第181話 ご招待
「じゃあ、フロントデザインはこんな感じでOK?」
社員の意見を取り入れた絵をスケッチブックにイメージ画を描き上げて皆に見せると感嘆の声が上がる。
流石は元漫画家だけあって絵のレベルはカナリ高く尊敬の眼差しで見られるのは当然だろう。
その後、両サイドとバックのデザインを話し合ってコヨミがスケッチブックに絵を描き、その絵を社員の一人がパソコンでイメージ画を仕上げて行く。
「おぉ…」
出来上がったイメージ画を見た全員が驚きの声を上げる。
アニメは所謂バトル系の冒険ものなのだが、主人公が天然が入っているせいかギャグアニメと誤解される事もあるのだが、シリアスパートとギャグパートのメリハリがシッカリしていて、更にアクションの派手さが人気を呼んでいて、何にしてもキャラクターがカワイイそしてカッコいいのだ。
痛車に仕上げる為のデザインは萌え要素の中にかっこ良さそして何処となくカワユさも兼ね備えたデザインとなっており、一見するとアートとも呼べる様な仕上がりとなっているとあれば製作側も盛り上がらない筈がない。
社員とコヨミが盛り上がっている中、俺は車の状態をチェックしていたのだが…
「だぁ〜めだコリャぁ…」
と、匙を投げたように
「足回りもエンジンも終わってる…余程ブン回して無茶乗りしていたのだろうな…コリャぁ…まあ、フレームが逝ってないのがせめてもの救いか…悪いが整備の方を優先させて貰うしかないな…幸い部品は有る様だから直ぐに取り掛かるとするか」
ブツブツ言いながらも表情は職人のそれになっていたのであった。
………
……
痛車が完成した翌日に会社がオープンし、物珍しさも手伝って初日から多くのお客で賑わっていたのだが中でも一際賑わっていたのが痛車を展示していた一角であった。
完成度の高い痛車に感嘆し、写真を撮っていたお客という名のオタク達であったが、「非売品」の表示が逆にオタクのコレクター魂を掻き立てた様でその中の一人が
「いくらなら売って貰えるんだ?」
と、言ったものだから100万ならとの一言から始まり200・300と値段が釣り上げられ行きその一角はオークション会場さながらの雰囲気を醸し出して行く。
だが、この車は飽くまでも展示オンリー
「こんな車の製作も出来ますよ」
と、客引きパンダ用に製作された痛車で販売する予定はない。
の…筈なのだが…
どおやらこの痛車に一目惚れした者達が勝手に金額を提示しあい、即席のオークション会場へと化したのであるが売り物ではないので、いくら何百万積まれても手元には来ることはない。
それでも諦め切れないお客達は直談判をする事に
「あの痛車を拙者たちの誰かに売ってください
お願い致します!!」
と、デザインを担当したコヨミに対して全員で土下座して懇願して来たので困惑の表情を浮かべ返答に困っていると
「痛車の製作なら受け付けるけど、あの車はダメだよ」
レイがダメ出しをして来たのだが変にコレクター魂に火が点いた者達には聞く耳を持ってくれなかった様だ。
「何で売ってくれないんだよ!?
理由を述べよ3分間!」
と、詰めよって来る始末。
「しゃーねぇーなぁー…あの車はなぁ
中身が別人28号なんだよ
解りやすく言えばプロレーサー仕様なんだよ
つまりは乗り手を選ぶ車なんだよ」
売り物にはしない=好きに弄って良いと判断してしまったレイは修理したのではなく中身をレースカー仕様に作り変えてしまったのだ。
然も、フルチューンのおまけ付きと来たら乗り手を選ぶ車と言っても過言ではない。
非売品は非売品!売る気はないと遠回しに言ったつもりなのだが、どおやらこのお客は引くこと言う言葉を知らなかった様だ。
「一目惚れなんです
お願い致します」
と、尚も詰め寄るお客の様子が何か変だ。
お願い致します…
お願い致します…
お…ね…お…ね…お…ね…
何で売ってくれないんだよぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!
