第206話 ロック
ハァ!?
発動する筈の力が消え失せた。
破壊の力の塊であるその力を相殺出来るのは創世の力のみであり、その力を行使出来る達人は自らの手で消し去ったのに何故…
然も、能力封印のオマケ付きで…
事此処に至り、事態の異常さに気付いたのだが何がどうなっているのかが解らない。
幸いと言っては何だが、能力は封印されてはいるものの、力までは封印されていない様子。
意識を体内に向けて原因を探り解除を試みるも二重どころか五重もの封印が施されていて、どれも複雑な封印式となっていることに愕然する。
イタチの最後っ屁ってヤツか…最後の最後でやってくれる…
念の為に達人の反応を探ってみたが、間違いなく無い。
と言うことは間違いなく消滅したことを示している。
現魔王なのか?
現魔王と言うのは真智子のことだ。
苦労に苦労を重ね、90%の空を倒すことに成功した真智子はその実績を引っ提げて魔王の称号を掛けてレイに挑戦しようとしたのだが「俺より強いんじゃね?」との1言でアッサリと魔王の座を明け渡した。
と言った経緯があり、現魔王は真智子となっているのだ。
「必要ではないとは言わないけど、今の俺には邪魔で仕方がないからな。それに俺よりしっかり者だから適任だろうよ」
とはレイの弁。
因みにサポートはローラが担っているので何があっても大丈夫だろう。
然し、その真智子は魔界から動いては居ない。
どうなっている…
混乱しつつも封印解除に集中する壊。
然し、解除には時間を要するみたいだ。
あと少し…
残る封印式はあと1つになった時
タイム・リバース
ミニマム
空間内に有り得ない声が響き渡ったかと思ったら壊の周囲1mの範囲で時間が逆行して折角解きかけた封印式が元に戻ってしまう。
然も、より複雑な封印式となっていたから質が悪い
な…
何で…
何でこんなに増えてんだよ…
テメェは消滅した筈だ!
達人!!!
そう、消滅した筈の達人の反応が其処此処に存在しているではないか。
「あんなんでこの俺が消滅するわきゃねぇ〜だろ!」
光と闇の人形が混ざり合って1つの人物を形成していく。
まさか…ア…
光と闇…正確には創造の力と破壊の力。
決して混ざり合うことのない力を融合させたことが達人の正体に気付かせてしまったようだが、その名を言える状態では無くなった。
達人が襲い掛かって来たからだ。
ウオッ!
息もつかせぬ程の激しい攻撃に防戦一方になる壊。
一対一なら大したことは無いが、三面六臂の阿修羅の姿になっていて、連続攻撃を加えて来たのだからたまったものではない。
………
……
「いつの間にあんな…」
魔王城謁見の間にて
達人の中にいるローラの分身体から送られて来る映像を映し出したスクリーンを観ていた真智子の口からそんな言葉が漏れ出ると「理不尽大王め…」と悪態を吐きながらも空が話し出す。
「アイツの本質は鏡なんだよ
だから無意識に相手に併せてしまう。
本質を知らなければ悪い癖だと見えてしまうだろうな。楓夏や水面の様にな」
言われて納得出来る部分と納得出来ない部分で混乱する真智子であったが、更に空の話は続く。
曰く
空がそのことに気が付いたのは70%で対戦したときの事で、やり辛さと自分と戦っている様な錯覚さえ覚えてしまったとのことで90%の時、遂に白旗を掲げてしまったとのことだ。
「ヤられたからやり返すと言った感覚なのだろうが、ヤったことを倍返し的な返し方をされたらたまったものではない」
それで魔王の座を明け渡したのだと言っていた。
このことに気付いていたからこそ真智子が空に勝利したと知ってこれ幸いと言わんばかりにアッサリと魔王の座を明け渡したようだ。
「まぁ、ヤツからしたら一番信頼出来るお主が魔王なら安心出来ると思ったんだろうよ」
そんなことはどうでも良い話だがなと笑う空に呆れるしかなかった。
「ほぉ?何時の間に…」
空と真智子がそんなことを話していた頃、達人と壊の戦いは新たな局面を迎えようとしていた。
………
……
有り得ない!?!?!?
防御すること以外に何も考えられない程の激しい攻撃に防戦一方の壊は眼の前の光景が一瞬で変わってしまったことにパニックに陥ってしまったところに阿修羅達人の3本の右側の拳が連続で壊の顔面を捉え、追討ちの左の中段蹴りが炸裂する。
ゲハッ!!
