第26話 ガチ鳥の怪7
雨音暑内で幽霊が見える人は箕浦刑事以外誰もいない。
それを良いことに堂々と取調室に入り込み大澤の供述に耳を傾けていた私と社長。
供述自体は嘘偽りは無いみたいなのだけど、どおやら反省の「は」の字も後悔の念と言うものを持ち合わせていないみたいね。
話を聞く限りでは勝野や西村山を恨んでの自首みたい。
この男は…
あまりにも身勝手な言い訳に思わず閉口してしまう私達。
とは言え、鶴乃屋ってかなり悪どい事やっているのね…捕まる前に勝野にお仕置きをと思っていたら…
勝野も既に逮捕済みって…森田警部さん早すぎ!
って、突っ込みを入れたら
「真智子君がお仕置きをする為に動く前に先手を打たせて貰った」
だって…(汗)
仕方がないか…
この様子だと西村山も時期に捕まるだろうね。
事件が解決に向かっているけど、西村山親子の魂を解放しようとしない社長。
だから、息子の魂だけでも解放してあげなさいよと言ったら
「最後の1人が裁きを受けるまで解放しない!それと旨いラーメンだ!アイツが作る新作のラーメンが不味くても連れていく!」
と言い出す始末で聞く耳も持たないって感じ。
その後、勝野が逮捕されたと知った西村山遠矢は逃亡を図るも関東空港で発見され逮捕。
そして西村山の自白で死神衆と呼ばれる殺し屋集団の素性が割れたのは良いけど、既に海外に逃げている様子で世界的に指名手配される事になったのであった。
この死神衆と名乗る集団は金さえ貰えばどんな相手でも殺すみたいで、この8年で少なくとも10件もの事件の実行犯みたいね。早く捕まると良いけどね。
さてと…事件の方は一区切り着いた所で話をガチ鳥に戻すとしましょうか。
………………………………………………
いゃぁ~あのお地蔵さん、御影石製じゃなくてせとものだったとは…
真智子のヤツが御影石だと言ったからそれを信じていたけど、事実は小説より奇なりってヤツか?コレは?
てか、せとものを御影石みたいに見せていたとは思いもよらないだろうな。完全に詐欺だよ詐欺!
あの時すっ飛んで来たのは花岡玉斉で、お地蔵さんを壊された事に文句を言いに来たとの事で、命さんの名前を出して詐欺行為で訴えると脅したらスゴスゴと帰ったらしい。
でもって、翌日に改めて命さんとコヨミがガチの店長に事情を説明して納得して貰ったのだけど、魂は社長に握られたままなので命の危険が去った訳ではない。
てな訳で試行錯誤を続けているラーメンの試食を皆でしていたのだけど…
不味いと言われても仕方がない出来にダメだこりゃと頭を抱える事になったのであった。
社長はラーメンには精通していないとは思うけど、生きている頃はかなりの腕前の料理人だったらしく、香りを嗅ぐだけでどんな具材が使われているかある程度の検討が付く程だったらしい。
そんな社長を認めさせる様な一品を今から作らないといけないのだが、真智子が間に入って社長と交渉したかいもあって期間は事件が解決するまでとなった。
とは言え、腕利きの警部さんが相手なので短期決戦と考えた方が良さそうだよな。此処まで来て怨霊に魂を持って行かれる結末は許せないと奮起した命さん一行はガチ鳥の店長に協力する事になったのであった。
てか…コヨミ…顔色が宜しくなさそうだけど大丈夫か?
