第21話 ガチ鳥の怪2
住宅街に出来たラーメン屋「ガチ鳥」そこには一体どんな秘密が有るのか?
食いしん坊さんと言う言葉を華麗にスルーしてガチ鳥で何が起こっているのかを聞いてみたのだが、コヨミにも現場を調べてみないと解らないらしい。
とにかく夕飯時の時間帯が勝負と言う事なのかな。
17時過ぎ
図書館に滞在すること2時間。
コヨミと剣術書やその手の漫画等を読み漁って再びガチ鳥へと来た俺達は既に15人程並んでいるお客の後ろに並び入店した。
ガチ鳥という店は都内の有名店で修行していた店長が暖簾分けをしてもらい故郷でもあるこの地でラーメン屋を開き奥さんとアルバイトの女性と3人で切り盛りしている。
「確かに美味しいね」
スープを啜り麺を食と具材べた後で感想を述べるコヨミ。
然し、言葉とは裏腹にその表情は曇りっぱなしだ。
前回同様真智子も不機嫌そうにしている。
然し、他のお客は楽しそうに談笑したりしながらラーメンを食べている。
(幽霊が)見えない感じられないってのが一番幸せなのかもね。
コヨミがボソりとそんな事を呟く。
確かにそうなのかも知れないが、コヨミの様な存在が俺達幽霊にとってどれだけ有り難い存在か。
こういった人達が居なければ今頃この世は恨みや未練を保ったまま人に危害を加える幽霊で溢れた混沌とした世界になっていたかも知れない。
そんな事を考えていたら突如として聞こえる怨嗟の声。
「どおやら結界は地面に張っているみたいね」
怨嗟の声に俺が気付けなかったのは建物に結界が張られていたのではなく地面に展開させていたかららしい。
その結界を通過させる程の強い恨みを持ってしまっている幽霊ってどんなんだよと思っていたらラーメンを食べ終えたコヨミが席を立つ。
「店内の状況は解ったから出ましょう」
俺を促し店を出たコヨミはキョロキョロと店の周囲を見渡し何かを発見したのか、駐車場の片隅に在るそれを確認し反対方向に目を向けると案の定、同じモノが設置されている。
「そうなのね…じゃあ…彼処にも…」
その設置されていたモノは体長約70cm程のお地蔵さん。
そのお地蔵さんがガチ鳥を中心に設置されている。
「空から見てご覧?どんな形で並んでいるかがハッキリと解るから」
小馬鹿にしたようにコヨミが言う。
ムッとしながらも上空に浮かび上がった俺はお地蔵さんを確認すると、ガチ鳥を中心に規則正しくお地蔵さんが配置されているのが解った。
「こんな風に配置されていたんじゃない?」
何時も持ち歩いているメモ帳にガチ鳥とお地蔵さんの配置を描き出す。
「おぅ、そんな配置だったぞ」
「じゃぁ、お地蔵さんをこうして結ぶと…解る?」
「星型になるな?」
「これは五芒星よ。詳しい説明は省くけど、かなり強力な結界になっている筈よ」
「成る程…これを使ってR級をこの地に封じ込めたってか?」
「…そうなるわね…そんな事をしても何の解決にもならないのにね」
コヨミの導き出した回答は、どおやらお地蔵さんを使用して結界を張ってこの地にR級封じ込めているらしいとの事。
此処でこうしていても仕方がないのでガチ鳥の事は暫く様子見する事にしたのであった。
深夜2時 ガチ鳥店内
コトッ…
誰も居ない店内で後片付けや掃除を独りでこなしている店長の西村山宏樹34歳。閉店後、次の日の作業を楽にする為にある程度の作業をしているのだが、理由はそれだけではない。
「おまちどおさまでした」
誰も居ない筈のカウンター席に1杯のラーメンを置くと1体の黒い影がラーメンの置かれている席に座りラーメンの匂いを嗅ぐ仕草をしている。
「ウグッ!!ゆ…ゆる…ゆるして下さい…」
暫しの沈黙の後、誰も居ない筈なのに見えない手により唐突に首を絞められる宏樹の首…
その直後にラーメンがどんぶりごとカウンターから滑る様に落下する。
不味い!!
ガシャン!
掃除したての床に陶器製のどんぶりがぶつかり砕け内容物が撒き散らされる。その様子をただ見ている事しか出来ない宏樹は殺されるかもとの恐怖で半狂乱になりながらも、まだチャンスは1回有る!次は必ず納得の行くラーメンを出す!
