第183話 パーティーパーティー
血も涙も無い歳だけとった短気なババア
それがレイ一行が出した寝夢に対しての評価
一方
我が儘の権化の様な歳だけとったクソガキ
恐らくは長きに渡って10歳の子供を演じて我が儘を通し放題やってきたおかげで染み付いてしまったのだろう。
とは天音とゆう子の評価。
一見違う評価に見えるが、本能に対しては恐ろしい程に忠実だと言う見解は一致している。
それは、眷属の扱いを見ていれば解るだろう。
だとすると、一行がとる方法は寝夢の居城に乗り込む事ではなく
煽り倒し挑発すること。
そうする事で寝夢の怒りを誘導して眼の前に引き摺り出して懲らしめる。
言葉で書けば簡単な様に見えるが、これを実際にやるとなると一筋縄ではいかない。
怒りのツボは解るがソレが行動に繋がる事はないのは明白なのだ。
押して駄目なら引いてみろ
とか言ったか?
これもよくあるパターンなのかは解らないけど、悪口雑言を言い放題に言うのも限度があるから敢えて逆のことをやってみた。
「うっめぇ〜〜〜〜〜〜〜♡」
俺達の眼の前に広がるのはバーベキューのセットその上で焼かれるA5ランクの和牛ステーキと焼き野菜。別のバーベキューセットではレイがやきそばを作っていて、それを囲む一行の手には各々が好きな酒が入ったグラスが握られている。
そう、寝夢の世界でバーベキューパーティーを始めたのだ。
「食べてばかりじゃあ面白くないでしょう?」
何時の間にか用意されていたステージの上でコヨミがカラオケを始めたかと思ったら、歌に合わせて天音とゆう子がダンスしだすと触発された様にピンクとイエローが乱入してカラオケに華を添える。
見事な歌とダンスに魅了された男性陣から野太い歓声が上がり周囲は大いに盛り上がって行く。
コヨミのステージが終わるとお返しと言わんばかりに男性陣のステージに切り替わり演奏すると、今度は女性陣からの黄色い歓声が周囲に響き渡る。
因みに構成は
ドラム レッド
ギター兼ボーカル ブルー
ベース ブラック
キーボード レイ
である。
い…何時の間にこんなにギャラリーが増えたんだ?
気が付くと一行だけではなく何人もの人間が男性陣のステージで盛り上がっているではないか。
これは、大量の餌を食べて満足したバクがほんのお礼代わりに人間の夢とこの空間を繋げて招待した結果だと言うことだ。
そのギャラリーの中に全国区で活躍するバンドのメンバーが居た事により、更に盛り上がる事になって行ったのであった。
何なのこの楽しそうなエネルギーは…不愉快よ…
人間が発する恐怖とか云った負の感情から来るエネルギーを主に糧としてきた寝夢には今までにない程のエネルギーに戸惑っていたのだが、負の感情とは真逆の味にどぉして良いか解らなくなってしまっていた。
恐怖とか云った感情を陰のエネルギーとするならば楽しいとか云った感情は陽のエネルギーとなる。
何方も夢から発生するエネルギーに違いないがとある人物からは負のエネルギーを御所望されているとあってこの陽のエネルギーは邪魔以外の何物でもない。
然し…
美味しい…
負のエネルギーもそれなりに美味しく頂けるが陽のエネルギーは比べ物にならない程に美味しく頂けるとあって、無意識の内に身体がパーティー会場へ動きそうになっては躊躇う。
その行動を何度か繰り返した後…
あ〜っもう!
何で悪夢を見せる事が出来ないの!?
今までにないホラーな悪夢を見せてやろうと思念波を飛ばしたのだが、残念なことに思念波は陽のエネルギーに掻き消されしまい徒労に終わっている。
思いのままに行かない現実にブチギレそうになったのだけど悲しいかな眷属は既に全滅していて孤立無援状態ではどおしようもない。
寝夢の眷属は寝夢の思念で生み出す事が可能なのだが、エネルギーが不足している現状ではロクな眷属を生み出す事が出来ない。
悪夢を見せて負のエネルギーを搾取するには負のエネルギーを纏った眷属を誕生させる必要があるのだが、その負のエネルギーが不足している。
陽のエネルギーを使用した状態では陽気な眷属が誕生するのみであり、そうなると目的は達成する事が出来ない。
おぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ…
ハイッ!
ハイッ!
ハイッ!
おぉぉぉぉ…!
そうこうしている間にパーティー会場は有名ロックバンドが演奏を始めたかと思ったら俄ダンサーズが結成され、曲に合わせてヲタ芸を披露すると会場内の盛り上がりはクライマックスを迎えていた。
あぁ〜〜っもうっ!!!
パーティー会場に参加している人間を恐怖に陥れたい気持ちとパーティーに参加して楽しみたい気持ちがせめぎ合い苦悩を始め、頭を抱えて絶叫する。
寝夢からしたら初めての感情なのだろう。
その感情に戸惑い苦悩し絶叫が止まらない。
プツン…
寝夢の中で何かが切れたかと思ったら心の中の何かが弾け飛ぶ。途端に寝夢を残して全ての景色がブラックアウトしたのであった。
もう、二度と関わらない…
陽のエネルギー嫌い…
美味しいけど…
要らない…
何もない空間で膝を抱えて体育座りで蹲る寝夢の姿は10歳の少女のそれではなく老婆のそれであった。
「おや?目覚めたと言う事は終わったのですか?」
一行の様子を見守っていた大嶽が話しかけて来るが何が起きたのか解っていない一行の頭の中には?マークが踊る。
「それでは僕が何があったのか説明しましょう」
寝夢の世界で起きた出来事を何も覚えていないレイ一行に対して唯一覚えていたローラが何があったかを説明する。
「で?寝夢はどおなったんだ?」
全てを聞き終えても肝心の寝夢がどおなったかを語らないローラに対して当然の質問をブツケたのだがその答えは帰って来ることはなかった。
どおなったかはローラでさえ知らないので答えようがないというのが本当のところ。
寝夢は自らの世界を自らの手で閉じてしまったが為にその存在自体も消えかかっているのだそう。
この事はバクと繋がった天音がバクに直接訊いたものなので間違いないだろう。
「自らの世界で人間達が楽しんだ結果、陽のエネルギーが生まれた事が受け入れられなかった結果じゃないかな…まぁ、俺としては些か消化不良だがな」
せめて核だけは確保して断罪したかったと少しだけ悔しそうな表情でブルーが呟くとそう云うことにしておこうと皆もそれで納得せざるおえなかったのであった。