第2話 BARキメラにて1
アメブロ版には出てない新キャラ登場です。
幽霊の視点で書いています。
「それはねぇ・・・既にぃ・・・貴方がぁ・・・し・ん・で・る・からよ?」
勿体つける様に、然しズバリと俺の状態を伝えるその女性に何を言ってるんだ?この女は?と心の中でツッコミを入れながら「ンなわきゃねぇ~だろ!俺は生きてるよ!」と返答してやると、やっぱり解ってないのねと云った表情で
「貴方が話しかけても誰にも反応されなかったでしょう?それが証拠よ?」
と言われてしまう。
確かに何人かの人に声を掛けてみたが無反応だったのでおかしいとは思っていたのだが、意識もハッキリしているし姿が鏡に映った以上、実体は在ると確信出来る。無反応だったのは俺の声が小さくて相手に届かなかっただけだ。
だが、この女は俺を死んでる者つまり幽霊だと言う。混乱する俺に貴方が死んでる者だと解らせてあげるから着いて来てと左手を突きだして人差し指をクイクイッと前後に動かし俺を挑発する。
「此処よ?入って」
この女を無視しても良かったのだけど、同じことを繰り返すのは手間も掛かるし面倒だ。
仕方ないのでこの女に挑発されるがままに着いて行く事にする。
連れて来られたのは繁華街から少し外れた場所に在る「キメラ」と云う名のBAR。豊富なカクテルとサラダが中心の軽食を扱う店で営業時間は20時~翌日5時まで営業しているとあって夜の店に勤める人達に人気が有る。
「いらっしゃ…ちょっとコヨミちゃん!なんて者連れて来たのよ!」
カウンター越しに挨拶してきた店長の三田村真子29歳は女の背後に居る俺に気付くと鋭い目で睨み付けて
「消えろ!此処はお前の来る所じゃねぇ!!」
と、怒鳴りつけてくる。
何なんだこのオカマモドキの様な中性女は?いきなり失礼なヤツだなと思っていたらコヨミと呼ばれたこの女が俺を庇う様に
「真子ちゃんゴメンね。何が有ったか説明するからさ、奥の部屋を使わせて貰えないかな?」
そう言うとコヨミは真子の許可を待つ事もなく俺を促して店の奥へ進む。
店内は落ち着いた感じの癒しの空間の様な造りで数名の男女は単独で其々の時間を満喫しているような感じでコヨミと真子のやり取りには1mmの反応も示さない。恐らくはこの二人のやり取りは日常茶飯事的な感じなのだろうと感じた。
「ガチャッ」
言われるがままに店内の最奥の部屋に入った俺は頭の天辺から爪先までナメクジが這いずり回る様な不快感を感じてしまい、堪らず部屋から出ようとすると最後に入った真子が扉を閉めた後で鍵を掛けて俺を閉じ込める。
「何か気持ち悪いよ・・・外に出たい」
何がおこったのか解らず、兎に角この強烈な不快感から解放されたくて外に出せと丁寧に言ったつもりなのだが、真子と呼ばれたオカマモドキがいきなり俺に
「黙れこのクソ幽霊!大人しく成仏しやがれ!!」
と云うが速いか手を合わせてありがたぁーいお経を唱え始める。
「グッ・・・ぐるじぃ・・・俺が一体何をしたってんだ!?」
お経の効果なのか感じていた不快感が永遠に続くかと思える様な苦しみに変わる。
「此で解った?貴方が死んでるって事」
語尾にハートマークを付けてコヨミが愉快そうに聞いてくる。性格悪すぎるぞこのドSの変態女め!と内心毒づきながらも「俺が幽霊だと理解出来ましたからあの女を止めて下さい!」と懇願する。
「ハイ!そこまで!!」
フガッ!!