と、思ったものの、農家を廻り旬の野菜やら何やらと出汁や具材に使えそうな食材から具材を分けて貰い、更に麺にも拘ろうと雨音産の小麦粉まで手に入れて制作開始・・・と、忙しさMAXで動き回っていた為に何も聞けずじまいだった。
「・・・うん!これなら行けると思う!」
試行錯誤し、味の事で言い争いをしながら作り続ける事約10日。
海外へと逃げていた死神衆の最後の1人が南米で逮捕されたと一報を受けたと同時に出来た今の自分達が作れる至高の一杯。
その夜
森田警部と共に現れた黒い影がカウンター席に座る。
「俺は立ち会い人だからラーメンは要らない。社長の為に一杯作ってやってくれ」
何故、森田警部が社長と一緒に現れたかと言うと、社長のみで来た場合、旨い不味い問わず問答無用で魂を持って行かれる確率が高いので立ち会い人を買って出たのだ。
どおぞ…
「・・・フンッ!ギリギリ及第点って所か・・」
面白くなさそうに悪態を吐く社長は悪いがちょっと手伝ってくれんかと森田警部を促して厨房へと立つ。
「で…最後にそれを1滴入れてみてくれ」
「・・・コレで良いですか?」
「あぁ…手を煩わせてすまんな…」
「いえいえ」
「さぁ、食ってみてくれ」
社長の指導で森田警部が作ったのは言うまでもなく一杯のラーメンであり、見てくれは店長が作ったラーメンと何ら変わらない。
変わらないのだが、最後に入れた何かのおかげなのだろうか香りが違うと言うか、その香りだけで自分達が作ったラーメンと別物ではないかと思える程にインパクトが有るラーメンに変貌したのだ。
信じられずに1口スープを飲み麺を啜る店長。
「負けた…完敗だ…」
社長が作ったラーメンで心を折られた気がした店長は返す言葉もない程に項垂れるのみ。
「出汁の取り方が甘い!スープにしても具材にしてももう一工夫足りねぇ!努力は認めるが、俺でも作れる様な一品しか出来ない様な料理人は認めてやるわけにはいかねぇな!」
こんなヤツに店を出させる為…あんな金欲にまみれたヤツ等に俺は…俺の家族は殺されたのか…
悲しい…悔しい…そして…
憎い!!!
怒りの形相に変貌した社長の手が店長の首を掴む!
「ちょっと待った!」
犯人が幽霊であろうと目の前で殺人が実行されるのは本意ではない森田警部が当然の如く待ったを掛ける。
「どんな結末になろうと止めないって約束だよな!?」
店長を見据えたまま返答する社長。
「ですが…悲しいかな…俺は警部なんですよ…目の前での殺人は認める訳には…」
予想はしていたが、何でこうなると内心頭を抱えながらも森田は止めに入る。
と…そこに
「あ゛~気持ちは解るがよ~その辺にしてやってくれねぇかなぁ…それ以上は…解るよな?」
アホ面ぶら下げて壁から出現したレイが社長に脅しを掛ける。
「お前は…」
レイの顔を見た途端、何かを思い出し掛けるが何処の誰なのか全く思い出せない。店に関わっていた者や常連ですら覚えている社長は確かにレイの顔を知っている!にも関わらず、まるでレイについての記憶のみが欠如しているみたいだ。
そんな事が有り得るのか?と困惑しつつも私利私欲の為に他人の命を奪った奴等を生かして置くわけには行かない!コイツも同罪だ!と店長の首を掴んだ手に力を入れる。
「どのみち、ソイツの父親は私利私欲の為に殺人を指示した事で捕まったんだ。ソイツもこの店も只では済まないだろうよ!?それに鶴乃屋も終わりだよ!それで矛を納めてくれないかな?」
ダメ元でお願いしてみるレイであったが、首を横に振り
「残念だが、この後犯罪者の息子としてのレッテルを貼られて生き地獄を味わうより此処で俺が息の根を止めてやるのが慈悲と言うものであろうが!」
と、退くことをしない社長。
「許してくれとは言わない・・・俺は貴方を満足させる様なラーメンを作れなかった・・・それが全てだ・・・ただ、親父がそんな罪深い事をしていたなんて知らなかったんだ・・・それを知っていたら全力で止める事も出来たのに」
自らの夢の為に裏で行われた罪深く悲しい事件。その事実を知って後悔と自責の念が店長の最後の心をボッキリと折る。
「じゃぁ、一緒に地獄へと逝こうや!」
社長のこの一言を最後に店長は意識を刈り取られた。社長が店長の魂を完全に掌握したのだ。
此処で終わらそうと思っていたのですが、終わらせられなかったです。
店長を生かすか殺すか…それが問題だ…




