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気が付いたら幽霊やってました  作者: 京子
第9章 レイの過去
155/218

番外編 漫画王決定戦〜最終結果

本戦審査会場


「困りましたね」


そう呟いた審査委員長の箕浦和歌子は顔の前で指を組みその上に額を乗せてため息を吐く。

ため息の正体は1位が2人いるためだ。

それなら決選投票にして白黒着けるのが普通なのだが、その結果が同点だったのだ。

決選投票は審査員が何方の漫画が良かったかを投票する仕組みであり、審査員の数が奇数の為に同点とはならない筈なのだから同点にはならない筈だ。

何故そんな結果になったかと言うと、審査員の1人が白票を投じたからに過ぎない。


「気持ちは解るのだけど、白票はダメよ!」


白票を投じた理由は当然ながら甲乙つけ難く決められないと言った理由だろう事はハッキリしている。


「もう、同点1位で良いじゃないですか

コレ以上はやっても無駄ですよ」


そう言ったのは室田猛だ。

彼が白票を投じた訳では無いが、白票を投じた理由は痛い程解る感じだった。

室田の言葉で審査が紛糾するかと思われたが、以外にも同意する言葉が続出したのだ。


「・・・仕方ないですね・・・じゃあ、1位は同点で2位が3位って事で良いですか?」


和歌子が諦めた様に言うと異議なしとの言葉が続出したのだが、そうなると賞金の問題が出て来る。

賞金の問題があるから白黒着けたかったのだが、こうなってしまってはどうしようもない。


「仕方ないですね…足りない分はウチが出させて貰います。その代わり、連載のオファーは此方の方で出させて頂きますのでご了承下さい」


そう言い出したのはA出版の編集長を務める真田厚さなだあつしだ。

真田は当然の権利を主張したまでに過ぎないが、他の審査員からクレームが出てしまう。

1位の作者を抱き込むと言う事はそれ相応の利益を生む事を意味するのであって、追加の料金を支払っても直ぐに元は回収出来る算段だからだろう。

賞金についてはスポンサーで折半し、その上で各々思った作者へオファーをすると言う事で決着が着いた。


こうして審査が終了し、その後の手続きに入る審査員達。



「間違いない…この作品はモモちゃんが絡んでる…行かなきゃ…」


TEAM.Tの作品を前に呟く和歌子は俊哉の部屋へ赴く事を決めたのであった。


………

……


「そろそろ通知が届く筈だよな」


発表は審査結果の書類が届き、後日ネット上で発表の流れになっていて今日の10時過ぎには届く筈なので今か今かと書類が届くのを待っていた。


部屋には俺、俊哉とミキと香菜が居た。


香菜の彼氏である優は男として黃瑠璃庵でバイトをしている為に此処には居ない。

香菜は今後、俊哉と組んで漫画の原作を担当する事になっている。


ピンポーン


インターホンが来訪者を告げるとミキが応対すべく玄関へと向かった時…


「俺は…」


唐突にレイの強化型分身体が語り出した。

レイやコヨミは漫画の制作に協力すべくこの部屋に強化型分身体を残しているのだが、最近は部屋の片隅で大人しくしているだけであった。

それが今になって動き出し、自らのことを話し出したのだ。

ソファーに座り話し出したレイの言葉を一言一句聞き逃さまいとICレコーダーを使い録音する俊哉それに対して速記でノートに書き込む香菜。


何?何が起きたの?


受け取った書類を俊哉に渡すべく戻って来たミキは真剣になってレイの話に耳を傾ける二人の雰囲気に気圧されてしまい、書類を渡す事を忘れてレイの話に耳を傾けてしまう。


「す…すげぇ…」


「どおやって原作を書きましょうか…」


「てか、今は魔界に居るって言っていたな…」


「えぇ…その話も後で訊かなきゃですね」


一通り話し終えた後、レイは定位置に戻って動かなくなってしまう。

トンでもエピソードを聴いて驚きを隠せない二人に対し、信じられないと言った表情のミキが口を開く


「まさか…オカ研幻の3代目部長がレイだったなんて」


「「幻の?」」


「そう、オカ研の功績は周知の事実だけど、その殆どの功績は3代目だったって話なのよ…然し、3代目はその存在自体無かった?みたいにされていて功績は本物だったのだろうけど、それを上回る悪事を働いていたのだろうから記憶からも抹消されてしまったのだろうと言われていたの」


