第24話 ガチ鳥の怪5
鶴乃屋は全国にチェーン店を展開する料亭で和食と懐石料理の店で現在最も勢いの有る店の1つである。
お客の評価は 安い・旨い・仕事が丁寧 と好評で、どの店も宴会は半年先まで予約が埋まっている程に絶大な人気を誇っている。
そんな鶴乃屋がターゲットにしたのがこの街。
然し、この街には100年続いている和食料亭 みず乃 が在る。
全国展開こそしていないが、みず乃の噂は訊いたことが有るし何度かグルメ番組で放送された程だ。
TVで放送されたから、地元民に多大な人気を誇ろうが鶴乃屋の味がど田舎の店に負ける筈がないとたかをくくっていた勝野以下幹部社員は下見で雨音を訪れた際にみず乃に立ち寄りメニューに一番人気と書かれている和食御膳を注文した。
確かに見た目は何処の店でも出される代わり映えのしないオーソドックスな御膳であったが為、これなら鶴乃屋が出店しても絶対に勝てると内心馬鹿にしてもいた
のだが…
料理を一口食べて馬鹿にしていた気持ちが一変したのだ。
「う…美味すぎる…鶴乃屋では再現出来ない味だ」
同行していた幹部社員の1人が項垂れ悔しそうに呟いてしまったのを皮切りに雨音に出店は諦めましょうと言い出す者も出始める始末。
然し、勝野拓郎だけはみず乃の秘密に気付いていた。
それ故にみず乃を叩き潰してでも出店してこの地の恩恵に肖りたいとも思ってしまった。
これが全ての始まりであったのだ。
「あの土地は古くから地上げ屋やら他県のチェーン店やらと何かと狙われて来たので対策はキチンと出来ていました…何度かちょっかいを出して来ては返り討ちにしていたのです…乗っ取りが上手く行かないばかりか裏で意図を引いていたのを知られて焦りが生じたのでしょう…勝野は殺し屋を雇いあの夜、殺されたのです。」
先ず最初にみず乃と契約している農家を買収しようとしたが、失敗。
次にヤクザを使い店の評判を落とそうとするもこれも失敗。
ならば、大澤を抱き込み社長を借金地獄に追い込む事で みず乃を取り上げる計画を立て実行に移そうとしたのだが、直後、脱税の疑いでガサ入れを喰らい失敗。
これは隆明と由比の気転によるものであった。
100年の歴史の中で積み重ねてきた乗っ取り対策の前に悉く失敗し、挙げ句の果てに鶴乃屋の策略に気付いた社長一家に思わぬ反撃を受けてしまった勝野は怒り狂い逆恨みした挙げ句に遂に最悪の手段を取ったのだ。
一家の遺体は雨降山の裏側に埋められているとの事。
「事件の解決は生きてる者にやらせれば良い。俺が知りたいのは何でお前がそこの店の店長を苦しめているかって事だよ!」
怒気を混じらせた口調で社長の幽霊を問い詰めようとする俺を制して命さんが話を続けさせる。
そこから訊いた話は命さんの霊視と同一であったが、家族のおかげでガチ鳥の店長の父親に取り憑け、更に事の真相を突き止める事が出来たのと息子の店を持ちたいと云う願いを叶える為に地主がこの土地を狙っていた事が事件に拍車を掛ける事になったと吐露する。
「俺達は何も悪いことをやっていない!!なのに何故殺されねばならなかったのか!?何故奴等は人を殺しておいてノウノウと生きてる!?さんざん俺達を持ち上げておいてそれが当然だと言わんばかりに従っている従業員や鶴乃屋に入り浸る元常連達も全部気に食わねぇ!!全員纏めてあの世に連れて行く!!!」
怒り怨み辛みと言った負の感情がないまぜになった行き場のない気持ちが伝わって来る。
気持ちは解るよ?ホントに真剣にさ…でも…だからと言ってガチ鳥を巻き込むのはちょっと違うのではないのかな?
「では、鶴乃屋を潰す事と貴殿方を殺した人達を道ずれにするまで復讐すると言うのですね?」
問い質すように聞く命さんに
「全員纏めて末代まで呪ってやるよ!例え生まれ変わっても苦しめて苦しめて苦しめ抜いてゴミ以下の人間としての人生を送らせてやるんだ!それくらいの事をしなければこの怒りは治まらん!!!邪魔をするのならお前達も只では済まさんぞ!!!!!」
と、言い放つ。
確かにごもっともな言い分だと思うし、そもそも乗っ取りなんて企てしないで出店してお互いに切磋琢磨して正々堂々と競えば良かったのにと思うよ?