「来月のこの日この時間にまた来る…次が最後だ…もし…解っているな…まぁ…期待せずにまってやる…」
その言葉を言った直後に禍々しい気配が消えたのを確認し、独り頭を抱える。
「アレもダメ!コレもダメ!一体どんなラーメンを作れば許可してくれるんだ!」
比較的自信が有ったラーメンもこの有り様で途方にくれるのであった。
宏樹はこの地の所有者の息子であるが、この店が出来るまでの事は何も知らない。
自分の店を持ちたいと親に自分の夢を語った後、親がこの店を用意しただけの話なのだ。
何で自分がこんな目に…
漸く実現した夢の店を持ったのは良かったがこんな不運が我が身を襲う等と思いもしなかった。
黒い影が現れたのは開店10日目の夜
開店1週間迄は物珍しさも手伝って目が回る程忙しく、深夜遅くまで後片付けや翌日の仕込みを終える頃には夜が明ける間近って事もざらだった。
その日も開店当初程ではないが、それに近いお客が押し寄せ猫の手も借りたい状況の中、最後に入ったお客にくっついて入って来た黒い影。
忙しさも手伝って気にも止めていなかったし直ぐに消えたので何かの見間違いと自己完結していたのであった。
深夜2時
厨房に独り残って翌日の仕込み作業をしていた宏樹は背後から突き刺さる様な視線に思わず振り向いてしまう。
そこに居たのは先程見た黒い影。
この時振り向かなければ、それからの出来事は起こらなかったのかも知れない。
然し、振り向いてしまった。
そして視線の主を認識してしまった。
認識してしまった途端に聞こえた地の底から聞こえて来る様な身の毛もよだつ声。
お前を…コロス…
ウグッ!
勘違いでも気のせいでもなく声は確かにそう言ったと同時に誰もいない筈なのに見えない手が首を絞めつける。
妄想でも何でもないリアルに気道が狭くなり呼吸もしにくくなり意識が遠退きそうになる。
コロス?何故?
一体俺がなにをしたって言うんだ?
朦朧とする意識の中、何故殺されなければならないのだと心の中で必死に問い掛ける宏樹であったが、返事は返って来ずに絞められた首に更に力が入る。
ウグッ…何故だ!?何も知らずに死ぬのは嫌だ!答えろ!
まだ夢の途中、夢はまだ叶っていない!こんな所で死ぬわけにはいかない!答えろ!俺がお前に何をした!?
遠退く意識と同時に深い脱力感が宏樹を襲う。そのまま首を絞められたままなら後10秒持たずに意識は飛び絶命するだろうと予測出来る。
が、生きようとする強い心が迫り来る死の恐怖に抗う。
夢?お前の夢とは何だ?
夢と言うキーワードに反応した黒い影が宏樹に問い掛ける。
首を締め付ける力も少し緩んだ様子。
「俺の夢は俺にしか作れないオリジナルのラーメンを作り日本中のラーメン好きをこの街に呼ぶ事だ!」
宏樹の夢を訊いた黒い影は少し思案を巡らせた後、大笑いしながら宏樹の夢を否定する。
だぁ~ハッハッハ…オリジナルラーメン?日本中のラーメン好きをこの街に呼ぶ?ムダムダムダ!こんな不味いラーメンしか作れないお前にか!?
お前は今すぐ死ぬんだよ!!!
売り言葉に買い言葉
不味いラーメンと言う言葉に激しく反応する宏樹。
「この店で作っているラーメンが最高のラーメンだと思ってない!味の研究は欠かせた事はない!現在進行形で新しいラーメンを制作中なんだよ!!お前は難癖付けて俺を殺したいだけだろ!それにラーメンの味なんか解んのかよ!どおなんだ!?このクソ野郎!!」
ほぉ?この俺に喧嘩を売るのか?…面白い!貴様に3回のチャンスをやろう…俺を認めさせるラーメンが出来たら殺さないでやる…然し…3回でダメならお前をコロス!
そう言い残して黒い影が消えたと思ったら首を圧迫していた圧力も消える。
ゲホッ!ゲホッ!
酸素欠乏状態な所に突然新鮮な酸素が流れ込んだのだから、肺がビックリしてひっくり返った感覚を覚えるのは仕方がない。
少しして落ち着きを取り戻した宏樹は先程の事を思い起こし、考える。
「あれは疲れから来る幻覚だったのかそれともリアルで起きた現象だったのか・・・本当にゆ・・・いや、それはあるまいよ・・・」
宏樹は生まれてこの方、心霊スポットはおろかこっくりさん等もやったことがないどちらかと言うと幽霊なんて居ないと信じる超現実主義者の宏樹には理解出来ない現象であった。
「かなり疲労が溜まっているのだろうな」
先程の現象は疲れから来る悪夢だと自己完結したのだが…
ヒッ!
気分を変えようと一度トイレに立ち、手を洗った時、鏡に映る自分を何気に見ると首元に残る手形の痣。
それを認識してしまった宏樹は腰を抜かしてしまう。
「あれはリアルの出来事だったのか…だとすると…」
この日を境に自らの生を掛けた命懸けのラーメン制作が始まったのであった。




