第194話 レイのデビューは実現するのか?
12月初旬
世間は師走モードに入りクリスマスや年末に向けての忙しさに飲み込まれて行く中、株式会社オタクの方もクリスマスイベントの準備に追われていた。
幽霊屋敷の営業はハロウィンの仮装イベントを最後に来年の6月に再開すると予告して本年の営業を終えていたが、建物を遊ばせている訳にはいかないとの理由で改装終了次第イベントホールとして貸し出すと瞬く間にスケジュールが埋まると云う結果になり、準備に追われる事となる。
そんな中、株式会社オタク本社会議室ではクリスマスイベントの件で話し合いが続いていた。
イベントは【聖夜の馬鹿騒ぎ】と言う題目で緑地公園に設置する特設ステージでライブを行う予定だ。
内容はソロ活動をしている女性有名歌手をトリにして、地元で有名なバンド1組と前座枠で予定されているバンド1組でライブをすると言った内容なのだが、そこに出演料は要らないからと女性アイドルグループと全国区で活躍するバンドが飛び入りで参加したいと申し出て来たから「親分!てぇへんだ!」状態になっているのである。
まぁ、そちらの方は運営に任せるとしても見逃せないのは前座枠に書かれている「ウルトラモンスター」のバンド名だ。
このウルトラモンスターと言うバンドは雨音周辺で活動していないと言うか全国区で探してもそんなバンドは存在していない。
寝夢の世界で演奏した際、全国区で活躍するバンドのリーダーがバンド名を訊ねて来た時に苦し紛れにレッドがそう返答してしまったのだが、それだけでコヨミ達にも語っていない。
では、誰かが仕組んだことになるのだが…
「こんな事をするのはあの野郎しか居ねぇよ」
あの時、人知れず状況を監視して全てを知ることが出来た人物と言えば超極丸しかいない。
それがレイとレッドの見解だったのだが
「違いますよ。全ては空様の指示です
空様はあの時の出来事を全て知っていました。
そして、クリスマスのイベントの事を知った折りに思い付いたのです」
話を訊いていたのだろう唐突に現れ、いけしゃあしゃあと言いのける超極丸こと大嶽に対して(出た出た)と思いながらも「ヘイヘイそうですか」状態のレッドに対して完全に玩具扱いされているよなぁと思ったレイ。
そんなレイの思いに気が付いたのか
「コレも全ては今後の為ですよ」
と真顔で言い放った後で更に
「デビューの道もシッカリと用意しておりますので、ご心配なく」
と、イヤミを言いながらも演奏する曲だとレッドに譜面を渡した後、消えてしまう。
生前からそうだったけど、あの2人は俺を弄り倒すのに命賭けているいるかと思えないところがあるんだよなぁ…今後なんてあるかどおか解らないのによ!
今までの事を思い返したのか、レイがボソリ呟くとマジでソレなと呟き返すレッドは
「前座とは言え、命令されるのは気分悪いなぁ」
と、レイに同意を求める様に呟くと以下のような会話になる。
「まぁ、今後が在るようにするつもりではいるけどよ、こればっかりはやってみないと解らないからな。それよか、空も超極丸も俺の性格を利用して態と仕向けている様にしか思えないからムカつくんだよなぁ…巻き込んでしまって悪かったな」
「それは良いよ。てか、相談役に整備士にバンドって、お前って本当にマルチなのな?」
「マルチ言うな!
必要に駆られてやっているだけだっての」
「謙遜は良いから…
必要に駆られたからとは言え、やれてしまうのは凄いよホント」
「妖怪の主たる者はマルチでならねばならないってのが魔王の習わしなんだとよ」
「ってことは?」(それ、後付の言い訳じゃないのか?訊いたことねぇぞ)
「コレからもっと色んなことを押し付けられるだろうよ」(めんどくせぇったらありゃしねぇ)
「まぁ……サポートは任せておけ」(御愁傷様です)
「宜しくな
さて、練習を始めようか」(空のヤツ、マジで気付いているんじゃねぇだろうな?てか、全ては…)
滅多に訊く事がないレイの愚痴を訊けて珍しいなと思いつつも愚痴を溢す=頼られていると受け止めたレッドは少しだが嬉しく思っていた。
だが、それとこれとは別の話だし、プログラムに組み込まれてしまっている以上は辞退するのは愚の骨頂と言うもの。
クリスマスは皆既月食ってか?因果なもんだなぁ…
理由も解らず突然殺されたあの時とは全てに於いて違う。
ボーカルにコヨミを加え、パワーアップしたウルトラモンスターは確信に近い予感を抱え、気合も新たに練習を始めるのであった。
………
……
応答がないな…
まさかとは思うが…
胴塚地下深くに広がる空間で眠りに着いていた妖怪は唐突に影分身とのリンクが切れてしまったことに困惑していた所に傍らで座禅をして瞑想していた幽霊が
補給路が絶たれたぞ?
どおする?
と報告して来た事に全てを察したのか
空のヤツ…
と独り言を呟いたきり暫く黙り込んでしまい…
やがて…
次の皆既月食は何時だ?
と幽霊に問い掛けると、少しの間が空いた後で何日後だと返答する。
・・・そうか・・・ギリギリ間に合いそうだ。
スペアを用意しておいて助かった。
そう呟くと幾つかの欠片を投げ上げると途端にスッと消えてしまう。




