第200話 フン詰まりは身体に毒です
黄泉の構造として、表に出ているモヤ(掃除機に例えるとノズル)の正体は食欲で、タンクに当たる部分を構成しているのが他の欲になるのだが、タンクに集められた魂は他の欲によって限界まで欲を高められた後で強欲に回収され、エネルギーとして吸収され、その時に有用な能力が有れば当然搾取している。
強欲はそれを繰り返すことで自らの力を高めている。
皆既月食毎に出ない理由は、単に空腹にならないからだ。
人間が空腹になると食事をすると一緒だと考えていたら良いと思う。
今までは欲が強い人間を苗床にしていたせいで貯めれる容量も大したことはなかったし、苗床に特殊な能力があったわけではないから出現時間も少なかったし規模も期待した程にはならなかった。
今回は玉斉を利用したことで今までよりは大きいものを作れると思っていたのだが、退治されてしまったことにより壊を使うことを考えた。
実のところ、破壊の力さえ手に入れられたら壊は用済みであり手駒同様な扱いする予定だった。
然し、この破壊の力は育てるのに非常に厄介な代物であったのだ。
破壊の力は壊の精神状態に左右されて大きくなったり小さくなったりする不安定なものであったがためにコントロールさせる事から始めた。
その為に達人に対して劣等感を持たせ負の感情を募らせ、更に壊を避ける様な態度をとっていた源次郎に殺意を持たせることにした。
同時に色欲を使い、源次郎の秘書と結婚させ幸福感を持たせることも計画。
秘書との結婚は単に最悪のタイミングで裏切りをさせて秘書を殺させることで結婚生活なんてものは所詮は虚構なもなのだと思わせる為だ。
結果として計画は大成功し、壊は破壊の力をコントロール出来る様になったが、同時に人としては壊れてしまった様だった。
それが何よりの証明として壊は死ぬまでに気に食わない者達を殺しては死体を妖怪の餌として提供するようになっていたが、罪悪感等は一切感じている様子は無かったと言う。
破壊の力をコントロール出来る様になった時に隙をみて5欲の欠片を植え付けることに成功。植え付けられた欠片は魂の奥深く入り込み気付かれる事はなく、更に5欲の欠片を通じて少しづつ破壊の力を奪うことにした。
黄泉としての力を発動させなかったのは、単に破壊の力を奪う為の媒体程度としか考えていなかったからであり、計画通りに行けば壊を使うことは無かった。然し、レイ達の追い込み方が思いの外キツかったので壊を使ったと言うのが現状だ。
問題はレイ側に着いた妖怪の対処だが、眷属を召喚させたら自動的にそちらに目が行く筈。
然し…
「な…何で悪魔が…まぁ良い…どおせ消滅してしまうのだからなぁ」
思った通りにヒーロー達は眷属掃討に追われることになり、レイの援護は無理だろうし魔界側の動きはないので状況は此方が有利だと思っていたのだが、無関係だと思っていた悪魔軍が乱入してきたので激しく狼狽するも、眷属は捨て駒的な立ち位置なので無視することにした。
………
……
「なんだよその無様な姿はよぉ」
上空10000mの空にヤツは居た。
正確に言うと、存在させられてたいた言った方が良いか。
人間だった頃の姿は既に原型を留めておらず、そして壊としての意識も殆ど残ってはいないみたいで食欲を全開でノズルから吸い上げた魂を腹へと詰め込んでいる。
く…苦しい…食いたくない…しかし止められない…
既にタンクはオーバーフローしそうな程にパンパンの様子だが、暴走状態では止めれるものも止められない。
本来なら、欲を高められた魂から順番に強欲へ送られる筈なのだが、何故か送られて行かない。
送られる直前になると壁にベッタリと張り付いて蓄積されて行き、5欲の動きを鈍らせていく。
その様子は便秘のメカニズムによく似ている。
最初から一気に食ったおかげで効果覿面で、速攻で便秘状態になったのだ。
苦しむヤツをニヤニヤしながらも観察して出した結果は、この場に居るのは単なる抜け殻だと言うこと。
「自滅するのを待っても良いけど…鬱陶しいから消えろ!」
パチン!
レイの指から放たれた音が合図となり、蓄積されていた魂の波動が陰の気から陽の気に変化して5欲の力を相殺していく。負の力と陰の気で構成されている黄泉は強烈な陽の気に対応しきれずに消えて行く。
消滅の間際、最後の力を振り絞った抜け殻が何か言おうとしたらしいがたった一文字言った時点で消滅したのであった。
出て来い!このド悪党!
小細工無しの決戦と行こうじゃねえか!
地球全体に響くかと思うような大音声が大気と大地を揺らす。