強欲が達人を知る全ての人達から達人ノミの記憶を食ったおかげで達人の存在自体無かった事になってしまっているのだが、どおやら完璧に食えたと言う訳では無かった様で薄っすらと覚えている人(当時のオカ研メンバーが主)がいた。然し、どんな人間だったかは思い出せない為に幻の3代目と言われていたのだ。


「驚いた…」


「原作に書き起こすのに苦労しそうですよ

それだけに、やりがいは有りそうですけど」


「あっ…そうそう…俊哉コレ…」


「ン?あぁ…レイの話が衝撃すぎて忘れていたよ」


つい、夢中になり過ぎて画王決定戦の通知が来ていたのも忘れていた俊哉だったが、今日の本題は間違いなくこの書類だ。


ゴクッ…


緊張のあまり生唾を飲み込みながら書類が入った封筒を開封し、中身を取り出す。


エントリーNO.2000番

TEAM.T様

この度は画王決定戦にご応募して頂き誠にありがとうございます。

本戦での審査結果が確定致しましたのでご報告させて頂きます。


結果


第1位


おめでとうございます。


尚、賞金の受け渡し方法等は、後日ご連絡差し上げますのでご了承下さい。


確かに書類にはそう書かれていた。


喜びたいのに喜べないと言うより嬉しすぎて言葉が出なかったと言った方が早い。

何時の間にか背後から通知を見ていた強化型分身体のコヨミが俊哉の背中をポンポンと叩き「おめでとう良かったね」と優しく声をかけると感極まったのかその場で男泣きをしてしまう。

いきなり泣き出してしまったので慌てるミキと香菜であったが、コヨミの態度で男泣きの理由を知り安堵する。


「今夜はお祝いだね

優くんにも連絡しておかないとね」


「そうですね

特上寿司でも注文しましょうか」


「後、お酒も買ってこないと」


「もう、こんな時間?出前の注文間に合うかしら?」


「優も呼ばないといけないね」


レイの話が長かったせいか、気付けば日は落ち夜の帳が辺りを包み込んでいた。安堵したのも束の間、室内はお祝いムードに変わりミキと香菜が寿司の出前とお酒等の買い出しに動こうとしていた


その時


ピンポ〜ン


突如として現れる来訪者に誰が来たのかと俊哉が対応すると、来訪者は箕浦和歌子だったから驚くしかなかった俊哉は取り敢えず招き入れる事にすると何かを察したのか香菜が和歌子にお茶を出す。


和歌子が来訪した事により、お祝いムードが失せ部屋の中に緊張感が漂い始め、流石に気付いたのかレイが動き出したが何故かコヨミは動かない。


「この度は誠におめでとうございます

とても面白い作品でした」


先ずは祝福の言葉を述べる和歌子にありがとうございますと返す俊哉に対して


「早速ですが、この作品に朝田桃子さん…いや…海野玲奈さんの影響が見え隠れしているのですが、どお言う事ですか?」


と、問い質してくる。

そんな事を言われると思っていなかった俊哉は最初こそ「何のことですか」とスットボケた。

この事はコヨミとの約束で何があっても作品にコヨミが絡んでいる事をバラしてはいけないと約束をしているからだった。

然し、和歌子は俊哉の言葉を信用していなかった。


「この作品の構成…そして、途中のセリフの言い回し…何よりもこの話は私も覚えている!」


俊哉達が応募した作品はコヨミが体験した実話を基に描かれていたのだが、実はその話はまだコヨミが漫画家をしていた頃に和歌子と共に体験した事であり、真相の凄惨さに流石に漫画に出来無いと判断しお蔵入りした話をコヨミが流れそのままに内容を改変して応募したのがこの作品なのだ。


和歌子が此処まで話し終えると、何を思ったのかレイが和歌子の中に入り込んだと同時にコヨミが動き出す。


「お久しぶりね…まさかあの話を覚えているとは思わなかったわ…てか、審査委員長の名前は知っていたけど、同姓同名の人だと思っていたのに」


コヨミが和歌子に話し掛けた事により状況を把握した俊哉達は成り行きを見守る事にしたのであった。


「まさかあの話を出して来るとは思っていなかったわ…でも、未だに幽霊としてこの世を彷徨っているなんてね…サッサと成仏しなさいよ」


「だが断る!