執着するあまり顔も体もグズグズに崩れゾンビ化したお客が車を売れと札束をレイに投げつけ痛車に群がり奪おうとする。
「ヤッパリな…」
「上手いとは思うけど…下品でしかないわ…」
「てかよ…ゾンビか悪霊か殺人鬼かそんなもんしかねえのかよって感じなんだけど?」
「それは仕方がないじゃない?」
そんなゾンビの様子を眺めながらコヨミと会話をしていたのだが、これはこれで面白くはない。
そこにコヨミの中から現れたアンコが
「この状況から脱出するも乗り込むのも自由です
如何致しますか?」
提案して来たので乗り込むと返事をする。
元々夢を司る悪魔の一族の一人であったイザベラは飼い主とその夫の為にその力を存分に発揮して寝夢の力を逆に利用して2人を夢の世界へと送り込んだのだ。
「これ以上被害を拡げない為にも乗り込むに決まってんじゃない」
苛ついた表情で言い放つコヨミの態度に思わず身体が強張り冷や汗をかくアンコに気付いたレイがアンコの頭を撫でて全ての怒りはあいつ等に向いているから大丈夫だよと言うと尚も暴れるゾンビの人数分の分身体を作り出したかと思ったら次の瞬間、その分身体が持っていた悪夢退散の御札が付いたハリセンでゾンビの後頭部めがけて振り抜くと小気味良い音が周囲に響き渡ったかと思ったらゾンビの頭がもげ落ち転がる。頭が無くなったゾンビは慌てて頭を拾おうとしたのだが、自分の頭を他のゾンビに取られたりしてカオスな空間と化してしまう。
「いやぁ〜…
何時聞いても良い音ですなぁ…」
「てか、どこのホラーコメディだよコレ…」
そう言ったのはゾンビの暴走を遠巻きして見ていた社員AとBだ。
エッ・・・?
何で社員がそんな事を言えるの?
意味が解らなくて困惑するレイとコヨミ。
此処はレイとコヨミの夢であって2人以外の登場人物は全て寝夢が作り出したものである筈
従って、ハリセンが奏でた音に反応出来るはずがない。
にも関わらず反応したと言う事は社員A〜E5人は寝夢が作り出した登場人物ではないと言えよう。
では、この社員5人は一体誰だと言うのだ?
更に困惑を深める2人にBが
「こんな面白そうなイベントに俺達を参加させないってのは冷たいどころか氷点下だぞ」
と言ったところで気が付いた。
こいつ等ヒーロー達か?然し、幾らヒーロー達と言えど夢の世界へは出入り出来ない筈。
いったいどおやって?
そう考えながらアンコを見たが首を傾げるばかりで解らない様子。
「リリス様に掛け合って夢幻鏡を貸して貰った後で幻獣王に使用許可を貰ったりして大変だったのよ」
「だって夢の世界へ行く手立てはないって言っていたじゃねぇかよ」
「夢幻鏡の事は筆頭を始め前魔王すら知らない事だから当たり前よ」
「知らないって…」
「悪用されるとトンでもない事になるからね
極秘中の極秘なのよ。然し、あのババアは本気で人間界へ手を出した。それが誰かからの命令であっても許される事ではないの」
「ババアって…」
「齢3000歳を超える大妖怪よ!?
ババアで良いわよ」
Bをフォローするかの様にCが種明かしをする。
夢の世界へ出入り出来る唯一のアイテム夢幻鏡。
この夢幻鏡と言うアイテムは、使用者と使用者が任意に許可した仲間が夢の世界へと行ける様になるアイテムなのだが、当然ながら代償を払わないとならない危険なアイテムなのだ。
然も、今回はレイとコヨミの夢の中とあれば行かない訳がない。
その時
誰がババアだって?
寝夢ちゃんは永遠10歳よ!?
空間内に子供の声が響いたかと思ったら周囲の景色がガラリと変わる。
そう、寝夢の世界に招待されたのだ。