第164話 決着その1
「月のくせに重力は地球と同じなのですね
まぁ、試作品で取り敢えずの決戦場って事なのですから仕方がないと言うところですか…」
半壊した月の上で激しい戦いを繰り返す超獄丸とパズル。
「まさか此処まで梃子摺るとは思いませんでしたよ…」
倒せそうで倒せない。
お互いの力が拮抗しているせいか、決め手に欠け悪戯に消耗するだけの戦いを繰り広げていた。
「貴様を超える為に死ぬほど修行したのにまさか此処まで拮抗しているとは思わなかった…ぜ!!」
「おやおや?まさか貴男如きが私を超えるなんて夢物語を唱えるなんて笑い話にもならないですね」
「ぬかせ!
テメェを倒して悪魔ナンバーワンの肩書を手に入れてやる!」
魔力を両拳に纏わせて接近戦を仕掛けるパズルの攻撃を受け流しカウンターを返す超獄丸の背後から飛んでくる蹴りを察知し即座に対応し妖気弾を浴びせ影分身を始末する。
戦っている間に影分身を作り出し相手の死角から攻撃を仕掛けたのだが、超獄丸には通用しない。
それどころか、同じ事をやり返されモロに食らってしまい吹っ飛び岩に背中を強かに打ってしまう。
何かがおかしい…
背中の痛みを我慢しつつパズルは超獄丸に対して違和感を感じていた。
ヤラれた事をやり返される。
まるで自分を相手にしている様な感覚に戸惑いすら感じてしまったのだが…
まさか…な…
パズルの中で嫌な予感が沸き起こる。
その予感を吹っ切る様に超獄丸相手に更に苛烈な攻撃を仕掛ける。
が…
グハッ!
やはりと言うか何というかヤラれた事をやり返され吹っ飛ばされる。
魔似マネか?
最初はドッペルゲンガーかと思ったのだが、それでは超獄丸の戦闘スタイルの筈なのでこの戦い方ではないはずだ。
然し、目の前の超獄丸は姿こそ超獄丸だが戦い方はパズルそのものなのだ。
魔改造した魔似マネなら外見を超獄丸で中身をパズルにする事も可能だろうし、超獄丸ならそんな事は朝飯前の事だろう。
だが、本体と魔似マネをすり替える時間は無かった筈…
もしかして最初から…なのか…?
「貴様…ベルゼバブではないな!?」
確かな確信も無いままその言葉を口にするパズルにベルゼバブではなくて超獄丸ですが何か?と煽る様な口調で返答してくる。
勿論、この煽りに乗ってしまうのは愚策だと解ってはいるが、コケにされたと云った感情に支配されていたパズルはある事を忘れてしまっていた。
超獄丸がそんな話し方をする筈が無いと言う事を…
ふ…ざ…け…る…な…!
目の前に居るのが誰であろうが構うものか!
要は目の前の敵を粉砕してこの空間から脱出するだけだ!
「これならカウンターも出せまい!」
超獄丸を結界に閉じ込め、その中で大爆発を起こす魔法を炸裂させる。
supernova explosion!
恒星の最期に起こる膨大な爆発エネルギーが結界内で暴れ狂うパズル最強最大の魔法だ。
最初は抵抗していた超獄丸であったが、絶え間なく続く爆発エネルギーに抗える筈もなく消滅するが、超獄丸の気配は未だ消えず。
完全にコケにされたと思ったパズルの叫びが隔離空間中に響き渡るが反応無し。
更に、消滅したのにも拘らずこの隔離空間から脱出も出来ない事から先程の超獄丸は偽物だと言う事が証明出来る。
ベルゼバブゥー!
どこだぁ!!
どこにいる!!
真面目に戦え!!
何がどおなっているのかは解らないが、超獄丸が偽物?を使っていたのは明白。
つまりは、この空間に連れて来られた時点でおちょくられていたに過ぎないと解釈したパズルは怒り狂い全方位に魔力弾を連続で発射するが、命中する筈もなく消滅するだけであった。
はぁ…はぁ…クソッ!