然しなぁ…
社長の幽霊の怒りを受け止めつつ考え込んでしまう俺。
だってそうだろ?もし俺に記憶が有って俺を殺した奴を覚えていたら先ず同じ道を歩んでいたのは自明の理なのだし、間違いなく一族郎党諸とも道ずれにするに決まっているのだから…
結果として一家は殺されているし、何年も前の事なので犯人が逮捕されても根本的な解決にはならないけど、前に進ませる為には何とかして事件を解決するのが先決だよな。
「1つ聞きますが、地主には手を出していますか?」
「殺してはいない…ヤツを殺るのは息子を殺してからだ」
「では、私が貴殿方の代わりに事件を解決してあげます。なので、これ以上店長さんにも手を出さないでくれませんか?」
「ほぉ?証拠も何も残っていない事件を解決してくれるのか?何を言い出すかと思えばそんなことか…笑わせる!!」
「今月中に必ず解決してあげますと言ったらどおですか?」
「無駄だ!既に奴等の魂は俺の手の中なんだよ!生かすも殺すも俺の気分次第なんだよ!」
「そお?では、今すぐ貴殿の家族のみを地獄に送って差し上げても良いのですよ?」
とか考えていた間にも話は進んでいたのだが、地主とその息子を殺す事しか考えていない社長の幽霊とでは平行線をたどるのは無理もないわな…
「きたねぇぞ!…チッ!解ったよ!もし解決出来なければその時は容赦しない!それで良いか!?」
言うことを聞きそうにない社長の幽霊を黙らせる為に再び出現した不動明王が怒りの形相で社長の幽霊を睨み付けるとしぶしぶではあるが条件を飲む。
「それでは、貴殿方の遺体が埋められている場所まで案内して貰えますか?それと、コヨミは直ぐに祠を用意して」
命さんの指示にお弟子さんを何人か使っても良いかと問うコヨミに咲花ちゃんと寛貴君なら直ぐに動ける筈だからと言い残して雨降山に向かおうとする。
展開の早さに着いていけない俺はどおしようかと迷ったのだが、何か言いたげなコヨミを残して命さんに着いて行く事にした。
まぁ、この場にはアンテナも設置してあるから何かあっても直ぐに駆け付ける事が出来るだろうしな。
雨降山裏側
木を隠すには森…だったっけか?死体を隠すには自殺の名所って考えなんだろうけど…イヤァ~・・・幽霊の俺が言うのもなんだけど…何時来ても不気味だよな…
二人に着いて来ながらそんな事を考えていた俺が到着したのは山のちょうど中間地点辺り。
普通、自殺志願者が最後を迎えるのは山の高さの3分の1程度の高さ迄であるからして、こんな場所に埋められていたとなれば気付かれ鷺ことはないわな…ましてやご丁寧に埋められているとあってはそりゃぁ見付けられる確率はホボ0に近い。
「此処です」
埋められている場所に到着した社長の幽霊は伸び放題に伸びている雑草だらけの場所の地面を指差して自らの居場所を指し示す。
何年も前の話だけに地面を掘り返した形跡なんて解りもしないが、本人が言うのであれば間違いないのだろう。不動明王の前で嘘は言わないと思うしよ。
って・・・アレ!?・・・
真智子が…
体育座りして大人しいなとは思っていたのだけど、俺の中に居るのは20%の分身体だぞ?80%は何処行ったんだ?
てか、単細胞生物か!?アイツは!?
まぁ、完全分離は無理なんで、20%の俺を人質に持って行ってるから集中したら何処に居るかは解る筈なんだけど…今はそんな事をしている場合ではないんだよ。それに、稼働時間オーバー前には戻って来るから大丈夫だよな。
場所を特定した命さんは周辺の草を抜いて綺麗にした後で線香と花を添えて下山した。
ん?
アンテナが何かに反応してるぞ?
下山した途端にガチ鳥に設置したアンテナがコヨミと命さんのお弟子さん達に近付く男を捕らえた。
色は解らないがビジネススーツを着た男は物凄い勢いでコヨミに何か言ってる様子。
相手は生身の人間だよな…ヤバいかな…
そう考えた俺は命さんにその事を伝えるとクスクスと笑いながら
「大丈夫よ」
と返事してくる。




