第142話 過去へ4
不幸中の幸いとでも言うのだろうか
達人は3針縫ったが他には異常なしと医者からのお墨付きを貰い、昌子と共に帰って行った。
二人を見送った敦子は公衆電話へと行き校長へと連絡をする。
「被害届けは出すと言ってましたか?
・・・そうですか
・・・解りました
理事長にはその旨報告しておきます
ご苦労さまでした」
敦子からの報告を受けた校長は暗鬱な気分になっていた。
敦子から受けた報告は当然ながら理事長に報告しなければならず、理事長の怒りの的になってしまうのは火を見るより明らかだ。
されど報告をしなければ自身の首が飛ぶ可能性がある。
「そうですか…では、鮫島先生は懲戒免職ですね
ところで、何故貴方がたは鮫島先生と匠くんの関係に気付けなかったのですか?」
校長の報告を聞いた理事長の判断は即決であったが、此処で以前より匠家の方から相談されていたとネタバラシをした後で校長を責め立てたが、そこは鮫島がバレない様に上手くやっていたし教職に関しては非常に優秀であったが為に裏でそんな事をしていた等と疑う余地も無かったのだ。その事を訴える校長に対して
「鮫島先生には私が引導を渡します
明日、連れてくるように
それと、監督不行届に関しては学園祭終了後に言い渡しますから覚悟しておく様に」
と、言われてしまいガックリと項垂れる。
………
……
校長と理事長がそんなやり取りをしていた頃、昌子と共に帰宅した達人は工場長の天野太陽と作業員の大嶽敬之そして昌子に弄られていたのだが、相手が鮫島と解った途端に流れが変わる
天野「こりゃまた派手にやられたなぁ」
達人「背後からいきなりでしたからモロに食らっちゃいましたよ」
大嶽「社長の制裁とどっちが痛かった?」
達人「それは…」
昌子「まぁ、コレくらいで死ぬ様なタマじゃないから心配していなかったけど相手が変態鮫島だからなキッチリと落とし前着けさせにゃならんな」
大嶽「鮫島?…あの20年落ちの車を後生大事に乗り回している化石野郎ですかい?」
天野「野郎は修理費を踏倒そうとしているみたいだから訴えようって真智子の姐御もカンカンにお怒りですよ」
大嶽「姐御は坊っちゃんがアイツに良いように使われているのが気に食わないのですよ」
昌子「達人に鮫島の車の面倒を見てやれと言ったのはアタシだけど、調子に乗って俺の女になれなんて巫山戯たこと言い出したからな落とし前はアタシが着ける」
天野&大嶽「はぁ!?
舐めるのも大概にせぇや!!」
昌子「落ち着け!
車を弄らせていたら稼業を継ぐ気になるかなと思ったからなんだけどさ…どおしても考古学者になりたいんだと」
天野「まぁ、坊っちゃんの好きにしたら良いさ…寂しいけどな」
大嶽「その代わりと言ったらなんですけど、俺達が目一杯匠自動車を盛り上げて行きますよ」
天野「然し、鮫島のヤロー許せんな」
大嶽「やり過ぎはダメですよ社長」
昌子「解ってるよ
真智子が待っているから達人は部屋に戻ってシッカリと癒やして貰いな」
大嶽「ヒュー(笑)モテる男は違うねぇ(笑)」
天野「デキ婚だけは勘弁してくれよな(笑)」
達人「勘弁して下さいよぉ〜」
男勝りの昌子と軽いノリの天野と大嶽の3人のやり取りを黙って聞いているしかなかった達人に後のことは任せてお前は戻りなと昌子が言うと天野と大嶽が途端に茶化しだしたので逃げるように部屋に戻る。
3人が言う真智子とは大野真智子 19歳と言い、達人の先輩に当たる。もっと言うなら、達人の恋人であり、見た目はボンキュッボンのナイスバディの持ち主。
達人と出会う前はその容姿に釣られた男子生徒に対してオカ研に入ってくれたら考えてあげるとフッていたことに対しての腹いせに体を武器にオカ研に勧誘する危ない女と噂を流されたことから付いたあだ名が妖怪エロノミー。
意味は言わずもがな”思考がエロを中心で成り立っている”からだそうだ。
達人との出会いは入学式の日に肩に付いた毛虫を取ってくれたことがきっかけで完全に真智子の一目惚れである。