最大魔法と今の魔力弾で魔力の殆どを悪戯に使い果たした事を激しく後悔した。如何に神と同等の力を持とうとエネルギーは無尽蔵ではない。
況してや外界との繋がりを断たれているこの空間では回復する術がない。
今、パズルがやっているのは自殺行為に等しいが怒りに囚われていては冷静な判断ができないと言うもの。
「あいも変わらずお馬鹿さんですね…」
パズルの背後の地面から顔だけを出して厭らしい笑みを浮かべ罵倒を開始する超獄丸に気付いたパズルが超獄丸を踏み潰したのだが…
「これ以上は死にますよ!
降伏をお勧めします」
突如として周囲に響き渡る超獄丸の声にヤッパリなと言う気持ち半分してやられた気持ち半分のパズルであったが、降伏の二文字を受け入れる事は無い。
降伏を受け入れるより死を選ぶのが悪魔なのだ。
なので、返事は当然
「降伏して無様を晒すなら死を選ぶ!」
であった。
「ふぅ…ヤレヤレですね
なぁに殺しはしませんよ
この場で大人しくしていて貰いましょう!
悪戯に力を使わなければ死ぬこともないでしょう」
「ナッ……………!!」
それは一瞬の出来事であった。
半壊した月が変化し、巨大な牢獄へと変わり閉じ込められてしまったものだから激しく狼狽するパズル。
「この牢獄は閉じ込めた相手のエネルギーを吸収して維持されます死にたくなければ魔力の維持に専念しなさい。で、魔界へ攻め込んだ事を其処で反省していなさい!まったく貴方は…(あーだこーだ…)」
こうなって初めて姿を表した超獄丸は牢獄越しに説教を始めるが、何を言っても馬の耳に念仏であろう。
「フンッ!
今更お説教なんぞ聞きたくもない!
殺す気がないのならサッサと消えろ!」
こんな決着なんぞ認めないと言わんばかりにそっぽを向き瞑想をして魔力の維持をする事にしたようだ。
「そろそろ出して貰えないでしょうかね?」
明後日の方向を向いて超獄丸が叫ぶと、その姿が忽然と消えてしまう。
どおやら、魔界へと帰還したものと思われる。
「こんな事になるのならドッペルゲンガーにしておけば良かったぜ…
…ギャァァァァァ!!」
此処まで呟いたパズルに牢獄形態の岩が月の形に戻ろうとしたが為にパズルは岩に押し潰され、断末魔の叫び声を挙げて消えてしまったのであった。
………
……
天音VSカルマ
「このステージのコンセプトはねぇ…
災難はお手て繋いでやって来る…だよ」
意味が分からずキョトンとした表情のマルの頭を撫でながら意味深な笑みを浮かべる天音に魔獣が可哀想だよと言うマルに。
「魔界大蛇とか鬼モドキとか隠密サソリとか全て駆除対象の凶悪な害獣だよ?」
と、魔獣の種類を説明する天音にそれなら良いかと妙に納得した表情をする。
「隠密サソリの次は大タランチュラそして鬼モドキかよ!俺は害獣駆除係じゃねぇ〜!!」
襲い来る魔獣を必要最低限の動きで葬り去るカルマ。
然し、一難去ってまた一難
直ぐに他の魔獣が襲い掛かって来る。
倒された魔獣は既に100体を超えているのだが急襲が止む事は無かった。
「回復する間も無いのはキツいですね…
これでは自滅するのは確かです…
どおしたものか…」
どおやって場所を特定しているのかは解らないが、魔獣達は獲物の場所を特定しピンポイントで襲って来るものだから、疲労のピークに達しつつあるカルマは手頃な廃墟に入り込み結界を張り更に内側からもう一つ結界を張り非常食を食べ回復に専念する。
が…
二重に結界を張ったのにも拘らず、廃墟を取り囲む様に魔獣達の気配に気付いたカルマが激しく狼狽する。
此処まで………まさか…!?
結界を張った事により、気配は元より魔力も漏れ出る事は一切無い筈なのだが、魔獣は迷うことなくカルマを追跡して来ている。
この状況になって初めて何かされていたのかと疑う様になったカルマは軍服を脱ぎチェックした。
「何も無いだとぉ!?」
魔獣にしか解らない様な発信機の類を仕込まれたのかと疑ったカルマであったが、何処を探してもそれらしき物は無い。
面倒な…
幸いな事に廃墟を取り囲んだまま動くことはない魔獣に警戒しつつ、どおやって天音を仕留めるかを思案するのであった。