第17話 行きたくても行けない場所
この前の壁抜けと良い、今回のアンテナ飛ばしと良い、カードゲームと良い、どおやらコヨミは霊気を操る術をレイに覚えさせたいみたいね。
何故そう言えるかと言うと、壁抜けとアンテナ飛ばしは基本的に霊気を操れて初めて出来る技で、そしてあのカードゲームは特別製のカードを使用しているから霊気を操る訓練にもなるし戦術の勉強にも持ってこいなのだ。
じゃあ、そちらの方はコヨミに任せて体術系、つまり、腕っぷしの方を強化をする方向に考えたら良いかな?
全てはあのクソッタレ妖怪 魂喰 を倒す為に必要な事。
まぁ、レイからしたら当面の標的は黄泉らしいからどれだけ強くなっても足りないと思うし、嬉々として修行をしてくれるから余計な気を使わずに助かってはいるよ?
ただ、私が何れだけの時間、こうして出ていられるか解らないから呑気にやっている場合じゃないのよね。
何を覚えさせようかな?格闘技?剣術や槍術なんかも面白いかもね。
でも、あの魂喰が相手だと突きでも蹴りでも接触した箇所からエネルギーを奪って行くから剣術と槍術が現実的かな?
そんな事を考えていたら要石に到着したので私とレイの意識を半分に割った分身体を強制的に作り出し、更に霊気で作った木刀もどきを使いレイに剣術を教える事にした。
「こんな事まで出来るなんて…」
「フッフッフ…さぁ、何処からでもかかって来なさい!」
「そんじゃぁ、遠慮なく…!」
30分後
「ホラホラどおしたどおした!?全く掠りもしないじゃん?」
「クッ…!たかが剣術と侮ったぜ…」
「勢いに任せて振り回すだけじゃぁ、ダ・メ・よ❤️猪さん❤️」
「るせ!こちとらド素人だっての!当たらなくて当たり前だっての!」
初心者なら仕方がないけど、勢いに任せて木刀もどきを振り回して突っ込んでくるだけじゃぁ当たらないって解らないのかしら?おかけで思いっきり弄くり回せたけど、コレは基本から教えた方が良いかな?
まぁ、動きを見たかっただけだから弄るのはこれ位にして、基本動作から徹底的に叩き込むとしましょう。
11時間後
「ゴメン!少し遅くなった」
約束の時間より1時間遅れてやって来たコヨミのピンクのミニスカスーツ姿に驚きながらも少しじゃねぇよと悪態を吐いた俺に着ていく服を選んでいたらいつの間にかとかベタな言い訳をし出した。
「迷ってその服かい!お前なぁ…デートじゃないんだからもっと普通の服を着て来いよ!」
「だって…」(あたしにとってはデートと変わらないだもん)
俺に突っ込まれて拗ねた様な表情がめっちゃかわいいんですが?それに服装のせいか、かわいさとエロさが同居したかの様なお色気500%アップした様な姿に道行く男共が振り向く振り向く。
よく見たら気合いの入ったメイクしているみたいだな?これからデートに行く訳じゃないのによ?いったい全体何を考えているんだ?この腐女子は!?
フと真智子を見るとコイツマジかぁーと云った様な顔をしている。
まぁ、遅刻した分、生者ウォッチング出来たから良かったけどな。それでも俺はスマホ等の通信機を持っている訳ではないので遅刻されると不安で仕方がない。
本当に時間は守って欲しいものだ。
兎に角これで破王社や雨土山の霊園にも行けるから良しとしようかな。
気が付いてから今までの間、自分の事や事件とかで奔走していたのもあって工場地帯には1度も足を向けていないってのが現状。
更に、コヨミも真智子も俺を強くしようとあの手この手で俺に修行させたがるしよ。
強くなる分には上限はないし、当面の目標がハッキリしている為にどれだけ強くなっても足りないってのが現状だから問題は無いけど、気になるのはコヨミと真智子の心構えみたいなものかな?