途轍もなく重い一撃に耐え切れず吹っ飛び、吹っ飛んだ先の大きな岩に身体を叩きつけられた壊は直ぐにダメージを回復しつつも周囲を確認する。
岩と砂だけの赤茶けた大地に灰色の空。
明らかに自らの専用空間とは違う空間。
状況的には火星と似ているとは感じられるが、微妙に違う。
何処だ…此処…
記憶にある景色と照合させてみてたものの、何処にも当てはまらない。
あまりの出来事に混乱し、思わず叫ぶ。
「貴様…何をしやがった!?」
然し、その叫びに反応することはなく妖気弾を発射する達人に舌打ちが止まらない壊であったが、達人が何も語らない以上はやることは解る。
全力を持って達人を倒してこの場から脱出する!
そこから2人の間に会話らしい会話は無く、技と技がぶつかり合う音そして互いの術がぶつかり炸裂する音のみが周囲に響き渡るのみであった。
ハァ…ハァ…ハァ…
どれだけの時間が経過したのだろう…
既に舞台になった場所は原型を留めておらず、足場を確保するのもままならない状態だ。
双方ズタボロになりながらも死力を振り絞り激突する2人の戦いは何時終わるとも知れない。
コイツは…何なんだよ…
ここに来て達人の異常さに気付く壊。
それはそうだろう。
双方ともやることが全て同じ
まるで鏡に映る自分と戦っている様な感覚…
僅かに面倒くささも感じたのだが、達人さえ倒してしまえば全てが思い通りになると言った感情に支配されている壊はなりふり構わず達人に突っ込んで行く。
………
……
「トドメは刺さなくて良いのか?」
魔王城謁見の間で2人の戦いを観戦していた空が相手も確認せずに問い掛ける。
「アイツを消滅させても、また半身を送り込んで来るだろうな。
分身体と違い、半身を消せば本体のパワーが戻る
だから気が付く。
どうしてもこの世界を消滅させたいラグナは世界を消す為にまた半身を飛ばす。
そうしたら永久ループの始まりだ
だからこの方法しかねぇんだよ」
破壊の神ラグナ
創世神フローラ
時の神クロノス
最高神セシウス
そして…
この5柱の人物は不死の存在故に滅ぼすことは不可能。
「然し、カラクリさえ見破れば出て来る可能性もあるだろうよ」
何をやらかしたのか理解しているかの様な口振りで追求する空の横に並んで返答したのはレイであった。
「だからあの世界を永遠に隔離するのさ
その為のレプリカ太陽系なんだぜ!?」
「ヤツがそれに気が付く可能性は?」
「気が付いたとしても出て来ることは不可能だよ
あそこは特異空間になっているからさ」
「不可能なんてものは無い!」
「例えあの太陽系を壊したとしても一瞬で再生するし、出口と入口は繋がっている」
「・・・無限ループと言うことか」
「あぁ…例えカラクリに気付いたところで半身では破壊出来ない。それに眼の前に俺が居る限り戦うことは止めねぇだろうよ」
「まるで眼の前に餌をぶら下げられて走らされる馬みたいだな」
「その例えが合っているかも…
この手でぶっ殺せなかったのが心残りだがよ…
まぁ、終身刑ってヤツだ」
「刑期は無限か
然し、本体が動くかも知れないぞ」
「セシウスが睨みを効かせているから何も出来ないさ…ラグナの目的はセシウスに伝えて有るし、バレているのも知っている筈。それを解っていながら敵対するのなら全神を敵に回す事と同義語だからね。
幾らラグナが不死の存在で圧倒的な強者だと言っても全神相手では勝ち目はないよ」
「ヤッパリお前は…」
「おっと…
俺が何者なんてのはどうでも良いことだよ
所詮、半身にすぎないんだからよ」
「・・・そうか」
「扱いも今まで通りで良いし、遠慮も要らねぇよ」
「今後とも宜しく頼むよ
坊っちゃん」
「その呼び名は何とかならないかな」
「俺の中では永遠の達人坊っちゃんだよ
それ以上でもそれ以下でもない」
レイとの会話で自分の推理が正しかったことを知った空はレイが敵でないことに安堵した
「まっ…いっか…
と言うことで…
あばよ!」
あばよと言い終えた直後、胸の前に出現したキューブが高速で回転したかと思ったら弾けて消え、それを確認したレイが叫ぶ
ロック!!
レプリカ太陽系の外側を包み込む様に巨大で分厚い壁が出現し、覆い隠していく。
「終わったの?」
意味が解らないと言った表情で真智子が問い掛けると、笑顔で終わったよと返答するレイに安堵する。