俺の返事に気を良くしたのか、ニッコリ笑顔でコヨミがお経を唱え続ける真子の鼻の穴にズボッと2本の指を突っ込みお経を止めさせる。
「ちょっとぉ!何をしてくれるのよ!!集中力途切れちゃったじゃない!!」
突然中断させられ頬を河豚のように膨らませて恨めしそうにコヨミを睨む真子に心の底から震える様な低い声で
「鼻フックに首輪を巻かれて飼育されたくなければ少し黙ってようね健一君?」
と言って真子を黙らせる。
実のところ、真子はM寄りの性癖の持ち主なのでこう言う扱いに弱い。勿論、コヨミもそんなことは看破しているのでこの扱いは当然のことなのだが、することは無い。
無いが、此処で成仏させることが目的ではないので真子を黙らせることにしたのだ。
「じゃあ、自己紹介からね?アタシの名はコヨミ、楠木コヨミ。此方は三田村真子」
三田村真子(健一)29才
身長172cm
体重及びスリーサイズは不明
性同一性障害の持ち主で23歳の時に手術をして男→女に生まれ変わる。
元々霊感が強く高校卒業後直ぐ修行を始め、2年の期間を経て祓い屋家業を始める傍らバーテンダーとしての修行をして5年前に自身の店を出店する。
外見的には超絶美人といった容姿ではあるが、ハスキーな声とがに股男歩きがマイナスポイントになっている。
楠木コヨミ(海野玲奈)27才
職業 祓い屋
身長160cm
体重及びスリーサイズは不明
中学2年の頃から連載漫画を抱えていた天才漫画家ではあるが、高校卒業間近にとある事件で許嫁を亡くす。
この事が切っ掛けになり祓い屋家業に転身する。
真子は修行時代の姉(兄)弟子に当たり何かとお世話になっている。
「で貴方の名前は?」
コヨミと名乗る女から名前を聞かれたのだが、如何せん、その名前が思い出せない。
それどころか何故俺が幽霊をやっているのか、生前どんな生活をしていたのか?自分に関する事がスッポリと抜け落ちていてどお返事をしたら良いか解らない。
仕方がないので「知らん!自分の事に関して何も思い出せない!」と返事をすると
「何スットボケてんのよこのクソ幽霊は!」
と苛ついた反応を示す真子を「真子ちゃんは黙っててね」とひきつった笑顔で制した後で
「本当に思い出せないの?・・・てか、貴方、駅のホームの片隅に居た幽霊よね?」
と困った表情で聞いてくる。
「あのホームで気が付いたのは間違いないけどよ、気が付く前の事は何も思い出せんのだわ」
俺の返事を訊いてやっぱりと云った様な表情で俺を品定めするように見つめる。
「後頭部がぐちゃぐちゃだわ。恐らくは大きなハンマーか何かで思い切り殴られてその時の衝撃で記憶を失ったのね…だとすると…真子ちゃん!?」
痛みが無かったので解らなかったが、後頭部がスプラッタしているみたい。恐らくは痛いのを通り越して麻痺していたのだろうと推理するコヨミ。コヨミの話を訊いて「それで此処に来たのね?」と納得した表情の真子は真剣な表情で俺の頭に右手を翳して何やら呪文じみた言葉を唱え始める。
然し
「これ以上は無理!!この呪いを掛けたヤツは特殊な能力の持ち主か天才だわ」
どおやら真子はヒーリングも出来る様で俺の頭の傷を修復したまでは良かったが、肝心の記憶を復活させる事は出来なかった様だ。
俺の記憶を修復させようと2度程挑戦したのだが、超強力な呪いを掛けられている様で手出しは出来ないところか、記憶を復活させられるのは呪いを掛けた本人だけだろうとの事。
「あたしは強制成仏を薦めるけど、コヨミちゃんはどおしたい?」
コヨミが連れて来た幽霊であるので真子が勝手に俺を成仏させる訳にはいかない。
どのみち成仏させるのが本人の為だとコヨミを諭すも
「関わってしまったからねぇ~それに、記憶が無いまま成仏させるのはかわいそ過ぎるよ」
コヨミは俺を成仏させるのには気が進まない様子で暫しの間考え込んでしまう。