一言で言うと真智子は姉の様な接し方をしてくるし、コヨミはと言うと恋する女の子と云った態度で接して来る。
真智子の方は同化してしまっている訳だしギブアンドテイクが成り立っていると思っているから良い(妹より、姉の方が俺は接しやすい)けど、問題はコヨミだろう。
当たり前の事だが俺は幽霊だしコヨミは生きてる。幽霊が生きてる者に恋をしたとか云った話は真智子から聞いてはいるが、その逆は聞いたことは無いらしい。
らしいだけで実際には有るのかもしれないけどねとは言っていたけど、コヨミの場合は明らかにそれと解る態度をとって来るのだ。女心なんて俺には解らない代物なのだけど、今回1時間の遅刻をした挙げ句にピンクのミニスカスーツを着てきた事も恋心の現れなのだとか。
てか、和樹であった頃には1度もそう言った事は無かったらしい。
まぁ、色恋沙汰には関わりたくないので無関心を装うのが一番かなと思ったのであった。
そんな事を考えていたらバスが来たのでコヨミに憑いてバスに乗り込む。
平日の昼間とあって乗客は俺達だけ。
次は工業団地入り口。工業団地入り口でございます。お降りの方は…
バスに乗っている間も俺とコヨミは話をしていたのだけど、俺がコヨミの中に入り込んで話をしているので他人に聞かれる心配は無いけど、どおでも良い話で笑わないでくれないかな?誰も居ないから良いようなものの、他人に見られたら変な人にしか見えないぞ?とか考えていたらいつの間にか工業団地入り口まで来たので降りる事にした模様。
と、言うのも、此処からバスは工場地帯の外周をぐるりと廻る様に走り霊園の前を通って駅に戻るのだけど、破王社が在る側までは行かないのだ。
「此処からは少し歩くからね。先ずは破王社から行きましょうか?」
と言うコヨミに是非もないので黙って憑いて行こうと思ったのだが・・・・・・
フギュッ!
何だぁ?唐突過ぎて変な声がでてしまったじゃねぇかよ!?てか、何で此処から先に進めねぇんだ?
突如として見えない壁にぶつかった俺を不思議そうな顔をして何してるの?と質問してくるコヨミ。
「此処から先に進めないんだよ!」
これには流石の真智子も首をかしげるばかりで理由が解らない。
ぶつかった空間に両手を突きだして確認すると見えない壁が存在するらしく幽霊の侵入を阻むかの様に立ち塞がっている。
「壁抜けの要領で此方側に来れない?」
コヨミに言われてそれがあったかと思い早速壁抜けの要領で見えない壁を突破しようとしたのだけど…
ダメだ…
無理やり侵入しようとした俺に襲い掛かるかの様に力を奪い取られてしまい、深い脱力感が俺を包み込む。実際、一瞬で半分程の力を持って行かれた!これ以上は危険だと真智子が警告を発している。
無理に侵入しようとして消滅させられたら元も子もないのでコヨミに無理だと伝える。
「・・・そう言うことなのね・・・」
俺の話を聞いて独りで納得したかの様子のコヨミは俺を目的地へ連れていく事を断念したのか反対側のバス停へと向かう途中、この辺の事情について話してくれた。
「これで霊園に1人の幽霊も居なかった理由が解ったけど、手掛かりが途切れてしまった感が半端ないわ」
と、ボヤくコヨミに後で解決策を見付ければ良いよと宥めたのだが、このまま帰るのは勿体無いと思ったらしく今度は観たい映画が有るから付き合ってと言い出した。
映画?
映画館なんてこの街に存在していたっけ?
