が始まって少しした頃。
「美穂ちゃん!俺と付き合って下さい!」
学年でも人気者の部類に入る同じクラスの浅岡明夫と言う男の子に告白された美穂は悩んだ上に断った。
これが虐めの切っ掛けになったのだと推測出来る。
断った理由は美穂は明夫の告白の少し前に木村修と言う名の別のクラスの男の子に告白されて付き合い始めたばかりであったのだ。
フッてフラれてなんて世の常なのだし、断られたら諦めて次の相手を探せば良い話しだと思うのだけど、明夫と言う男は諦めが悪いところか性格も悪かった。
美穂に断られた明夫はその事を逆恨みし、仲の良かったクラス委員の斎藤真紀と加賀谷幸一を巻き込み帰宅途中の美穂に乱暴を働きその様子を写真に撮り、脅し、半ば性奴隷扱いしだす。
「美穂が悪いんだ!俺をフラなければこんな事にはならなかったんだ!」
身勝手な言い訳を美穂に刷り込み、売春や乱暴を働く3人に心身共にボロボロにされた美穂は真紀に死ねと強要され今夜此処に来る事になった。
屋上への鍵は経路は不明だけど、真紀が用意して渡したらしい。
これが私がこの子の記憶を覗いた結果。
「たかがフラれただけでこんな事が出来るなんて…ヒデェな…」
私から事情を知ったレイからどす黒いオーラが立ち上る。
ちょっ…ちょっとレイ!怒りはごもっともだけど、それ以上怒るとレア級化するよ!?先ずはこの子のケアが先だよ?
「私が3人の身辺調査をするからこの子をお願い!」
怒れるレイを宥め、今後の対策を相談した後で私は3人の事を調べる事にしたのであった。