真智子にとって達人がオカ研へ入部して来たのは全く予想していなかったことであったことは明記しておく。
元よりオカ研へ入部希望であった達人は真智子が誘惑する前にあっさりと入部していまい、真智子は誘惑するのではなく交際する方向に切り替えて猛烈にアタックし、半年かけて交際することに成功した。他の部員はそんな真智子の行動を天変地異の前触れだと恐れ、達人のことを密かに”生贄”と呼んでいたのであった。
真智子が高校3年になり就職活動を始めると昌子が
「達人の嫁になりたければ家の仕事を手伝え」と半ば強引に口説き落として匠自動車の事務員として雇う事になり、匠自動車社員全員の公認カップルとして生暖かい目で見守られている。
昌子曰く
「息子を誘惑した罪は償って貰わないとな」
と、言っていたから逃げる事は出来ないだろう。
自室に戻った達人を達人のベッドに座った真智子がムッチリとした太腿をペチペチと叩く。
この真智子の仕草は膝枕してあげるから横になりなさいと意味があるが、達人には拒否する権利は有していない。
なので、必然的に真智子の膝枕で横になる達人。
何時もなら、そこから他愛もない話をするのだが、今日はちょっとだけ怒っている様だった。
達人に何がどぉなってこおなったのかを根掘り葉掘り尋問する真智子に覚えている限りの事を答えたのだが、警戒心無さすぎと言われてペチッと額を叩かれてしまう。
「恩を仇で返された気分だし、ぶっ殺してやりたいけど制裁は母に任せるよ
治療もそうだけど、学園祭の事に集中したいからさ」
「まぁ、元々制裁はするつもりだったけどね
今回の件で罪が増えたねアイツの人生終わったよ」
「同情する気も起きねぇな」
鮫島に関してはこんな事にならなくても制裁はする予定だったのだそう。
理由は「修理費の未払の累積」と「昌子に対して交際を迫っていた」の2つ。
鮫島の考えは昌子と関係を持つ事によって修理費を値切るかチャラにしたいとの目論見もあった様だとの事。
「でも、何をしてくるか解らない以上、警戒する必要があると思うよ?学園祭の邪魔とかさ」
「やりかねんな…正人達と相談しておくよ
それより、そろそろ寝たいから退いてくんない?」
「だぁ〜め
と言いたいところだけど、怪我しているからね
今日は添い寝で許してあ・げ・る」
「チョッ…帰れよ…マジで寝れねぇだろうが」
「そろそろ馴れて貰わないとね」
「オマッ・・・」(トンでもないのに魅入られた様だな…俺…)
真智子と話すことにより、今日の出来事で苛ついていた気持ちを鎮める事が出来た達人は寝る為に真智子を追い払おうとしたのだが、真智子が発する妖しいオーラに包まれてしまい、寝るどころではなさそうだ。
………
……
翌日
生徒1「昨日 匠のヤツが鮫島に襲われたって知ってる?」
生徒2「マジで!?何で?」
生徒1「さぁ?事情は解んねぇけど猿渡のババァが匠を病院につれて行ったようだぞ」
生徒2「それで噂になったってか?」
生徒1「それもそうだけど、オカ研の部室での修羅場がカナリ凄かったらしいぞ」
生徒2「見たかったなぁ〜」
生徒1「同感」
学園内は達人が鮫島に襲われたと言う話でもちきりとなっていた。
そんな事もあり、学園側は事態を収集すべく午後から全校集会を開き今回の経緯と鮫島の処分について公表したおかげで事態は沈静化した様に見えたのだが…
事件は終わってなかった
学園祭2日前
「ウオッ!
ナンッッッッッジャコリャァ〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?」
オカ研部室から学園内に響き渡る様な大絶叫が聴こえてくる。大絶叫の発信源は達人ではなく繁。
繁の大絶叫を聞き付けた近くに居た生徒と市原が何事かとオカ研部室に雪崩込んで来たかと思ったら驚愕の表情に変わる。
それもその筈で部室は荒らされ、苦労して作成したジオラマが破壊されていたのだから無理もない。
更に、学園祭で販売する予定の妖綺譚が全て盗まれていたのだ。