相手の事情も知らずに自分の意見を押し付けようとする所は変わってないのね…」


「だが断る!って…死んだら成仏して次に進むのが当然だって言ったのはモモちゃんじゃないのよ!サッサと成仏しなさいよ!」


「だから…こっちの事情も知らずに成仏成仏って喧しいわ!こちとら旦那も娘もいるっての!それに目的があるから断るって言ってんの!」


「幽霊になってまで家族って…まさか…!?」


「そうよ!?あの時のブツブツさん…あの幽霊が旦那よ!?」


「話は訊いていたけ…ど…って…私って見える人ではないのに何でモモちゃんが見えてんの?ねぇ…何で?って…アレッ?見えなくなった…逃げたの?

アッ…また見える様になった…何をしたのよ!?怖すぎるじゃない!?」


「わかちゃんがアタシを見えているのは旦那が中に入って見える様にしてくれているからなのよ」


「エッ…マジ!?」


「マジだ…」


「エッ…誰…何で私の中から男の声が聴こえて来るの!?」


「はじめましてになるのかな…?

俺がそのブツブツさんだよ…今はレイって名前で呼ばれているよ…アンタは俺の目を通してコヨミを見ているって訳だ

勘違いしてもらっては困るから言っておくけど、入っているだけで何もしないから安心してくれ」


そんな事を言われても目に見えない者が自分の中に入り込むなんて事は気持ち悪いとしか言いようがないが、出て行って貰えばコヨミの声も姿も何も感じられなくなってしまうので、コレは仕方のない事なのだと自分自身を納得させ話を続ける和歌子。


「シッカし、わかちゃんが編集長で画王決定戦の審査委員長だなんて…ハルマゲドンの前触れかしらね…飯塚さんとは結婚出来たの?子供は?」


普段は真面目で誠実で頑張り屋の和歌子には婚約者がいてコヨミが高校卒業して少しした頃に結婚する予定であった。それを覚えていたコヨミが興味半分で問い質して来た途端


「あのクソゴミ男の事は言わないで!

今でも思い出すだけでムカついて仕方ないから!」


と、般若の表情になり怒鳴り散らしたのだ。

この豹変ぶりには流石に驚いたコヨミもそれ以上は突っ込む事が出来なかったが、レイが和歌子の深層心理の奥底まで覗いてしまい、後に何があったのか知ることとなるが長くなるのと、話が脱線してまうので割愛させて貰います。


ただ、トンでもないレベルでの修羅場と復讐劇が展開された事は間違いないとだけ報告させて頂きます。


「あの…掛け合い漫才の途中誠に申し訳ありませんが、私達これから食事に出掛けたいので話は後日と言う事にしてもらえませんか?」


話が終わりそうにも無かったので香菜が止めて何だかんだで時刻は20時を過ぎた所。

朝から殆ど食べてかなかったのも手伝ったのか、話が途切れたタイミングを見計らった香菜が和歌子にやんわりとだがハッキリと帰れと言うと時計を見て平謝りした後、お詫びにと言う事で合流した優を含めてみず乃へ連れて行き和歌子の奢りで料理を振る舞った。


「香菜さんでしたね」


「はい」


「アナタは今後、芳賀先生と組んで漫画の原作を書くと言う事で良いですか?」


「はい、そのつもりです」


「そうですか…解りました」


食事をしながら和歌子が香菜に問い掛けると真っ直ぐに和歌子を見つめて香菜が返事をすると、少し考えて解りましたと1言言っただけに留まった。


その後、賞金の受け渡し等のイベントを滞りなく済まし数社からオファーを受けたTEAM.Tはそこそこ有名な出版社と株式会社オタク 出版部から出ている月刊誌で漫画を連載する事となったのであった。


後に俊哉はこの事を振り返り


「銭亀様と皆さんのおかげで漫画家を続ける事が出来ました」


と語っていたと言う。

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