等と考えていたのだが、どおやらインターネットカフェの横に存在しているらしい。
まだ俺が行った事なかったから知らなかっただけだろう。
直ぐにでも雨降山に戻りたかったけど、映画と聞いてクルリと後ろを向き「スリープモードに入るから好きにしたら?」と言って来た。
真智子からしたら予定外の出来事だったのだろうし、この後何時間もコヨミに振り回されるのならスリープモードもやむ無しだろうな。
そう思った俺はコヨミに付き合って映画館に行くことにしたのであった。
映画館には1度バスで駅まで戻り、そこから隣街行きのバスに乗り換える必要がある。
バスの乗り換えが大変じゃね?車とか持った方が楽で良いんじゃね?と質問したのだけど、あんな物要らない!とバッサリ切り捨てやがった
orz
これは後から真智子から訊いた話だけど、コヨミの運転はとてつもなく荒いらしく、よく免許取れたなと思える程の腕前らしい。
何はともあれ約1時間程掛けて映画館に到着してチケットを買ったのだけど、トラブルが俺達を見逃さなかったらしい。
「お一人ですか?お姉さん❤️」
平日の昼下がりとあってお客も疎らなのだけど、男を誘う様な姿をしているコヨミをほおって置くわけがない。
早速若い男が気さくに声を掛けて来たよ。
見た目二十歳前半で片耳には大量のピアスを付け、髪の毛は金髪。
ブランド物ってのか?高そうな服を着てキメてはいるけど、軽薄そのものと言うか、軽薄が服着て歩いている様に見えて仕方がない。
明らかにそっちの事しか考えていない様な輩だな。果たしてこの男は映画を観に来たのか女をナンパしに来たのか?こういったやり取りを見せ付けられてもどかしさを覚えるのは幽霊の宿命なのだろう。
こんな事をやりたかったら早く成仏して人生やり直せよって事なのかも知れないね。
「無視しないでよ。何の映画を観るの?映画を見終わったら俺と遊ばない?待ってるからさ!良いだろ?」
軽薄男がコヨミの肩に馴れ馴れしく手を乗せ口説きに掛かる。
こういった輩は慣れているみたいで無視を決め込む事で無言のお断りをするコヨミに執拗に食い下がる男をよく見ると全身からちょっと薄汚れたピンク色のオーラが立ち上っていて、コヨミを浸食するかの如く被いつくそうとしている。
|д゜)チラッ
((( ̄へ ̄井)フンッ!
( -_・)??
一瞬、真智子が男を見た様な気がするけど…気のせいか?
てか、このままではコヨミがこの男にお持ち帰りされる可能性があるのか?
そう考えてしまったらいても立ってもいられなくなった俺の口から本人もビックリの言葉が発せられた。
「おい!テメェ!俺の女に気安く声掛けてんじゃねぇよ!」
俺の声に反応したのか、ピンク色オーラは一瞬にして消え失せ
「ケッ!ドブスがお高く止まってんじゃねぇよ!」
とか、負け犬らしい捨て台詞を吐いて立ち去った。
映画を観る訳でもなく映画館から出ていったところを見たらどおやらナンパ目的の大バカ野郎といったところか?男の後ろ姿に右手の中指をおっ立てて「1000年はぇぇよ!真面目に仕事しろ!」等と言ってやったら深いため息を吐いてコヨミが
「やっつけそこなったわ…」
と呟く。
理由は後で聞くとして、映画が始まる時間になったので館内に入る事にする。
人気の映画とあってお客はそれなりに居たのだけど、コヨミが座った前後列の席はコヨミ1人であったが為にシレッと隣に座って映画を観る事にした。
コヨミと観た映画は人気ジャパニーズホラーの最新作。
迫力の映像と臨場感溢れる音声が観る者の恐怖を煽りまくる。
気が付くと真っ青な顔をしながらも画面を凝視するコヨミは意識してか無意識なのか解らないが俺の手を握るかの様に自らの手を重ねている。
怖いのなら観なきゃ良いのにと思ったのだが、今作で4昨目とあって最初から観ていれば続きも観たいと思うのがファン心理というものなのか?
映画を見終わった帰り道でコヨミに先程の理由を訊いたのだけど
「色魔よ?あの男にとり憑いていたからやっつけようと思ったのだけど、レイに凄まれて逃げた所を見るとどおやら小心者の色魔だった様ね…」
との返事。